『ヒヨコとストーリーメイキングで談議ヌス(1)』(ジャンル:エンタメ)

「うーん。うーん。吾輩は猫であーる。猫であーーるっ」


 ヒヨコが頭を抱えながら、ブツブツ言っている。悩んでいる様子だ。


「もしかして、悩んでいるぽこ?」


「おおっ! よく聞いてくれたであーる。そう、吾輩は悩んでいるのであーる」


「その喋り方、やめてほしいぽこ。それに普段、吾輩なんて使わないくせに、突然のキャラ変は止めてほしいぽこ」


「キャラ変して、悩みが無くなれば、儲けものでーす! 実は次の小説の新人賞に出すネタを考えているのでーす。小説家は、孤独でーす」


「ふーん。頑張るぽこよー」


 私はそのまま横切ろうとした。その時、ヒヨコに服の袖をギュッと握られた。


「待ってほしいでーす。もっと、構ってほしいでーす。ヒヨコは小説家じゃないだろー、とか言ってツッコンでほしいのでーす」


「なになに? 私にどうしろといういうのだぽこ?」


「ネタがほしいでーす」


「ネタ?」


「何を書いていいのか、ワケワカメな状態だから、アドバイスがほしいでーす」


「……それで、応募の締め切りは、いつぽこ?」


「あ・し・たでーす!」


「じゃあ、アドバイスをあげるぽこ。諦めろぽこっ!」


「わーい。ありがとうでーす。って、諦めないでーすっ! やってみなくちゃ、分からないでーす」


「確かにそうぽこ。それで、短編を出すぽこか?」


「違うでーす。長編でーす」


「じゃあ、もう一度アドバイスをあげるぽこ。頑張れぽこっ」


「わーい。ありがとうでーす。がんばるでーす。って、そんなのアドバイスでもなんでもないでーす」


「五月蝿いぽこなー。本当に五月蝿いぽこよ、ヒヨコ。書きたいものがないのなら、書かなければいいぽこ。そもそも、小説家なんて、書きたいものがあるからなる職業だぽこ。締切は明日? アホか! 冗談は寝てから言うぽこよー」


「私は本気なんでーす。確かに昔の文豪は書きたいものがあるから書く的な、そういう人が多かったらしいでーす。でも私はビジネスとして考えているでーす。考えてみてほしいでーす。『どーして小説家になりたいのか?』についてでーす。例えば、公務員さんになった人に『どーして公務員になりたかったのか』と、聞いてみた時の返事を想像してみてほしいでーす。なんて返してくると思うでーす?」


「さあ。国民様の役に立ちたかった、とかぽこ?」


「ぷっはー! んなわけないでーす。まあ、中にはそういう志を持ったお人もいるかもしれないでーすけど、殆んどの人は『安定した給料目当て』だと思うでーす! それ目当てで公務員になりたかったに違いないのでーす」


「真偽はどうなのか知らないぽこが、まあ、そーいう気もするぽこ」


 よく考えれば、どの職業についた人も、「なんとなく流れで……」という人は半数はかたいだろう。もちろん、そうした人の中にも熱い志を持ち、仕事に誇りを持っている人も多いとは思うけど……。


「小説家になりたいというのも、一発どかーんと当てたいわけだからでーす。こないだソラが葬儀に100万円以上かかると言ってたでーす。いつか訪れるかもしれないみんなの分の葬儀代くらいは稼ぎたいのでーす」


「ヒヨコは私たちの日本での葬儀代を稼ぐために、小説を書くぽこ?」


「そうでーす」


「なんだそれー! そんなの、おかしいぽこっ!」


 そもそも私たちは死んだら豆タヌキの姿に戻るのだ。しかしヒヨコは死後、日本の一般的な葬儀様式で火葬されたいようである。


「経営者として会社や店舗を立ち上げて、どかーんと当てるのも一つの手かもしれないでーすけど、わずらわしい人間関係とか借金を背負うリスクとか、そういうのを抜きにして、稼ぎたいのでーす。ほら、小説家って、基本的にパソコン一台あるだけでできるから、赤字で大きな借金を抱えたりする事もないでーす」


「確かに小説家は食べるための金銭だけ稼げば、生きていけるぽこ。稼げなかったら、バイトをすればいいぽこね。社員さんたちの生活を背負っている経営者のような責任は負わなくていいぽこ。どちらにせよ、ヒヨコは金がほしいから小説家になりたいぽこね」


「いかにもでーす!」


「……ふーん」


「なんでーす。その反応」


「小説家でお金を稼ぐのは結構、難しいと思うぽこ」


「いいじゃないでーすか。やってみなくちゃ分からないでーす。ネタほしいでーす。締切は明日でーす。パッと浮かんだのでいいからネタほしいでーす! ネタがなくちゃああ、寿司は握れねえでーす! 寿司が握れねえんでーす!」


「……わかったぽこ。じゃあ、お題を出すぽこ。創作はお題があった方がやりやすいぽこ」


「お願いするでーす」


 私は映画をいくつか思い出す。最近の私は休日に、豊洲の映画館に行くことにハマっている。


「なら、ジャンルはホラーでいくぽこ。ホラーで一作書いてみるぽこよ」


「ホラー?」


「うん。ホラーぽこ」


「ホラーって、需要はあるのでーす? 日本に行った時、書店員さんに売れ筋などを聞いてるでーすけど、ビッグタイトルを聞かないでーす。一番新しいホラーのビッグタイトルも、十年数年以上前のものでーす」


「最近だって、きっと人気のあるホラー小説は出てるぽこっ! 知らないだけで」


「でも、本屋さんのホラー小説が置かれている棚、すっごく小さいでーす。狭いでーす!」


「……なんだいヒヨコ。ネタやアドバイスがほしいというから、お題を出してあげたぽこ。それなのに文句ばっかり言うぽこか?」


 本心から面倒臭いと思った。そして、その心情があからさまに顔に出ていたようだ。ヒヨコはそれを察知したのか、私の機嫌をとってきた。


「ご、ごめーんでーす。ホラーでいくでーす。ありがとうでーす」


「とはいえ、実力がある人気作家さんは、どういうわけか、ホラーには手を出さないぽこ。ほとんど見た事がないぽこ」


「なんでーすか、それっ! それを知ってての、ホラーの提案でーすか!」


「あははは、まあいいじゃないぽこか。ホラーってあれぽこよ! おばけを出せばいいぽこ」


「ふむふむ。それで、おばけを出してどうするのでーす? もう明日が締め切りだから最初から最後のページまで、ずっとおばけ出しておけばいいでーすか?」


「それ、お化けが主人公になるぽこ! 全然、怖くないぽこ! ホラーの醍醐味をバカにするなぽこぉぉぉ」


 私はつばを飛ばしながら叫んだ。最初から最後までお化けが出てくるホラー小説? そんなものはクソである。


「お、怒らないでほしいでーす」


「私は、ホラーのストーリーは2パターンしかないと思うぽこ」


「そうなのでーす? 2パターンなのでーす?」


「うん。1パターン目は『呪い系』ぽこ。呪いにかかってしまった主人公が、それから抜け出す為に悪戦苦闘するってやつだぽこ」


「呪いって、どんな呪いなのでーす」


「ジャンルがホラーじゃなければ、色々な呪いのパターンを考えられるぽこ。でも、ホラーならやっぱり『死』ぽこね。これしかないぽこ。序盤で、噛ませ犬的なキャラを死なせておくのも忘れてはいけないお約束ぽこ。呪いやお化けを怖いと思わせるぽこ。さらに、このままでは主人公も死んじゃうと読者に思わせるぽこ」


「なるほどー。ホラーでは、必ず噛ませ犬が必要になるわけでーすね」


「うまくホラーを書けば、読んでて、読者は危機の迫る主人公とシンクロするぽこ。死にたくない、と、まるで自分の事のように思いながらもハラハラしながらページをめくるぽこ。そこがホラーの醍醐味ぽこ」


「ふむふむ。なるほどー。それで2パターン目はどんなのでーす」


「2パターン目は『サイコパス系』ぽこ。サイコパスって意味分かるぽこ?」


「なんでーす?」


「頭のおかしな人間の事だぽこ。自己チューで善悪の区別がつかない人間とも言えるぽこ。世の中には隠れサイコパスがたくさーんいるぽこよー」


「そうなのでーす?」


「サイコパスは、頭がキレる人に多いぽこ。だから、初対面での印象はすごく良いらしいぽこ。本性を現わさなければ、ずっと有能だと思われたままぽこね。口がまわるから、話をしてても面白いと感じてしまうぽこ。でも、情というものが欠如しているから、油断していたら全てを奪われたり、上下関係を反転させられたりするわけぽこ。気付けば、尻の毛までむしり取られて、いいように扱われることになるぽこ」


「こ、こわいでーす。サイコパスってこわいでーす」


「まさにそれぽこ! 実際いたるところにサイコパスがいるけど、小説にするのなら、サイコパスの中でも更に上のランクに位置するサイコパスをお化けの代役として登場させるぽこ。『頭のとち狂ったサイコパスに目をつけられ、命を狙われ、追い回される』という話がいいぽこ」


「おおっ! それいいでーすね」


「以上、説明した2つのパターンのどっちかを、明日の締め切りに向けて、書いてみるぽこー」


「マメマメ姉さま、ありがとうでーす」


 私はキッチンでそのままコーヒーを淹れて飲んだ。そして、縁日セールでレンタルしてきたアニメのDVDを見る。門前仲町のレンタルショップでは縁日に割引となる店舗があるのだ。しかし、選択を間違えたのか、思った以上につまらないアニメで、途中でうとうとしながら眠ってしまった。目を覚ますや、時計をみて再びキッチンに戻った。今夜の夕食当番は私だ。そのキッチンでは、机でヒヨコが再び頭を抱えて唸っていた。


「うーん。うーん。吾輩は猫であーる。猫であーーるっ」


「またそれぽこかーーー。今度はどんな悩みぽこ?」


「マメマメ姉さま、もっと具体的なネタがほしいでーす。アドバイスがほしいでーす」


「ヒヨコは作家志望ぽこね? ただの素人な私に、頼るなぽこ!」


「いいではありませんか。マメマメ姉さまは、私たち4姉妹の中でも、ドラマや映画などの番組の採録を好んで行っているでーす。ネタとか色々とありそうでーす。ネタがなけりゃあ、海鮮丼はただの酢飯でーーーす。ただの酢飯じゃ、いかんでぇぇぇえええーーす。商売にならんでぇええええーす」


「……なら、ホラーでかつ、さっき説明した2パターン目のサイコパス系でいくぽこ。まずは、サイコパスに命を狙われる理由から考えるぽこね」


「狙われる、理由でーす?」


「色々とあるぽこ。でも、時間がないから、今回は適当にあらすじを含めて考えるぽこ。主人公はサイコパスなストーカーから逃げ回る。サイコパスは、あらゆる手段でこちらを探し出して、命を狙ってくるぽこ」


「ふむふむ」


「そして、最後に直接対決をして、宇宙空間に放り捨てるぽこっ!」


「お、おおおおお、面白そうでーす! というか、最後の部分だけ、色んな意味で飛躍してるでーす。どーやってサイコパスストーカーを宇宙船に同乗させて、宇宙空間に落とすのでーす?」


「だったら工場までおびき寄せて、熱で鉄がドロドロに溶けている中に、落としてやればいいぽこ!」


「アイウィルバーーークでーす! 気付いたでーす。どっちも有名ハリウッド映画のラストシーンじゃないでーすか!」


「とにかく『サイコパス系』の醍醐味は、自分よりも力が強く、命を奪いにくる敵に追われるという、その恐怖にあるぽこ。その恐怖を読者とシンクロさせるのが成功のミソぽこ。そして、終盤で追い詰められて絶体絶命の状況に追いやる事も肝心な『お約束』だぽこよ。ピンチの度合が大きければ大きい程、そこから生還した時のカタルシスも大きくなるという法則があるぽこ」


「ふむふむ。確かに映画のハラハラドキドキした映画は、みーんな同じような作りでーすね」


「頑張るぽこよー」


「やったるでーす」


 しかし結局、ヒヨコは応募の締め切りに、作品を出せなかった。


 まあ、当たり前の結果である。1日で作品を書き上げることなんてできないのだ。

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