第11話 お風呂

 


 翌日の放課後。

 半ば強制的に翠の自宅に連れてこられた。


 翠は郁斗を自室に連れ込んでベッド淵に座らせる。

 自分も隣に座って、


「ちかいぞ」


 その郁斗の抗議は無視して、切羽詰まった様な顔を向けてきた。


「昨日の郁斗の痴漢の余韻がおさまらないの」


「痴漢じゃねーよっ! お前の命令だろうがっ! 人を痴漢呼ばわりするなっ!」


「じゃあ、痴漢プレイ」


「同じじゃねーかっ!」


 まともに相手にしているのがかなり馬鹿みたいに思えてくる。

 郁斗は翠から顔を背けて不機嫌だという気分を表した。


「昨晩ほとんど寝付けなくて。その……体の火照りが収まらなくて、一人プレイとかいっぱいしたんだけど治まらなくて」


 翠は外では到底考えられないような言葉を何の抵抗もなく向けてきて……


 確かに、と郁斗は思っていた。

 昨日の電車での行為はあまりにも衝撃的だった。

 正常だとは思っている自分でさえ、その感覚にとらわれてなかなか眠れなかった程だ。

 だから翠ならば残っていた僅かな正気を失ってしまってもやむを得ない。


「あまり聞きたくはないが……」


 郁斗がじろりと目だけで見やる。


「とりあえず突っ込んでやる。一人プレイってなんだ?」


「ぽっ」


 翠はわざとらしく頬に両手を当てて赤く染める。


「それで俺がまた騙されるとか思ってんのかっ!」


 たまらず郁斗が声をぶつける。

 翠は郁斗に向き直って言い放ってきた。


「だから、お風呂プレイで発散させます」


「はっ?」


「お風呂プレイです」


「だからっ! 何だよお風呂プレイって!」


「一緒にお風呂に入って、背中の流しっことかします」


「ソープじゃねえかっ!」


「大丈夫。スクール水着着るから」


 にこっと、翠は天使の笑みで悪魔の言葉を吐く。

 郁斗は何と答えてよいかわからない。

 この女は自分が何を言っているのかわかっているのか、と疑問に思う。

 完全に頭のネジが何本か跳んでいる。


「いやっ?」


 翠が涙目ですがるような表情を向けてくる。


「……断ったらどうする?」


「バラまきます」


 にっこり笑った。


「わくわくしてきた。郁斗もすごく興奮してきたでしょ」


「俺にも純情ってもんがあるんだよっ! 淫乱女に無理やりとか趣味じゃねーんだよっ!」


 言ったはいいが、郁斗と翠のエロ写真を学校とかネットとかにバラまかれるのは避けなくてはならなかった。

 渋々、


「水着きて背中流すだけだからな」


 翠に言い捨ててベッド淵から立ち上がった。



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