『起源主張で談議ヌス』(ジャンル:国際ニュース)

 前回食べたヒヨコの作ったラーメンが美味しかった、という話で休憩時間は、再びラーメンの話題で盛り上がっていた。


「それにしても、日本人のラーメン好きって異常じゃないぽこ?」


 うんうん、と頷き合う。


「確かに、日本人はラーメン中毒にかかっているでーす。それはどんな医者にも治せないでーす。そもそも、医者も中毒者の一人であるからでーす。By、ヒヨコ」


「名言っぽい事を言ったつもりだろうけど、全然、名言じゃなかったぽこよ!」


「でも今じゃ、本家中国人も驚かすくらいに魔改造がなされたわけだっち」


 その通りである。日本のどの専門店のラーメンからも、執念が感じられる。時として、芸術の頂にたどり着いているラーメン店もあるくらいだ。中国の料理人はチンジャオロースなどの、多種な料理の習得に執念を燃やしている印象があるが、日本のラーメン店主は数ある中華料理の中の単なる一品であるラーメンに特化し、その一品に己の人生を賭けている者も少なくないようだ。


「そもそもラーメンとは中国語では『手で伸ばす麺』という意味があるぽこ。製麺機を使ってる時点で本来の意味から離れちゃってるぽこ」


「あははは、そりゃそうですわ。坦々麺なんて魔改造の以前に、もはや見た目からして本家の名残りがなくなっています。坦々麺って本当は汁のないラーメンなのですよ」


「し、汁がなかったら坦々麺とは言わないでーすよ」


 日本の坦々麺は練り胡麻・醤油・酢を合わせたタレのラーメンだ。その上からラー油をかけると出来上がる。一方の中国の坦々麺は汁それ自体がない!


「これも日本のラーメンの魔改造がなせるわざだぽこ。ちなみに、本家中国の坦々麺を食べたかったら『汁無し坦々麺』を注文すればいいぽこ。日本にある飲食店でもたまーに見かけるぽこ」


「それにしても日本人って改良が上手ですわね」


「そうぽこねー。ところで、『製品』についてのエスニックジョークは知ってるぽこ?」


「エスニックジョークでーすか? こないだの沈没船のやつとは違うのでーす?」


「違うパターンの有名ジョークだぽこ! 『製品とは、なにか?』についてのエスニックジョークぽこ。知らないのなら、聞きたいぽこ?」


「聞きたいでーす」


「こないだのは、ブラックさがシュールでよかったっち。今回もまっくろくろすけ並のブラック色なのを期待してるっち」


 みんなが私に期待の目を向けてきた。かなり有名なんだけど、本当に知らないのかなー?


「『製品とは、なにか?』。製品とは、ドイツ人が発明し、アメリカ人が製品化し、イギリス人が投資して、フランス人がデザインしたものだぽこ! さらにはイタリア人が宣伝し、日本人が小型化&高性能化に成功させ、中国人が海賊版を作り、韓国人が起源を主張する……もの!」


「韓国ーっ! でも、たしかに思い当たる節があります。以前、韓国が秋田県の『ねぶた祭り』を模倣した『燃灯会』というものを、ユネスコ人類無形遺産に申請したというニュースを採録しましたわ」


「私も採録したっち。たしか青森の人たちが韓国で、ねぶたの製造方法を教えたっちよ」


「ねぶたってなんだぽこ?」


「ねぶたというのは、なんというか、豪華なパレードに出てくる、でっかい奴っち」


 ああ、あれね!


「『ねぶた祭り』を秋田県の人が韓国の人に好意で教えて、『燃灯会』というものが出来たのです。その後、韓国の人はその『燃灯会』をユネスコ人類無形遺産に申請したわけです。ここでのポイントは、『ねぶた祭り』と『燃灯会』は名前こそ違いますが、中身はほとんど一緒なのです。おそらく、このニュースが日本で報道された時、秋田県民は、ポカーン、としていたことでしょうね。ねぶた祭りを模倣した燃灯会が、本家を差し置いて世界遺産に登録されようとしていたのですから」


「でもさ、それって問題ぽこか? 別に、私は問題なさそうに思うぽこよ?」


 韓国の燃灯会がユネスコに登録されたからといって、秋田県の人が被害を被るわけでもないと思うのだが……。


「マメマメちゃん、問題は『大アリ』でおじゃる。こう考えたらどうでおじゃる? 中華料理である『餃子』を日本の食べ物だとして……つまり和食だとユネスコに申請するのでおじゃる! 同じくイタリア料理であるパスタを! アメリカのハンバーガーやらコーラも勝手に和食として申請する! そして、それがユネスコに日本起源の食べ物・飲み物として認められてしまった場合、現地の人たちはどう思うでおじゃる? きっと盗まれたと思うでおじゃるよ!」


「でも、『燃灯会』がユネスコ人類無形遺産に登録されるのは、どう考えても無理があるぽこ。だって韓国の人が青森県の人に教えてもらったという事実があるぽこよね? そういうものってユネスコ人類無形遺産にはならないものぽこよ」


「しかし韓国の人は時々、その無理を押し通して、起源を主張する癖があるのでおじゃる」


「起源を主張? どういう事ぽこ?」


 燃灯会は教えてもらって、最近になって出来たイベントのはずだけど……。


「今回の例でいえば、『燃灯会』というのは新羅という、かなーり昔の時代に行われていた国家的な仏教法会だった、と主張したのでおじゃる。ゆえに、元々韓国のイベントだったもの。ねぶた祭りこそ、『燃灯会』を真似たもので、そもそもの起源は韓国にある、と言っているわけでおじゃるなー」


「え? え? え? どういうことだぽこ?」


 意味がよく分からない……。


「順番では『燃灯会』が最初にあって、それを青森県がパクって『ねぶた祭り』が出来た、と主張しているのでおじゃる」


「女神様、もしも『燃灯会』がユネスコに認められたら、どうなるのでーす?」


「『燃灯会』がユネスコに認められたら、国際的には『ねぶた祭り』が二番煎じになるのでおじゃる。日本がどんなに騒いでも、『ねぶた祭り』は韓国のイベントをパクッたイベントとして認識されるのでおじゃる」


 ええええええー!


「た、たしかに起源を主張してるでーす。韓国、起源を主張してるでーす」


「韓国の起源主張は法律にまで影響を与えるのでおじゃる。日本から仏像を盗んで韓国に持ち込み、売ろうとしていた泥棒がいたでおじゃる。泥棒が韓国で捕まった後、その仏像はどうなったと思うでおじゃる?」


「盗品なら持ち主に返されたのではないぽこか?」


「普通はそうなるでおじゃる。しかし、そうならなかったのでおじゃる。元々韓国にあった仏像がかなーり昔に、日本に盗まれたものである。ゆえに、この仏像は韓国のものであり日本に返還する必要はない、と裁判所がそう判決をくだして、返還を拒んだのでおじゃる」


「日本の盗まれた持ち主に返されなかったのでーす?」


「元々韓国のものだから返す必要ない、という論理でおじゃるなー。大昔の日本人が盗んだものである可能性を払拭できるだけの、証拠を出さない限りは返さない、ってことでおじゃる」


「証拠なんてあるわけないでーす。大昔のものが、泥棒によって日本に渡ったのか、それとも正式な売買により日本に渡ったのかを示す、そんな証拠、残ってる方がすごいでーす」


「これもある意味、韓国の起源主張のなせるわざでおじゃる。なお、その泥棒は韓国の一部の人間というか、多くの人々にとっての英雄となったのでおじゃった。ちゃんちゃん」


「おいおい……それでいいぽこ? だったら、日本から盗んじゃえ―って、泥棒がわんさか現われるかもしれないぽこ。何だか日本と韓国って、善悪の考えや法律、論理感が、かなり違うぽこね。カルチャーギャップぽこ」


「文化が違うと考え方が違うのは当たり前のことでおじゃる。おぬしたちは、日本にゲートがあり、日本のテレビ番組を毎日見ているから、日本寄りの考え方が常識として身に着いているだけでおじゃる。だから韓国の考え方が不思議に思うのじゃろうが、韓国にゲートが繋がっていたら、日本の考えの方が不思議に思っていたかもしれないでおじゃるな」


 私たちはずずず、お茶を飲んだ。


「『燃灯会』の話に戻るけど、本当にユネスコに登録されちゃうのでーす?」


 ヒヨコの質問に対して、ソラはかぶりを振った。


「そんな簡単には、とんとん拍子には進まなかったのです。韓国国内でも、反対している勢力がいるのですから」


「起源を主張するな、という良心的な人たちの反対ぽこ?」


「そのような方々も大勢いるのでしょうが、韓国の小学生にアンケートをとったところ、83%が日本を嫌いと答えたデータが出たそうです。つまりは、韓国人は日本人を敵視している。大嫌いである、ということがこのデータから推測できます。それを踏まえた上で、聞いてください。『燃灯会』に対する韓国の起源主張の論理について、無理があるだろうと思っている人は韓国人の方の中にも結構おりまして、『燃灯会』は日帝残滓ゆえに、そんなものを世界遺産登録だなんてとんでもない! と憤慨して、断固阻止しようとしている勢力があるのです」


「面白いでーす。一枚岩ではないのでーすね」


「ただ、韓国人が起源を主張するというジョークは、ジョークじゃなくなる時もあるっち」


「『端午の節句事件』……でおじゃるね?」


「以前、韓国がユネスコに『端午の節句』を申請して選定された事があるっち。『端午の節句は、中国のものと言われていたっち」


「よく分からないぽこ。そもそも『端午の節句』って食い物か、そうでないか、すら分からないぽこ」


「つまり、感覚的にいうと『剣道』が韓国起源のスポーツとして、世界的な影響力を持つ機関に認められた、ってことっち。まぁ、日本刀も居合も、空手も、相撲も、忍者も華道も茶道も盆栽も和歌も、折り紙も、ぜーんぶ、韓国が起源だと訴えている人がいるみたいっち」


「なんだぽこ。それらの主張が全部通ったら、日本、何もなくなるぽこ。でも、こうした事が色々とあって、韓国は起源を主張するというジョークが生まれたわけぽこねぇ。納得ぽこ」


 韓国は確かに起源を訴えるという癖があるようだ。そういえば以前、韓国が桜の起源を主張しているとニュースで報じられていたことを採録したことがあった。


「ところで、中国が海賊版を作るというくだりも、何か事件とかの元ネタが、あったりするのでーす?」


「なに言ってるぽこ。中国が海賊版を作るのは『国際問題』だぽこ」


「そういやあ、ドラえもんもどきのいる遊園地もあったそうでおじゃるねー」


「どんなに素晴らしい映画を作っても、中国では全く興行成績が振るわないというぽこ。なぜか? それは、海賊版が横行するからぽこ。でも、3D映画だけは、技術的な問題で海賊版が作れないらしく、かなりの収益を期待できる魅力的な市場として、中国はハリウッドから熱視線を注がれているらしいぽこね」


「さーて。そろそろ仕事に戻るでーす」


「みんな頑張るでおじゃるよー」


「はーい」


 私たちは隣の作業部屋に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る