第8話 デート
さらに一週間が過ぎ。
二人だけの昼休みの生徒会室で。
いつもの様に郁斗がパンツを脱いで翠に渡している。
考えていなかったのだが、渡すパンツ代が捻出不可能であることに気付いてからは、翠にお小遣いとして下着代をもらうようになっていた。
男娼のようで、というか男娼そのもので不本意ではあるが、やむを得なかった。
さらには翠。
最初はパンツを受け取るだけだったのだが、徐々にエスカレートして受け取ったパンツの匂いをその場で嗅ぐようになり……
今では恍惚とした時間を楽しみにしているようであった。
「ふうっ」
と翠がパンツの匂いを堪能して吐息する。
「郁斗の匂い、身体の芯にすごく響いてドキドキする」
満足だという様子の翠。
「あーそーですか」
郁斗が棒読みで返すと、
「お礼にご褒美あげる」
翠がにっこり微笑んできた。
その笑顔に一瞬ドキッっとする。
変態だとはわかっていても、あらがい難い魅力もあるのが翠であって、正直侮れないと思い直す。
性根を入れて対峙しないと、絡めとられかねないと念を入れる。
「デート」
翠が短いけど威力のある言葉を発してきた。
「デートしてあげる」
「デート?」
「そう。デート。私も年頃の女の子だから年頃の女の子がするような体験もしてみたいの? 変?」
「いや……」
郁斗はなんと言ったらよいかわからず口ごもる。
「決まりね。明日午前七時に駅前の改札口で待ち合わせ」
「あしたとか学校あるじゃねーか!」
思わず正気に戻って声にした。
「一日くらい平気よ。それとも郁斗は私とデートよりも授業を選ぶの?」
「学年トップ様はお気楽なことで」
郁斗は言ったが、もう明日の授業に出るのは無理だなと諦めていた。
「デート、楽しみね」
翠が天使の笑顔で郁斗を見上げるように微笑んでくる。
「俺はお前の恋人じゃねーぞ。捏造写真バラまかれるのがまずいから、お前の事何とか真人間に戻したいとそれなりに思っているから付き合うだけだ。そこんとこ、勘違いするなよっ!」
「はいはい」
翠がにこやかに答えてきた。
「デートすればそんな悩み一瞬で吹っ飛んじゃうわ。郁斗、女の子とデートしたことある?」
「ねーよ」
「私もデート、郁斗が初めて」
「そうか……」
郁斗も、翠の言葉に思いが走る。
割と真面目に相手をしなければ悪いかと考えた。
「明日は一杯楽しみましょ」
「そう……だな……」
郁斗も翠に同意した。
明日のデート。
今まで振り回されっぱなしでどんなことになるかはわからない。
が、それを少しだけ楽しみに感じている自分を、郁斗ははっきりと感じていた。
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