『世界の事件で談議ヌス』(ジャンル:国際ニュース)
いつものように森の女神様のすすめで、私たちは隣の和室に移動して、休憩を取っている。ミルクティーが美味い。そして、シュークリームも上手い。このシュークリームはコンビニで購入したものだが、8年前に初めてコンビニのシュークリームを食べた時よりも随分とクオリティーが進化しているように感じる。コンビニ、おそるべし。
「そういえば、小説の世界では密室殺人事件があるけれど、実際の事件でも、あったらしいでおじゃるな。さっき病院勤務の男が、交際していた女性を密室トリックを企てて殺害したという採録データを読んだでおじゃる」
それは一昨日、私が採録したニュースのようだ。
「本当に密室殺人なんか起きたっち?」
「密室殺人はリアルの世界では、デメリットばかりだと聞いておりますが、実際に起きる場合もあるのですね」
「トリック自体は真似する人が出てくるということで、モザイクがかけられていたけど、鍵屋さんがいとも簡単に密室を作り出していた様子が紹介されていたぽこ」
「それ、気になるでーす」
「そういえば昔のドラマの再放送の採録で、密室トリックが『鍵開け器』と『鍵閉め器』の使用というものがありましたわ。ドラマとしては『ないなー』と思っておりましたが、鍵屋さんがニュース番組に出演するにあたり、そういう器具を使っていたのでしょうか? モザイクのない状態の映像が見てみたいですわ」
「無理ぽこ。モザイクは必須ぽこ。でもそれは、仕方がないことぽこね。アメリカのマラソン大会で、圧力鍋で大爆発を起こしたテロ事件あったぽこ。テレビで圧力鍋を利用したこの爆弾の作り方を解説したところ、後々、抗議がすごかったらしいぽこ。真似して作り出す輩が現われたら、どうするのだ、と」
『ボストンマラソン爆発テロ事件』。2013年4月15日。5名が死亡。爆発物は即席爆発装置で圧力鍋が使用されていた。殺傷力を高めるために、釘などの金属片が含まれており、この『即席爆破装置』の仕組みを解説した日本のテレビ番組があった。後日、その局に対して市民からの苦情が殺到した。『即席爆破装置』は誰でも作れるもので、犯罪に使おうと思う者が現われることを危惧したのだ。
「なるほど……納得ですわ。リアルでも出来る密室の作り方をテレビで解説したら、たしかにまずそうですわね」
「それにしても、世の中はネガティブなニュースで溢れているでーす、鬱になりそうでーす。日本も安全だと思っていたけど、灰色に見えてきたでーす」
「いやいや、日本は犯罪が少ない方っち。そして、安全度でいえば高い方っちよ。私、インドで起きた事件を今、採録してところだっち」
「どんな事件でおじゃる?」
「バス内レイプ事件っち」
ああ、あの事件か。私も知っている。ヒヨコも知っているのか、頷いていた。
「知ってるでーす! 男たちがバスの中で女性をレイプして、事が済んだ後、バスから女性を投げ捨てたって事件でーすね?」
「本当に公共バスでの出来事なのでしょうか?」
「公共のバスっち」
公共のバスの中でレイプとは、一体どういうことだろう。
『2012年インド集団強姦事件』。女子医大実習生の23歳の女性が、婚約者と無認可のバスに乗っていた際、レイプされた上に鉄パイプで性器に暴行を加えられ、車外に放り出された。女性はその後、死亡した。
「日本の公共のバス内での犯行を想像してみましたが、ありえないです。嘘くさいですよ。ネタじゃないのですか?」
「いいや。真実だっち」
「わらわは不思議に思うのじゃが、バスの運転手は一体、何をしていたでおじゃるか! 公共のバス内でレイプなんて無法地帯でおじゃる。そして、最後にバスから女性を投げ捨てるだなんて、どういう神経をしているのでおじゃるか?」
ニュースでは事件の大まかなところしか報道されなかったが、おそらくは、バスの運転手もグルなのだろう。
「世界では、日本ではネタとしか思えない事件が普通に起きていますわ。会社へのストライキで死人が出たり、学校の給食に毒を入れて生徒を殺害する校長先生がいたり、妻に対する学生のデモ隊を警察に逮捕させて、マフィアに引き渡した市長もいるくらいです」
『2014年メキシコ・イグアラ市学生集団失踪事件』。市長が妻のスピーチを妨害されることを怖れ、当局に学生たちを襲撃をさせた。警察は学生43人を拘留した後、犯罪組織に『後始末』を依頼したとされている。
「ちなみに、そのデモ隊の学生たちは、どうなったぽこ?」
「マフィアに首を切られて焼き殺された、らしいです。これはメキシコで起きた事件です」
なるほど。比較することで分かる。日本は確かに安全だ。
「ドバイもおっかないところと聞きますわ。ドバイでは、レイプされた被害者女性が、警察に助けを求めたところ、逆に禁固刑になった、という事件があったらしいのです」
「ドバイって、怖いところなのでーす?」
「ドバイはイスラム教の国なのです。そして、イスラム圏の国は、女性の権利が低いのです。数十年前は日本でもそれが当たり前だったのですよ? この『誰でも平等』という考え方自体が、長い歴史の中でも最近の考え方らしいのです」
なお、私たちの世界では、人間の女性の権利はあるものの、日本ほど高いものではない。とはいえ、イスラム国家ほど低いわけではないので、日本とイスラム国家の中間あたりだ。
「でも、さすがにレイプされて、逆に逮捕されたって、不可解でーす。どんな経緯だったのでーす?」
「はい。インテリアデザインの会社に勤めるノルウェー人の女性が出張でドバイを訪れていました。そんなある日、彼女は上司に強姦されたのです」
「酷い話でおじゃる。女の敵でおじゃるね」
「ノルウェー人の女性は、上司にレイプされた後、警察に行きました。しかし警察は、なんと、ノルウェー人の女性の話を信じなかったのです。さらに女性は4日間投獄された挙句、パスポートとお金を没収されたのです。怒った女性は、告訴しました。すると、どうなったと思いますか?」
「レイプした上司が逮捕されて終わりじゃないぽこ?」
「違います。結果だけを述べるなら、逆にノルウェー人の女性が禁固刑1年4か月の有罪判決を言い渡されたのです」
「え? え? なんでぽこ?」
「ノルウェー人の女性は、過ちを犯したのです。その上司よりも上の存在である雇用主から『ドバイでは強姦の罪が認められる事は稀』とアドバイスされて、告訴を取り下げるよう説得を受けたのです。女性は雇用主のアドバイスを鵜呑みにして、告訴を取り下げました。その結果、偽証と婚外性交渉の罪になったのです」
ひ、ひどい。
「そのノルウェー人の女性は、その後どうなったぽこ?」
「拘留されました。更には、どうしてなのかは知りませんが、電話の使用を認めてもらえなかったらしいのです。なので電話の使用を認められていた牢屋の中でできた友人にお願いし、知人に拘留されていることを伝えてもらいました。それによって、事件が発覚したのです。ノルウェー大使館が彼女の救出に全力を尽くしたということです」
「なんだか許せないでおじゃるねー」
「というか、彼女を罠に嵌めた雇用主は極悪人でーす。多分、揉め事が長引いて、会社に悪影響が出るのを恐れたでーすね?」
ソラはかぶりを振った。
「彼女の雇用主のアドバイスは嘘ではないのですわ。『ドバイでは強姦の罪が認められる事は稀』というのは本当の事なのです。というのも、レイプを証明するには『女性が受けた行為がレイプだと断言する4人のイスラム教徒である成人男性たちが必要』になるらしいのです。そして、その4人を用意できなかった場合、告発者と証人は『誹謗中傷の罪』や『姦通罪』になる場合もあるらしいのです」
「それ、本当の話ぽこ?」
そんなに都合よく4人も目撃者がいるものなのか?
「他に、オーストラリア人の女性が暴行を受けた際にも、逆にその女性が12か月の懲役を受けた事があるいでーす」
「それにしても証人として4人のイスラム教徒の成人男性が必要ってどーいうことぽこ。犯罪を犯す時に周囲を見渡して、成人男性が3人以下なら、犯行してもオッケイって事ぽこ?」
「どうでしょうか。しかし、こういう想像はできますわ。日本で柔道選手が、女性をラブホテルに連れ込んで、訴えられたという事件がありました」
「その柔道家は裁判で争った挙句に有罪となったぽこ」
「柔道家の話ではエッチをする合意はあった。一方、女性の話では合意はなかった、とどちらも主張していました。女性は酔っ払っており、本当は合意をしたけど、飲み過ぎて記憶を失っているだけかもしれませんし、柔道家が嘘をついているのかもしれません。真相は2人にしか分からないことでしょう。いえ、酔っていたことを考慮すれば2人すら真相を分かっていないのかもしれません。しかしながら白黒はあります。記憶のあるなしに関わらず、どちらかが確実に間違ったことを述べているのですが、私たちにはそれが分からないのです。ただし、この事件が日本ではなくドバイで起きていたら、柔道家が勝訴していたでしょうね。だって、女性が裁判で勝つには、4人のイスラム教徒の成人男性の証人が必要なんですから」
「いるわけないぽこ!」
「世界には気の滅入る事件が溢れているでおじゃる」
日本はまだまだ安全であった。
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