第7話 沙耶



「どうぞ」


 沙耶の言葉に従って、家に上がる。


「こちらです」


 沙耶は迷うこともなく階段を上がっていき。

 翠の部屋のドアを開けて、郁斗を連れて中に入った。


 白とピンクを基調とした、安心できる色彩の落ち着いた部屋。

 ベッドと机とパソコンと、タンスにクローゼットがある。

 以前と変わりない様子だった。


「不用心ですよね。見られたらまずいものがあるんだから、鍵くらいかけたらって思います。外では警戒心が強いけど、家の中だと途端に緩んでしまうんです」


 言いながら沙耶は両開きのクローゼットをガーっと開いた。

 一目で高級品だとわかる色とりどりのワンピースやスカートが、並んで吊り下げられている。


 その下に。

 怪しげな段ボール箱が幾つか。


 沙耶がその段ボールを開いた。

 沙耶の促しに従って、恐々とのぞいてみる。

 ピンクや青や紫の、色とりどりの大人のおもちゃが満載だった。


「はい」


 沙耶が躊躇する様子もなくその中の一つ――いかつくてぶっとくごてごてとした男のモノを模したおもちゃを差し出してきた。


「大丈夫ですよ」


 沙耶が安心してくださいと、笑みを見せてくる。


「未使用ですから。お姉ちゃんの愛液とかついてませんから」


 年端もいかない中学生美少女の言葉に驚愕しながら、郁斗はおずおずとソレを手に取ってみた。


 知識にはあったし、動画で見たこともある。だがそれに触れるのは初体験だった。

 翠はクラスであんなに愛想を振りまきながら、こんな恐ろしいものを使用しようと企んでいるのか……今更ながらあきれるというか、それに引っかかった自分の立場を思いやる。


「お姉ちゃん、あれで初めては大切な人にあげるんだって譲らないんです。欲望まみれで本当は大人のおもちゃとか使ってみたくて仕方ないくせに、そういうところは意固地なんです」


 言った後、沙耶が隣の箱を開けた。


「こっちはDVDです」


 見てみる。


『生徒会長はソープ嬢――同級生と一緒に泡まみれ――』

『私、同級生にパンツ奪われました』

『陵辱痴漢電車――私、満員電車で同級生に痴漢されちゃいました』


「………………」


 郁斗は無言でパッケージを見た。

 翠に似た黒髪ロングの制服美少女が、アレな恰好でアレなことをされていたりする。


「そのDVDはレアなものでネットには動画が転がってないんです」


 沙耶が立ち上がった。

 そのままタンスの前に立ち、引き出しを引っ張り出す。

 見覚えのある、郁斗が翠に提供したパンツが、一枚一枚ビニール袋に包まれて並んでいた。


「こうしないと匂いがとんじゃうんだそうです。大切なものだから、大事に扱いたいんだって」


 並んでいるのを見ると壮観ではあったが。

 流石にここまでされているとは思っていなかった。


 沙耶が机のパソコンの電源を入れる。

 カチャカチャといじって。

『淑女フォルダ』と名前がついている、その中身が表示された。


 男性イケメンの水着とか、男女のカラミの画像とか、少女の裸の写真とかが、ずらーっと並んでいた。


 Cドライブが満杯近い。

 沙耶がクリックした。

 画面が開いて動画が動き出す。


「あっ……いやっ、ダメ……」


いきなりの音声が流れ出す。

郁斗は、翠の部屋の中心で、無言で立ち尽くした。


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