『物価で談議ヌス』(ジャンル:経済)
以前、来店したウナギ専門店が美味しかったので、私たちは再訪した。そして、前回と同じくお店で一番高額のメニューを注文した。
「それにしてもウナギって本当に高いですね。この店でのウナギ定食は3000円もします。しかも税抜価格で! 一方、牛丼はワンコインで食べられるます。税込で」
「味のクオリティーに関してはどちらが上でどちらが下というわけでもないっち。そもそも、値段っていうのはどのように決められるっちね?」
「私は基本的には食材でいうならば、美味しいものは値段が高い、と思っています」
「わらわは稀少度だと思っているとおじゃる」
値段……一体、どのようにして販売者は決めているのだろう。
私たちは、値段はクオリティーによるものか稀少度によるものかについて話し合った。そんな中ヒヨコが、私たちの意見を否定してきた。
「みなさん、違うでーす」
「だったらどうやって値段が決まるぽこ?」
「物の値段とは、供給と需要の2つの要因によって決まるものでーす。マツタケを例にするでーす。正直私、マツタケよりもブナシメジの方が好きでーす」
「そうでおじゃるか?」
ふーん。まぁ、好みはそれぞれだけどさ……。
「ブナシメジはたくさん収穫できるでーす。一方のマツタケは赤松のふもとに、ちょっびとしか生えない食材で、世の中にはマツタケがものすごく美味しいと思っている人がたくさんいるでーす。つまりはちょっとしか取れない商品に対して、それを欲しいと思う人がたくさんいた場合――需要が供給を越えていた場合には、その商品の値段はべらぼうに高くなるのでーす」
つまり、オークションのような感じで値段が決められている、とヒヨコは言っている。
「だったら希少度が高い方が値段が高い、というわらわの考えは、正解ではないでおじゃるか」
「どんなに希少価値が高くても、欲しいと思う人が皆無だったら、値段は高くならないでーす。むしろ、0円でも買わない人は買わないでーす」
「なるほど! 私、正月のスターバックスの福袋騒動を思い出したぽこ」
「何ですか? それは」
2016年1月2日。スターバックス・コーヒー二個玉川ライズドッグウッドプラザ店が福袋を販売したところ、先頭の5人組が108個の在庫を全て買占め、福袋目当てで後ろに並んでいた客が購入できなくなるという事態が発生した。5人組は転売目的で購入したとみられ、実際にネットオークションでは販売額を越える高額な値段で取引されていた。
「初売りの時、スターバックスで発売される限定商品の入った福袋を求めて行列ができていたぽこ。でも、先頭に並んでいた心のない数人の男たちが販売された分の全ての福袋を買い占めた問題ぽこ」
「需要と供給のバランスでおじゃる。プレミアムな商品だったので、供給に対して需要が高く、転売して大儲けできるので買い占めたのでおじゃるな。まあ、買占めをした先頭の数人も問題はじゃが、売ってしまった店側にも問題があるでおじゃる」
スターバックス・コーヒーの他の店舗は、この店舗での買い占め問題を受けて、急きょお一人様3つまで、などの制限を設けたという。
「開店の何時間も前に、朝早くに起きてやって来て、ワクワクしながら並んでいた人もたくさんいるでしょうに。私だったらショックで寝込んでしまいますわ」
「ちなみに購入した5人組は、店頭に5つの椅子を並べていただけで時間まで近場に停めた車の中で待機していたぽこ。そして、時間が近づいたら店頭に戻り、買占めを行ったぽこ。つまり、そんなに苦労して並んでなかったぽこ」
「ひどすぎるでーす!」
「東京駅でも記念的なオリジナル商品が販売されたことがあったぽこ。同じように転売を目論む人がたくさん購入したぽこねー。実際にオークションでは倍以上の値段で取引がされていたぽこ。でも結局、あとで好きなだけ買えるようになったから、オークションでの転売の価格が暴落したぽこねー」
『東京駅100周年記念Suica』。2014年12月20日。当初は15000枚(一人3枚まで購入可)のみ販売される予定だったが、混雑を理由に途中で販売中止に踏み切られるなどの混乱が生じたことを受け、のちにこの商品は誰でも購入できるようになった。当初、2000円で購入できたこの商品は、ネットで4万円を超える額などで取引がなされていたが、JR側が再び販売することを発表したところ、ネットでの取引値は大暴落した。
「ウナギの値段がお高い理由には、最近は日本でウナギが獲れなくなってきているという理由もあるのでーす」
「そうだっち?」
「海流の向きが変わり、これまで日本に泳いできていたウナギたちが、別の場所に泳いで行っちゃうとか、そういう話を採録したことあるでーす。あと中国とか、昔はウナギは二束三文の値段だったでーすが、ウナギの美味しさに気づいたようで、積極的に収穫するようになったでーす。中国はさらには他の魚も日本に泳いでくる前に収穫するようにもなったから、日本の漁師さんが収穫できる量が激減し、日本で販売される魚自体の値段も跳ね上がるというケースも多発してるでーす」
「美味しいものは、他の人や国に、まずいと思われているうちが華だということでおじゃるなー」
「もしかすると、将来的にはウナギが一般庶民には手が届かない存在になるかもしれないぽこ。ウナギが0からの養殖が簡単にできる魚なら、よかったぽこー」
ウナギは卵の状態から養殖できるそうだが、シラスウナギ(稚魚)になるまでの生存率が極めて低かったり、性別が偏ったりして、まだまだ実用化までの道のりは遠い。
「マメマメ姉さま、私はある町おこしの取組を採録しましたでーす」
「え?」
「東日本大震災の被害にあった温泉地で、0からウナギを育てているらしいでーす」
「温泉地? どうして温泉っち」
「ウナギで町おこしならぬ、温泉地おこしをしたいと、本気でウナギの養殖に挑戦してるからじゃないでーす?」
「つまり、ウナギ丼も、ワンコインで食べられる日が、もしかしたら来るかもしれないってことっちか!」
かもしれない……。私たちが神妙な面持ちで頷き合っていたところ、店員さんがメインとは別に注文した品を持ってきてくれた。今回はうな重以外のメニューも頼んだのだ。
「おや、ウナ肝がようやくきたぽこー」
「わーい」
その後、すぐにうな重も運ばれてきた。私たちはウナギを堪能した。ウナギが安く食べられる日が、そう遠くない日にやって来る気がした。
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