第7話 小説



「どうだった?」


 翌日の昼休み。

 二人で生徒会に入った途端、翠が顔を輝かして聞いてきた。


「私の小説。読んでくれたんでしょ」


「………………」


 郁斗が無言のジト目で答える。


「読んでくれたんでしょ? どうだった? 感動した? 実用性は?」


 翠が次々と攻め立ててくる。


「……一言だけ聞いておく」


 郁斗が冷えきった言葉を返した。


「実用性って、なんだ?」


「ぽっ」


 翠が頬に手を当てて、恥ずかしいという仕草を見せた。


「女の口からそれを言わせるの? 郁斗そういうプレイが好みなの?」


「ふっざけんなーーーーーーっ!」


 郁斗は我慢できずに爆発した。


「お前が真面目に言うから、真剣に読まなきゃって思ってたんだ。結構よさげな恋愛小説だったら、お前の事見直さなきゃなとか思ってたんだ。俺の純情、返せよっ!」


「なによっ!」


 翠が頬を膨らます。


「感動的で実用的な恋愛小説じゃないっ! あれ読んだら一晩中、感動と興奮で眠れないはずよっ!」


 じっと、翠が睨み付けてくる。


「郁斗……女に興味ない変態なのっ?」


「感動と実用性は別物だっ! アレにはそのどちらもないっ! 頭のネジどっかとんでんじゃねーか?」


「あっ!」


 翠がわかったと言わんばかりに手を叩いた。


「実は昨日も何回か『ハッスルした』んでしょ、私の小説で。でも文芸部の郁斗としては悔しいから認めたくない。そうでしょ」


「一人で勝手に納得するなっ!」


「私も自分の小説書いているとき、想像して一人でしたりするもの」


「俺の話、聞けよっ!」


「ふんふんふん♪」


 翠が鼻歌を鳴らし始めた。


「分かっちゃったもの。郁斗、もう私、じゃなかった、小説のヒロインにメロメロでしょ。布団の中で妄想で前から後ろからしちゃってるでしょ」


 翠が気分良さげに音を奏でる。


「こんなのが……」


 郁斗は愕然としていた。


「学年一位の正体なのか……。こいつが現代国語Aで、俺がCなのか……」


 納得いかない事実に、郁斗はしばし立ち尽くした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る