第2話 地獄の再開、地獄の予告

なんだかんだでようやく教室に入ることができた。教室には担任の石上先生とクラスメイトがいる。石上先生がいたため、俺が教室に入った時、騒がしくなることはなかった。ナイス石上。初めて関わるけど。俺は心の中でそう呟いた。俺は無言で出席番号12番の席に着く。


「はい。みんなおはよう。今年2年3組の担任をします石上達郎です。1年間よろしくお願いします。えーですね、まず、簡単に石上の事を知ってもらおうかなと思います。石上は一人称が石上です。えーですので、石上は、石上は、とうるせーなこいつ自分の名前連呼してんじゃねーよと思われるかもしれませんが、あたたかく受け入れていただけると幸いです。個人情報といたしますと、32歳、独身、彼女いない歴=年齢です。趣味といいますか、石上はアイドルが好きなので、アイドルが好きな人は気軽に話してくださいね。えー、石上はこの学年の人と関わるのは部活の人以外初めてなので、簡単に自己紹介をお願いします。では、出席番号1番の人から、あいかわとうまくん?で合ってるのかな?えーお願いします。」


この石上ってやつなんか、嫌だな。オーラがなんか不気味な人だ。アイドルが好きなのはいいけど、アイドルが好きな人は気軽に話してくださいね。ってアイドル好きじゃないやつは極力プライベートみたいな会話をしないでくださいってことじゃねーか。んークラスの内輪関係とか無干渉ってスタンスっぽいな。当たりでもハズレでもない担任だな。


「俺は相川 斗真です。部活はサッカー部。今年、颯太と同じクラスになれて浮かれてます。1年間よろしくお願いしまーす。」


え、この自己紹介の時にも俺の事に触れるの?!先頭から、これかよ。うわ〜、嫌な予感しかしない。


「私は上田 瑞希です!部活はバドミントンしてます!私も今年颯太くんと同じクラスになれて浮かれてます!1年間よろしくお願いします!特に颯太くん!!」


やっぱな!!こうなると思ったよ!!俺はそう心の中で言いながら、上田さんがこっちに向けた笑顔を愛想笑いで返す。


そして俺の出番が来る。


「俺は北川 颯太です。部活は帰宅部です。えっと、1年間よろしくお願いします。」


は〜緊張した。やっぱ人前は緊張して嫌だな。でも、この自己紹介成功!!「えっと」をわざと挟んでやったことで、あんまり心から「よろしくお願いします。」と言っていない感じを出していくという高テクニックを使ったぜ。どうだ、周りの反応は。

俺は周りを見渡す。数秒後、


「よろしく〜〜!!!!」


とめちゃめちゃ大きい声で、みんなバラバラに叫び出す。え??俺は思わずポカーンとしてしまう。俺ちゃんとあの高テクニック使ったよね?!使ったよね?!そう自分に問いただす。おいおいおい、マジかよマジかよ、やっぱり俺はこうなってしまうのかー?!ホントに俺こんなモテモテライフいらないんだって!!そんなことを思いながら、顔には出さず、ニコッと後ろを向いて、次の人に自己紹介をするように促した。


俺の次の人達はみんな俺の事に触れ、自己紹介が進んでいく。そして、カーストトップの女の自己紹介がきた。


「私は鈴木 美彩です。部活はバレーボール部です。颯太くんもそうですが、みんなで仲良く1年間過ごしましょう。よろしくお願いします。」


鈴木さんは美人さと清楚さ、テストでも毎回1番、誰でも平等に接し、非の打ちどころがないという特徴で、カーストトップに君臨している。俺のカーストトップのイメージはギャル、ビッチ、校則違反当たり前、態度が悪い、といったものであったが、鈴木さんはそんなものが一切ない。俺は鈴木さんを同級生ながら、尊敬している。でも、憧れはしない。

そして、自称俺の取り巻き代表の番になる。


「はーい。みなすぁーん!俺はー颯太の取り巻き代表、中村翔太だよーん!部活は野球部だぜーい!みんなに一言。颯太に近寄る時は俺に許可を取ってから近寄れよ?じゃないとこの拳がお前達の顔面にホームランするかもしんねーぞ?!とりあえず1年間よろしくお願いしっまぁぁーす!」


中村は笑いながらこのように自己紹介し、クラスを笑いに包み込んだ。こいつは典定的な陽キャだ。この瞬間にこのクラスでの中心という立場を獲得した。


今年は自称俺の取り巻き代表2番手もいる。


「ハイハイハイハイ!はぁーーい!マジで翔太の後のこの空気で自己紹介すんのマジキツイわ!えー、とりあえず俺は野村 優斗。部活はバスケ部。しかも、次の部長!ってのは冗談で、翔太は颯太の取り巻き代表だったけど、俺はその2番手だぜ!!去年は颯太と違うクラスだったけど2番手までいってるんだわ。といっても翔太の上にいこうなんて思ってないんだわ。うん、これはどうでも良かったね。とりま今年よろしく!!」


中村の時と劣らないくらいの笑い声が教室に響いた。

野村もこの瞬間にクラスの中心に近い立場だと示している。てか、この2人同じクラスって俺、今年もこのモテモテライフから逃れられないじゃん!!2人揃ってるってことは去年よりも難易度高いじゃん!!もー無理だってぇぇー!


どんどん進んでいき、最後の3人となった。今から自己紹介するやつが、クラス発表の時、スっと校舎に入りやがったあの女だ。


「私は松田 歩美です。部活は帰宅部。1年間よろしくお願いします。」


こいつの顔はS級、鈴木さんは美人という印象が強いが、こいつは可愛いという印象が強い。

こいつだけが俺の事に触れなかった。そして、こいつは俺の秘密と裏の顔を知っている。逆に俺もこいつの秘密と裏の顔を知っている。俺とこいつは誰にも言えない秘密の関係がある。この関係を明かす時はお互いの理想が現実に変わった時という約束をしている。その理想はとても遠いものであるが、俺達にはとても必要なものなんだ。


あとの2人の自己紹介が終わった。


「よし。自己紹介終わりましたね。今日はこの後配布物を配って、部活のある人は部活に、部活ない人は家に帰るということになります。では、今日は短かったですが、さようなら。」


先生のさようならと同時に、みんなが一斉に動き俺の元に駆け寄ってきた。


「颯太!!今から俺部活行ってくるわ!バイバイ!」


「颯太くん!うち今から暇なんだけど、一緒にカラオケ行かない?」


みんな駆け寄って来たのに、喋ってきたのは中村と鈴木さんの取り巻きのギャルっぽいけど、優しそうな金髪の田中 美優紀さんの2人だけだ。他のやつなんなんだよ。さっさとどっか行けよー。てか、中村もその報告いる?どんだけ俺に話しかけたかったんだよ。


「中村、部活頑張れよー。田中さん、今日帰ったら用事あるから、また今度ね。んじゃみんなバイバイ。俺帰るね。」


俺はこう言い、その場を脱出した。

帰りのバス。やはりあの女がいた。


「よ!歩美!今年も同じクラスだな。」


「そうくーん!!同じクラスで嬉しいよ!!」


俺は歩美のバスの席の隣に座った。歩美はベッタリと俺に引っ付いてきた。てか、胸が当たってるんだが。歩美結構デカいからな。でも、とりあえず、いい感じ、歩美の機嫌が良い。歩美の機嫌を良くしておかなければ明日が、俺の最後の日になってしまうからな。


「ねぇ聞いてよぉそうくーん。今日も1人も喋りかけてくれなかったよぉ。なんで、私に誰も話しかけて来ないのかなぁ。」


「いつも言ってるだろ。歩美と喋りたいやつは、歩美の目付きが怖くて、喋りかけちゃダメなのかと思ってるって。目が悪い訳でもないのに、なんでそんなに目付き悪いんだろうな。」


「なんでそうなるのかなぁ。目付き悪いのは認めるけどさー、喋りかけちゃダメなんて1つも思ってないのに。逆に喋りかけて欲しいのに。」


そう歩美は嘆く。おお、今日めっちゃ機嫌良い!!明日の話を自然に振ってみよ。ここで失敗したら明日がホントに最悪な日になっちまう!落ち着けぇ落ち着けぇ俺!


「あのさー、歩美。明日の事だけさ、明日は朝の8時からあそこに行けばいいんだよな?」


「あ、そうだった。すっかり忘れてたよー。そうだよ。明日は8時にちゃんと来てね。あと、この前みたいなゴミみたいなの持ってきたらまじで締めるから。」


「分かったよ、分かったよ。大丈夫だって。」


おいおいマジかよ。この前の件で機嫌悪くするのかよー!それもうどうしたって無理じゃん!でも、まだそこまで機嫌が悪い訳ではないのかな?ちょっと笑顔があるぞ。あ、降りるバス停着いた。ナイスタイミング!!


「んじゃ俺降りるね。バイバイ歩美。明日ちゃんとしたもの持ってくよ。」


「うん。バイバイそうくん。明日が楽しみだよ。」


俺は背筋が勝手に伸びた。「楽しみだよ。」という言葉でこんなに恐怖が伝わってくるなんて、まじで今日頑張らないとやばいぞ。


俺は家に着くなり、家に10本ほどあるエナジードリンクを自分の部屋に全部持っていき、パソコンを開いた。地獄とも言える学校生活が再開したが、学校生活以外にも地獄がある。それが明日だ。「俺なら出来る俺なら出来る」と言い聞かせながら、明日の地獄を回避するために、全速力でパソコンを打ち込んだ。

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