『肝試しで談議ヌス』(ジャンル:エンタメ)
私たちはいつものように休憩中、お茶と一緒にお菓子を食べていた。そんな時、ソラの顔色が真っ青であることに気が付いた。
「あれれ? どうしたぽこ。そんな真っ青な顔をして?」
「いえ。たった今、心霊特集の採録をやっておりまして、見てしまったのです。幽霊を、たくさん」
「あー。あのヤラセぽこね。よくやるぽこー」
「ヤラセなのですか? すごいリアルだったのですけど……」
「あんなのヤラセに決まってるでーす。そもそも幽霊なんて、日本には存在しないでーす」
「ヒヨコ姉さま、先日お墓参りをしたばかりの私たちの言う台詞じゃないっち。この世界にはアンデッド系モンスターがいるくらいだから、日本に幽霊がいてもおかしくないっち」
「だって、日本では見た事がないでーす」
この世界にはアンデッド系モンスターが存在する。ここでのアンデッド系モンスターは、どちらかといえばモンスターとして、動物的な扱いをされる。一方、日本では、手で触れることのできない恐怖の対象として扱われる。
「私は見ましたわ! たった今、モニターで!」
「映像なんて、幾らでも加工できるでーす」
日本での幽霊の映像は、そのほとんどがヤラセだと私は思っている。
「でも、さっきまでいなかったのに顔がどーんと、ビデオカメラに映っていたり。赤ん坊の声が聴こえたりしたのですわ! もう私、怖くて真夜中に、トイレに一人ではいけないです。実生活に悪影響ですわ」
「というか、どうして霊を怖がるぽこ? 霊が生きている者の命を奪うぽこか? ニュースで、犯人は幽霊でした、という報道は一度も見たことないぽこ」
たくさんの殺人事件を採録してきたが、犯人が幽霊だったと報じられたケースは一度もない。
「でも、こっそりと関わっていたりするのではないのでしょうか。未解決事件の中には、やはり幽霊が犯人という場合もあったりするのではないでしょうか」
「脱法ハーブを吸って車を運転して歩道に突っ込んだり、高齢者がブレーキとアクセルを踏み間違えて店に突っ込んだり……そういった中には霊のしわざだったこともあると思っているぽこ?」
「そうそう。霊のしわざです。霊が、生者の意識をのっとったのです」
「そんなアホなー。なんでも霊のせいにしちゃいけないと思うぽこ」
「そうそう。全ては自己責任でーす」
幽霊に操られていたから罪を犯してしまった、なんて主張して裁判で無罪が言い渡されると、もう何でもありになってしまう。
「しかしながら、霊に関する実際にあった事件を、私は採録したことがありますわ。女子高校生パニック事件です」
「それは一体なんだぽこ?」
この私の質問には、森の女神様が答えた。
「福岡の柳川高校で、女子高校生が幽霊を見たとかで、集団で病院に搬送された事件があったのでおじゃる」
「それって本当の話っち?」
「奇怪な事件でおじゃる。専門家は脳の共振現象だと説明したけれど、本当かどうかは不明でおじゃる」
「女神様のおっしゃる通りです。脳の共振現象……つまりミラーニューロンの働きだと専門家は説明しておりました。しかし私は疑問に思っています。ミラーニューロンの働きで、あれだけの学生が集団で倒れるものなのでしょうか。あまりにも不思議です。学生は英彦山に研修に行っていたそうです。英彦山の近くでは悪霊がいることでも有名です。その霊に憑りつかれたという可能性もあります」
んな、アホなーーー。
「そういえば工事で『ある塚』を動かそうとしたら、工事関係者の何人も不可解な死を遂げたという話を聞いた事があるっち」
「それも霊のしわざなのでしょうか?」
「もしくは偶然……それとも、計画殺人ぽこ。霊のしわざに見せかけた殺人!」
「かもしれないっちね。実は塚を移動させると、過去に殺害して隠していた白骨遺体が暴露されるのを恐れた人がいたかもしれないっち。そこで工事関係者を次々と不可解な死に見せかけて、塚の移動を取りやめさせる事を目的とした殺人計画を実行した、かもしれないっち」
「小説とか漫画の世界だったら、ありえそうぽこ。でも、現実ではどうだろうぽこ」
「私、呪いというものは本当にあると思ってますわ。ホラー映画を撮影します時には、お祓いをするわけでしょ? つまり、映画関係者は信じているわけです」
「でも幽霊を見たことがある、と言っている人の大半は、単に注目を浴びたいと思っている人だというのが私の見解だぽこ。私は日本で幽霊を見たことがないから、見るまでは信じないぽこ」
アンデッド系モンスターはこちらの世界では、たくさん見てきたが、日本ではまだ見たことがないので、信じていない。
「つまりは、超常現象を見れば信じるわけでおじゃるね」
「そういうことだぽこ」
「だったら、行ってみないかでおじゃる?」
「どこにでーす」
「肝試しにでおじゃる」
後日、私たちは日本のとある病院にやってきた。
「……私たちだけなのでーす?」
「うう……霊を信じていないけど、薄気味悪くて、何だかいそうっち」
「ここは、芸能人がロケで肝試しをした建物です。幽霊のものと思われる音声と、その存在をカメラにおさめた場所でもあるのです」
パソコンのモニター越しに見みたら胡散臭いとしか思えないホラー系番組だが、実際の建物の前にくると、全く違う印象を持った。本能的に嫌な予感がするのだ。
「どうするでーす?」
「霊がいるかいないかを調べるのでおじゃろう? 芸人が面白半分で肝試しをしたところ、実際に芸人たちが持っていたカメラに霊が映っていたでおじゃる。今回、わらわたちもカメラ持参でいくでおじゃる」
「私はいーかないぽこ!」
「ええええー。なんででーす?」
「だって、怖いぽこ」
「私だって行きたくないっち。幽霊、やっぱりいる派に変更するっち」
「お、おーい」
「幽霊いないと思う派は、どうやらヒヨコだけになったぽこ。この見取り図のルートにそって、このライトで照らしながら、肝試しをしてくるぽこ。幽霊を信じてないヒヨコには、肝試しというより、ただの『散歩』だろうぽこけど」
「……分かったでーす。行ってやるでーす」
ヒヨコは廃病院に入った。入口のガラスは割れており、鍵はかかっていない。
実は、裏話があった。肝試しの日の直前、私は森の女神様とソラのドッキリ企画を盗み聴きしたのだ。どうやら霊がいないと思っている私たちを驚かし、楽しもうという魂胆だったらしい。近くにはラッカセイもいて、肝試しは、ヒヨコをターゲットにしたドッキリ企画となった。
「ポチっとな!」
私がボタンを押すと、廃病院からは『ぎゃああーーー』という悲鳴が聴こえた。昼のうちに、廃病院入りした私たちは、隠しカメラを設置して、様々なドッキリの仕掛けもほどこしてきたのだ。モニターには、豆たぬきの姿にポンと戻り、全力疾走しているヒヨコがうつっていた。そして、しばらくして戻ってきた。
「ぷぷぷ。ヒヨコ姉さま、霊を信じていないと言ってたわりには、ガタガタ震えているではありませんか」
「出たでーす。本当に出たでーす」
翌日。私たちは録画したモニターを見直した。
「いやあ。昨日は傑作だったぽこ」
「本当に、霊がいたでーす」
「だから、あれは、こちらの悪ふざけだったと言ってるぽこ」
「ここ、ここ。ストップでーす」
「………………」
「音量を上げてみてほしいでーす」
「………………いいぽこよ」
おぎゃーおぎゃーと、赤ん坊の泣き声が聴こえた。そして……。
「な、なんだこれ」
モニターには、女がカサカサと廊下を動いている様子が映っていた。成人しているくせに、おぎゃーおぎゃーと言って泣いている。カメラから消えた直後、ライトを持ったヒヨコが廊下を通り過ぎた。
ゆ……幽霊は本当にいるのだろうか?
それとも。
私は背筋に悪寒が走った。ソラ、ラッカセイも同じように顔を青ざめていた。一方で、わずかではあるが、ヒヨコと女神様の口元が緩んだことが気になった。もしかして、騙された振りをして、逆に私たちを騙した……のか? 確認すればいいのだろうが、私はそれをしないだろう。なぜなら、怖いからだ。本当に幽霊がいたとすれば、実生活に影響がでるかもしれない。夜、トイレに行けなくなってしまうかもしれない!
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