プロローグ2


 高瀬翠がいた。

 学校で飛びぬけて一番の美少女。

 いつも通りの青い制服。優美な姿。


 が、


 開いたロッカーの前で――

 男子のトランクスに顔を埋めて、目をつむって恍惚とした表情を浮かべていた。


 翠が鼻から息を吸い込む。

 二度三度四度と、大きくゆっくり呼吸を繰り返す。


 顔と身体を震わせ、感極まったというか絶頂に達しているという様子で。

男子パンツの匂いに夢中になっている変質者が、そこにいた。


 郁斗は目をこすった。

 瞬きをしてもう一度。

 何を見ているのかわからない。

 というか眼前の光景が理解できない。

 思考が追い付かない。


 と――


 今までパンツに夢中だった翠が目を開けてこちらを向いた。


 再び時間が止まった。


 翠は一瞬呆けたようなあっけにとられたような表情をした後、こちらにずいずいと大股で歩いてきて郁斗の眼前に達する。

 水着一枚の郁斗にのど輪をかけて、


「見たわね」


 眼光鋭く言い放った。


「それ……」


 郁斗が混乱しながらもなんとか言葉を絞り出す。


「それ?」


「俺の……パンツ……なんだが……」


「そう。貴方のパンツだったのね」


 翠は圧倒的な迫力で郁斗に迫ってくる。

 それ以上郁斗は言葉を出せない。

 ヘビに睨まれたカエルの様に、郁斗は翠の眼前で立ち尽くした。



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