ヘンタイ彼女の秘密を握ったら逆に脅迫されて恋人になってしまった

月白由紀人

プロローグ

プロローグ1


 彩雲学園高等部の二年三組。

 二学期も始まったばかりの午後の教室。

 高瀬翠(たかせみどり)が流麗な声を響かせて枕草子を朗読している。


 長く真っ直ぐな黒髪に整った面立ち。青いブレザーと膝上のスカートという制服もとても良く似合っている。

 均整が取れていて尚且つ女性らしい優雅な姿に、如月郁斗(きさらぎいくと)思わず見惚れてしまう。


 開け放たれた窓から風が舞い込んだ。

 翠の優美な黒髪がそよぐ。

 耳元の髪をかき上げる仕草が女らしさを演出している。


 翠はこの彩雲学園高等部で一年生のときから生徒会長で、成績も学年トップだ。穏やかでマイルド、かつ知的さも感じさせる性格で、容姿成績で人を区別しない。誰に対しても分け隔てなく接する、学園のナンバーワンアイドルだ。


 翠が自分の担当の部分を読み終えて席に座る。

 郁斗はこんなにも世界に愛される人間がいるのかと、少し憎らしくも思ってしまう。

 何一つ秀でた部分のない自分とは雲泥の差だと思わざるを得ない。


 終業のチャイムがなる。

 三時間目の古典の授業が終わった。

 郁斗は机に突っ伏す。

 昨晩は行きつけのネット投稿小説が面白くて夜更かししてしまったので眠い。

 ついうとうととして……


「如月君……如月君……」


 気づくと耳ともで旋律が流れている。名前を呼ばれていた。

 ふらふらと顔を上げる。

 高瀬翠が手を触れられそうな距離にいた。


 驚く。


「次の授業、男子はプールでしょ。みんなもういっちゃったわよ」


 見回すと教室には自分と翠以外に誰もいない。


「やべっ」


 郁斗は立ち上がって机横に引っ掛けてあったプールバックを掴む。


「サンキューな。高瀬さん」


「どういたしまして」


 天使の微笑を浮かべる。


 その眩しさに圧倒されながら郁斗は教室を飛び出した。

 男子更衣室で水着に着替えて制服等をロッカーに叩き込む。

 階段を上がって先生に怒られた後、室内プールでもう既に泳いでいる同級生を後目に準備運動を始める。

 シャワーを浴びてさあ泳ごうという段階でゴーグルを忘れたことに気付いた。

 体育教師にゴーグル取ってきますと一言告げて、階段を降りて廊下を進む。

 男子更衣室の扉を開けて――

 時間が止まった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る