第4話 学園
「お前かよっ!」
誰もいない、社長室の様に豪華な生徒会室に入った途端に、郁斗が声を上げた。
「盗むなよっ! っていうか、また男子パンツかよっ!」
「仕方ないでしょ! 人間欲望には勝てないのよっ!」
翠が隠す気は微塵もないという様子で正面から言い放ってくる。
「頼むから盗みはやめてくれ」
郁斗が責める調子を少し緩めると、
「なら貴方がよこしなさいよ、使用済みパンツ」
翠が悪びれる様子もなく言ってきた。
郁斗は思った。
パンツを翠に渡すのには正直物凄く抵抗がある。
だが翠に盗難を続けさせるわけにもいかない。
俺はここまで堕ちなくてはならないのか。
天を仰いだ後、
翠に後ろを向いていてくれとだけ言って、ズボンとパンツを脱ぐ。
ズボンだけまた履いて、
「ほら」
とトランクスを差し出した。
翠が「すごい。言う事直ぐ聞くのね。変質者みたい」と真人間の様な声を出し、でも郁斗のパンツはひったくった。
郁斗が反撃のチャンスとばかり、
「言うだけ言ってパンツは取るんだ。ふーん」
と翠をねめつけるような言葉を出すと、翠は頬を染めてもじもじしながら、
「郁斗の匂い……その……気に入っててとても興奮するの……」
羞恥に染まった抑揚を出してきた。
郁斗はさらに思った。
恥ずかしがっているのは乙女っぽいが、乙女っぽいだけで言葉はそのまま変質者だから。
翠が郁斗のパンツを両手に持って胸に当てながら、お願いするようにもじもじと続けてくる。
「もう盗みしないから……」
「しないから?」
「郁斗の使用済みパンツ、毎日私によこしなさいっ!」
言い放ってきた。
郁斗は渋々頷く。
学内での男性下着の盗難は前から問題になっていた。
流石にもうこれ以上盗みを続けさせるわけにはいかないからだ。
「盗み、しないなら……」
言った郁斗に、翠がコクコクと激しく頷く。
そんなこんなで。
毎日翠に使用済みパンツを生徒会室で渡すのが、郁斗の日課になってしまった。
最初は驚いて戸惑って。
無理やり監視の為に恋人扱いになって。
徐々に翠の本当の姿が見えてくるにしたがって、もう関係はなくしたいという思いが、ダメだこいつ俺がなんとかしなくちゃとまで変化してきたのを自覚していた。
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