第2話 学園
翌日。
郁斗は自宅マンションを出て重い足取りで国道沿いを進み、中央公園を抜けてスロープを上り学園にたどり着いた。
正直、休もうかとも思った。
昨日の翠との出来事が衝撃過ぎて、ちょっと脳内と精神内で処理が追い付かなかったからだ。
だが、学校を休むとこのままじりじりと防戦一方になるというか、引きこもりにでもなってしまいそうで、覚悟を決めて出てきたのだ。
登校途中や教室では翠に出会わなかった。
ちょっと、ほっとする。
その日は週一の朝礼がある日だった。
講堂に生徒六百人が集合する。
その朝の講堂で、全校生徒が並んでいる前の檀上に翠が現れた。
制服の良く似合った、見目麗しいいつもの黒髪美少女だ。
その翠がいきなり自分の名前を呼んだ。
「如月郁斗さん」
凛として潤いのある、美しい響き。
「檀上へ上がってください」
周囲の注目が一斉に郁斗に集まる。
無視したかったが、衆目がそれを許さなかった。
しぶしぶ、郁斗は檀上に上がる。
翠に促されて、翠の隣に並ぶ。
この公衆の前でなら翠は論外なことはしないだろうという安心はあった。
が――
「私高瀬翠は、この如月郁斗君と付き合うことになりました。恋人同士ということです。ご了解ください」
いきなりの宣言をした。全校生徒の面前で。
講堂が煽り風を受けた様にどよめく。
いくら彩雲学園が自由な校風で生徒同士の付き合いにおおらかだといってもこれはあり得ない。
学園内で付き合っているカップルも多いが、これは郁斗の想像の斜め上を行く行動だった。
「昨日、郁斗のこと見張るっていったわよね」
翠が小声で口にしてくる。
「これで私は郁斗と一緒にいてもよくなったから」
存外の事態だった。
こいつは本気で自分の事を見張るのだと理解して愕然とする。
郁斗の、孤独ではあるが自由でもあった学園生活に暗雲が垂れ込める。
加えて学内には翠のファンも多い。
彼らを敵にしたことは確実だろう。
郁斗でさえ翠の正体がわからなかったときは、その言動に好意的で、容姿を眺めて楽しむことすらあったのだ。
翠が、郁斗の腕に手を絡めてきた。
「私に逆らったら、写真バラまくから」
満面の笑みで郁斗を見つめる。
衆目の前で、半ば引きずられる様にして。
檀上を後にした。
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