『ヒヨコとストーリーテリングで談議ヌス(2)』(ジャンル:エンタメ)
キッチンにやってきたところ、ヒヨコが頭を抱えていた。デジャブ感のある光景だ。
「おや。ボーっとして、どうしたんだぽこ?」
「いやぁ、今度の小説の新人賞の締切に間に合わせようと、ラブストーリーを考えているのでーす。昨日採録したドラマに感化されたでーす」
「ふーん。また締切が明日とかじゃないぽこよね? 頑張れぽこ」
「そこなのでーす。締切が明日なのでーす。マメマメ姉さま、助けてほしいでーす。お願いでーす」
「……いい加減に諦める事を覚えろぽこ。それが今回のアドバイスぽこ。いや、今回『も』のアドバイスぽこ」
「諦めたら、そこで終わりでーす。試合は終了でーす」
「前回も前々回もそう言って、結局送れなかったぽこ」
「とにかく、ラブストーリーで今日中に一作書きたいのでーす」
「……もちろん短編ぽこな?」
「いいえ、長編でーす。最低でも10万文字は越えたいでーす」
「諦めろぽこ」
「お願いでーす。マメマメ姉さまのアドバイス、私には役に立つのでーす」
「役に立つと言っておきながら、これまで書き上げたこと一度もないぽこ! すなわちそれは、私のアドバイスが役に立っていない証拠でもあるぽこ。そもそも素人な私はアドバイスできる立場ではないぽこ」
「構わないでーす」
ヒヨコは私にしがみついてきた。目が必死である。
「……それなら素人なりにもアドバイスはするけれど、ネタは自分で考えるぽこよ。ネタがないと寿司が握られねえなんて言うんじゃないぽこよ?」
「言わないでーす。そんなこと、言ったこともないでーす」
………………。
「ところで、感化されたのは、どんなドラマぽこ?」
「韓国のドラマをリメイクしたドラマでーす。女の子が男性アイドルグループの中に紛れ込んで、グループ内の男の子に恋するお話でーす」
「なるほど、あれぽこね! 私も知っているぽこよ」
私もそのドラマは採録したことがある。同じような創作物で、女性のアイドルグループの中に男の子がアイドルの一員として紛れ込む漫画もある。よくもまぁ、そのような面白い設定を思いつくものだ。
「そういえば韓国のドラマって一時期、日本で大ブームになったと聞くでーす。いわゆる、冬ソナから始まった韓流ブームでーす」
「あの時の韓国人気はすごかったらしいぽこ。韓国に無関心だった日本国民が、一斉に韓国を大好きになったぽこ。特におばちゃん層が」
「一方、韓国のドラマはワンパターンとも言われてるでーすね。そこんところ、どうなのでーす?」
「韓国のドラマはそれほど頻繁に放送されていないから詳しくないぽこが……『三角関係』『いじわる女』『出生の秘密』の3つが、韓国ドラマに頻繁に登場すると、どこかのドラマ評論家がお昼のワイドショーで解説してたぽこー」
「そういえば、私が昨日採録した回のラストは『出生の秘密』が関わっていることを予感させていたでーす」
「私は序盤しか知らないけど、そのドラマって男性アイドルグループに女の子が紛れ込む話ぽこよね? どうして出生の秘密が関わってくるぽこ?」
「知らないでーす。でも、続きが気になる終わり方だったでーす」
「テンプレ……ワンパターン……ぽこね。でも、これは必ずしもマイナスではないぽこ。世の中に星の数ほどストーリーがあるけど、ストーリーの型というのは数種類しかないぽこ」
「本当でーす?」
「本当ぽこよ。ヒヨコも薄々は気づいているんじゃないぽこ? 例えば、ラブストーリーなんて1パターンしかないだぽこ」
「そ、そうなのでーす?」
「ラブストーリーとは、【2人の男女が出会い、恋をし、愛の育みを邪魔する障害が尺に応じた数だけ出てきて、最終回の直前に最大の障害が出てきた後、『交際・結婚』もしくは『好きだけど別れる』のパターン】しかないぽこ。結末がハッピーエンドになるか悲劇になるかの違いで、どれも一緒ぽこね」
「障害は出さなくちゃいけないのでーす? 絶対にでーす?」
「出さなくてもラブストーリーと言えるけど、障害のないラブストーリーなんて、くっそつまらないぽこよ」
「たしかに思い返せば、人気のあるラブストーリーはどれもそんな感じでーす。ワンパターンなことに、気が付かなかったでーす」
「ストーリーはどんなジャンルであれワンパターンだぽこ。でも、そこに登場するキャラクターが違うぽこ。面白さの秘密は、キャラクターにあるぽこねー。あと、テンプレといったら大手週刊少年誌が有名ぽこ。出版社の方針は『勝利・努力・友情』だそうだぽこ」
「なんでーすか、それ? 抽象的過ぎて、よく分からないでーす」
「つまり、勝てそうにない敵に遭遇した主人公が、努力して強くなって、知人と一緒にその敵と戦って、勝利するというパターンぽこ。ちなみに『勝利』のところが大事で、出版社は主人公に敗北させる事は決してさせないといわれているぽこ」
「それはどーしてでーす」
「大人の事情が絡んでくるからぽこ。もちろん『話の途中での敗北』はあるぽこよ。『敗北した後、努力して勝つ』というパターン内の敗北はOK。一方、『敗北し、努力した末に再び敗北する』はNG。なぜならハッピーエンドを望んでいる読者が大半だから、バッドエンドで完結させちゃったら、部数に響くぽこ。つまり、売上が落ちるがゆえにNGぽこ」
悲劇で終わる名作は多いが、売上を考えた場合は、バッドエンドよりもハッピーエンドにしなくてはならない。なぜなら読者とはバッドエンドよりもハッピーエンドを好む傾向にあるためだ。
「勝利が必要なのは分かったでーす。では、『努力』は何なのでーす? 必要なのでーす? どうしても努力をさせなくちゃダメなのでーす」
「もっちだぽこ。修行させるぽこ! 主人公よりも強い敵を登場させて、主人公にそいつを倒せるまで修行させるぽこ。バトルものではなくスポーツものでいえば、例えばバスケットボールなら、最初シュートが入らない主人公を登場させて、たくさん練習させる描写を入れて修行させるぽこ。そして、試合の大事な場面でシュートを決めさせるぽこ。主人公の変化と成長を見て、読者は感動するカラクリぽこよー」
「本当に感動するのでーす?」
「するぽこよ。人間たちはね『変化』を見るのが大好きなんだぽこ。ゲームにロールプレイングと言うジャンルがあって、昔、大人気だったぽこ。例えばドラクエの発売日前、一週間も前から並んでいたツワモノもいたらしいぽこ。そりゃあ、一週間も前から並ぶ人は珍しいだろうけれど、発売日の前日や二日前から並んでいる人はザラだったそうだぽこ。『予約』システムがなかった時代はドラクエを発売日に手に入れるのは、至難の業だったぽこ」
「昔は予約のシステムが今ほど発達してなかったのでーすね」
「ドラクエの人気が出たのは、ストーリーが秀逸だったからじゃなく、キャラを育てて『変化』させる事に快感を感じていたからぽこね。つまり皆、レベル上げという苦行をしたいがゆえに、行列に並んでいたぽこー」
「人間って、ドMでーす。確かに、ドラクエにはストーリーは、あってないようなものでーす」
なお、私たちは日本のファミコンショップにも足を運び、かつて人気が出ていたゲームソフトを購入して、楽しんでいる。
「レベル上げをしている最中は苦しいけど、レベルが上がった時の効果音を聴いた時、つまり『変化』した瞬間を目撃した時に人はカタルシスを感じるぽこ。まるで、登頂に成功に成功した登山者のごとく、もしくはサウナで我慢しきった後、水風呂に入った時のような爽快感に通じるものを感じるぽこね」
「なるほどでーす」
「今のゲーム業界はストーリー推しになって、ロールプレイングとは名ばかりのアクションゲームが乱立しているのが嘆かわしいぽこ。現在のゲーム業界の人間、どうしてドラクエがあんなに人気があったのか、その原理のところ、わかってるぽこか?」
「時代の波でーす。今のCG技術で、キャラにレベルを上げという『努力』をさせて『変化』を見ることでカタルシスを与えていた昔のロールプレイングがリリースされたら、きっと売れそうでーす! ちなみに、『勝利』と『努力』が大事なのは分かったけれど『友情』も大事なのでーす?」
努力・勝利・友情。この3つのキーワードの最後の『友情』も大事である。
「大事ぽこ。でも、これは登場人物が主人公以外にもいなくちゃいけないよ、という意味だろうぽこね。極論を言うなら、漫画で、読者を引き付けるのは『会話』ぽこ。主人公一人しか登場人物がいなかったら、会話する相手がいないぽこ。すなわち、小説なら地の文ばっかり。漫画だと心理描写&背景ばっかりになっちゃうぽこ!」
「『友情』というのは、つまり主人公と会話させるキャラクター要員が必要ってことでいいのでーす?」
「と、私は思っているぽこ。ただし他人じゃなくて仲の良い人ぽこ。赤の他人に道を聞くチックな会話はつまらないぽこ。『友情』……すなわち仲のよい仲間たちとの『ノリとツッコミによる楽しい掛け合い』を見るのは、面白くないぽこか?」
「なるほどでーす。『勝利』は売上的な要因で必要で、『努力』は変化を見せてカタルシスを生むために必要で、『友情』は楽しい会話を作るために必要というわけでーすね」
『勝利・努力・友情』の手法は理論だけではなく、実際に使われて成果があがったという、パワフルな手法である。とはいえ、解釈は多岐に渡っている。私の考えている『勝利・努力・友情』はただの一例である。
「勘違してもらいたくないけど私の勝手な解釈が大半を占めてるぽこ。本当はもっともっと深い意味があるかもしれないぽこ」
「でも、パターンが決まっているのは分かったでーす。私は『勝利』『努力』『友情』を取り入れたワンパターンのラブストーリーを書くでーす。さらに、韓流ドラマのテンプレの『三角関係』『いじわる女』『出生の秘密』の3つも組み込むでーす」
「恋を邪魔するライバルなんかをいれて、審査員をキュンキュンさせるぽこよ! グッドラックぽこ」
「よーーーし、一作、書きあげるでーす」
「私も物語の作法について話していたら、何かを書きたくなってきたぽこ。1日で書けるかどうかは分からないけど、新人賞に送るために書いてみるぽこ」
「それはダメでーす。やめてほしいでーす」
「え? え? なんでぽこ?」
ヒヨコは真顔で私の執筆を拒絶してきた。
「だってライバルが増えるからでーす。だから絶対にだめでーす」
「ドシロウトな私をライバル視するより、まずは1作を仕上げろぽこっ!」
「うぅぅぅ。するどいツッコミでーす!」
「ツッコミというより、正論ぽこ」
なお、ヒヨコが出したいと思っていた新人賞には短編部門もあり、私は短編部門に応募した。一方のヒヨコは今回も書きあげられず、応募できなかったようだ。いや、応募以前に、彼女が処女作を書きあげるのは、まだまだ先になりそうだ。
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