第4話 春香
と思った瞬間――
ガラリと保健室の扉が開いた。
冷水を浴びせかけられて、振り向く。
仁王立ちの高瀬翠が、そこにいた。
翠はずいずいと二人に近づいてきて、
「そこまでよ」
短く言い放った。
「私のいない間に郁斗に近づいて。泥棒猫みたいなことしてくれちゃって」
翠が春香にきつい眼光を注ぐ。
「私が知らないとでも思っていたの?」
「私……そんなつもりじゃ……」
春香がたじろぎながらも抗弁する。
翠は攻めを止めない。
「色仕掛けで郁斗を落とそうと思っても無駄。郁斗は私ともう、それは貴方みたいな初心な少女が想像もしないような物凄いプレイとかしちゃってるの。穴という穴に突っ込みまくりなの」
そのセリフに郁斗と春香が絶句する。
春香は、しゅんとなって押し黙った。
「郁斗は図書館じゃなかったの?」
ジト目で翠が顔を向けてきた。
この段階で郁斗はようやく正気に戻り、まずいと思い始める。
「いや……それがだな……」
翠の冷え冷えの瞳は冷たくなるばかりだ。
「……すいません」
郁斗は素直に謝った。
「よろしい。未遂だから許してあげる。『もうしません』は?」
「……もう浮気しません」
「よろしい。許してつかわす」
翠が容赦を見せてくれた。
「貴方もね。もう郁斗にちょっかい出さないで」
「……は……い……」
春香はうつむきながら、言葉を途切れ途切れに出す。
下着姿の春香を後に残して。
郁斗は翠に引きずられるようにして、保健室を後にした。
翠に従って、その後ろを歩いている。
「あんなのに引っかかっちゃダメ」
翠が前から口にしてきた。
「私が何も知らなかったと思っているの?」
「いや、そうは思ってなかったが。でも、よく保健室だってわかったな」
「それは監視カメ……。ゲフン、ゲフン」
わざとらしく咳でごまかした。
「盗撮かよっ!」
「そうよっ! 悪いっ! 私には全校生徒男子の行動をチェックする義務があるのっ!」
「ねーよ、そんなもんっ! ってゆーか、盗撮はやめろっ!」
「いやよ……」
翠がぷんっとそっぽを向いた。
「人間、欲望には逆らえないものよ」
「前にも聞いたようなセリフだが……。俺がいくらでも見せてやるから、やめろ」
翠が立ち止まった。
少しうつむいて、考える様子を見せて。
「ほんと……?」
素直に尋ねるという調子で聞いてきた。
「本当」
「じゃ、じゃあ、郁斗の前とか後とかいやらしいところとかじっくりみて写真撮って眺めるから。郁斗が着替えているところとか、観察して、その……トイレとかも……一緒に個室に入るから。それでも、いいの?」
「いいっ! だから盗撮とかやめろ。本気でまずいから」
「……わかりました」
翠が素直にうなずく。
後、ふふっと嬉しそうに笑って腕を組んできた。
「嬉しそうだな……」
郁斗は、あきらめ気味につぶやく。
「嬉しいのよ。この後イベントもあるし」
「イベント? なんだそれ?」
「すぐにわかるわ。郁斗も大喜びよ」
会話しながら、廊下を進んで生徒会室に入った。
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