第4話 アラジオと魔法のランタン 2願い目

 街の人気がない路地裏で二人の男が向かい合わせで立っている。


「ふふふ、やってくれましたねアラジオくん……私にはもう何も残っていませんよ……」


 商会を潰され路頭に迷い、かなりスリムになった男が身なりの良い青年の前に立ちはだかった。


「あんたか……随分やつれたな? あれだけ悪事に手を染めていたんだ自業自得だろ?」

「だったらこれも自業自得だな!」


 男は背中に隠していた単槍を取り出し、身なりの良い青年に向けて突き出した。


 この青年は元冒険者のアラジオ、現在は冒険などせず金で人を動かしさらに金を増やしていた。そして、最近暇つぶしで過去に因縁があった商会を潰したのだ。


「ははは、元冒険者の俺に勝てると思ったか!?」


 アラジオは自信満々に啖呵を切った。 



 はい! どもドモです。


 俺は今”人間に苔は生えるのか実験”の真っ最中です。


 一面に苔が茂る湿原に横たわって数年……。


 けっか! はっぴょ~う!


 人間にも苔が生える! もう見事に生えましたよ! もう地面と見分けがつかない程びっしりとね! 


 いやー朝露のしずくに胞子が飛んできて、俺の肩に芽吹いたときは感動すら覚えたね。


 そしてこのじめじめ感とほのかな暖かさがとても居心地がいい……。後数年はこのままでいたい。


 んん? 呼び出しキター! ってこれは成金黒歴史青年のランタンか気乗りしないな……。いや、でももしかしたら面白いことになってるかもしれないから行ってみるか。


「モゴムゴゴムゴー!」


 勢いよく起き上がって叫ぼうとしたらなにかに妨害された!


「ぶええええ! 口に苔が入り込んでる! ペッ! ペッ!」


 俺は口に入り込んだ苔を吐き出すと緑の魔人に変身して転移した。



 目潰しフラッシュからの設定ゼリフ!


「さぁ! ご主人さま、2つ目の願いを叶えて差し上げましょう!」


 しかし目の前には、誰もいなかった。おかしいなと思って周囲を見ると、なんと足元にあの青年らしきド派手な服の人物が血の海に倒れていた。体から魂がコンニチワしているので死にたてみたいだ。


「ええ……死んでるじゃん……」


 どうやら青年は最後の力を振り絞ってランタンに火をともしたらしい。


「こういう場合どうしたら良いんだ? とりあえず状況を見てみるか」


 俺は[遠見の鏡]スキルを使いテレビを召喚すると、リモコンの巻き戻しボタンを押す。


 映像は過去に巻き戻りこの路地で青年に誰かが話しかけたところまで巻き戻った。


 ふむ……青年は悪徳商人になにかしたのか……。


 っていうかこの青年の名前は”粗塩”っていうのか。


「プクククク」


 俺、この日本語と偶然一致しちゃう名前を聞くと笑っちゃうんだよね。ちなみに俺の一番好きな名前はモウ・ドウシ・ヨウモネーって没落貴族だ。


 おっと、本題からずれた。続き続き。


 あーあ、槍を回避しようとしたけど、冒険者を引退して鈍ってたからブッスリ行っちゃったのね。やせて動きがき機敏になった商人のが一枚上手だったね。


 金持ってるんだから護衛ぐらいつけろよな……ああ慢心か。自己評価が強かった頃の自分で止まってるんだな。子供の運動会でお父さんがすっ転ぶのと同じ原因だ。


 槍が腹に深々と突き刺さりアラジオは血の海に倒れた。


「やった! やってやった!」


 商人の男はそのままどこかへ走り去っていった。


 そして息絶え絶えの青年がランタンを取り出し火を着けてご臨終っと。


「どうするかこれ」


 死にそうになってるときの願いと言えばやっぱり生きたいだよあなぁ……。でも違ったら困るし一旦生き返しておくか。


 俺は体からコンニチワしているアラジオの魂を鷲掴みして無理やり体に押しもどした。そしてすぐに回復魔法で傷を塞ぎ増血魔法も掛けて万全の状態に戻した。


「あとは意識が戻るのを待つだけだな……」


 俺は魔神っぽく腕組をしてアラジオの意識が戻るまでじっと待った。


 しばらくすると起き上がり不思議そうにあたりを見つめたあとボソボソと喋り始めた。


 ここは声をかけないでまずは様子見だな。生き返してくれなんて言ってないと騒ぎ出したら槍でもう一回刺さなきゃいけないからなぁ。


「魔人か……二個目の願いがギリギリ間に合ったようだな……」


 アラジオは傷口に触れ完治しているのを確認しながらそうつぶやいた。


 よしよし、蘇生で二個めの願いを消費完了だな。


「それでは、次回三回目の願いでお会いいたしましょう」


 俺はそう言ってその場からすぐに姿を消した。



 家に戻るととりあえず鑑賞タイムだ。また黒歴史をなぞられるかと思うとちょっと見たくない気もするが、やっぱり気になる。


[遠見の鏡]スキルを使い液晶テレビとリモコンを召喚して電源を入れる。


 先程まで俺がいた路地裏が映し出された。


『クソあの野郎絶対に捕まえて死刑にしてやる』


 アラジオは、血で汚れた服を忌々しそうに見つめていた。


『旦那様……?』


 愚痴っているアラジオの元に一人の女性が現れた。この場に似合わぬ美しいドレス姿で、まだ若いのに化粧がかなり濃い。年月が経ち様子が少し変わっているが、この女性はあの元奴隷の美幼女だろう。


『なんだ、おまえか』


 突然声をかけられて焦った様子だったが知っている人物だったので安心したようだ。


 でもあれだな、あんなにチヤホヤしてたのに”おまえ”呼びになってるとか嫌な感じだな……。もしかして!まだ元奴隷が仕方なく媚びているって気がついてないのか?


「それって……まずいんじゃね?」


 俺は心配になりながら続きを見続ける。


『……なんで……ですか?』


 元奴隷がうつむきながらボソボソと何かつぶやいているがよく聞き取れない。


『なんだ? おまえのくだらない用事はあとにしろ、とりあえず着替えをもってこいこんな格好で表は歩けん』


 そう言われた元奴隷の女性は、歯を食いしばり拳を強く握りワナワナと震えている。


「おいおい、彼女さんブチ切れてますよ? 大丈夫か粗塩よ!」


『さっさとしろ!』


 アラジオが声を荒げたその瞬間だった!


 女性がナイフを取り出し、体当りするように全体重を乗せてアラジオの腹に突き刺した。


『なんで死んでないの! おかしいじゃない! きちんと死になさいよぉぉぉぉ!』


 倒れたアラジオに覆いかぶさるようにまたがり、ナイフを腹に突き立てた。刺しては抜き刺しては抜き……何度も腹にナイフを突き立てる。ドレスは返り血でどんどんと染まっていく。


「うわぁ……恨みすごすぎぃ……。元奴隷の態度がおかしいなと気が付かなかったら俺もああなってたのか……」


 アラジオの息の根が止まったを確認した元奴隷は、立ち上がり転がっている俺のランタンをキッと睨みつけた。ゆっくりと俺のランタンの前に移動する。


「お?次のご主人はこの子かな?」


 そんな呑気な俺の考えは打ち破られた……。


『こんな物!こんな物!』


 そう言いながらランタンを踏み砕いた。


『こんな物を私達・・より大事そうに!』


 うわー! やっちゃったよ魔法のランタンが何か分かってなかったのか……。


 ……? 私達?


『ママ……?』


 一心不乱にランタンを踏みつけている女性に10歳ぐらいの男の子が話しかける。その顔は、元奴隷の女性が美幼女だった頃にすごく似ている。


「もしかして息子かな? 恨んだまま子供まで……闇が深すぎる」


 俺は恐怖のあまり身震いする。 


『大丈夫もう終わったわ!もう殴られなく済むのよ!』

『本当?もう僕もママも、もう痛くない?』


 おう……マジかDVまでやらかしてたんだ……。それで彼女は化粧が濃いのか……。


 これは時間を戻す案件か? いやしかし、子供への愛は深いようだ。時間を戻してあの子の存在を消すのはダメなような気がするな……。


「よし! アフターケアをしっかりしよう!」


 俺はすぐに転移して親子が去る前に魔法で眠らせた。そしてとりあえず放置されたアラジオの死体の時間を少し巻き戻し槍での刺殺状態にした。そして眠らせた元奴隷の女性と子供に幻術を掛け、刺された彼を見つけてニヤリと笑った記憶を幻視させた。


 これで真の記憶と死体の状態の乖離で刺した記憶は恨みによる幻覚だと思うだろう。俺があのアラジオを生き返さなければ多分こうなっていたかなという状況に真実・・を捻じ曲げた。


 俺は透明になり、事の成り行きを見守る。


 元奴隷は目覚めると血がついてないナイフや綺麗なままのドレスを見て首を傾げていた。そして子供をじっと見つめた後に「しっかりしなくっちゃ!」と気合を入れて怯える演技をしながら大声で助けを呼ぶ声をあげた。


 衛兵が駆けつけてきたのを確認すると、俺は次の行動に移った。アラジオの悪事を調べ上げ周辺の住民の記憶に植え付ける。すると以前からうっすら知っていたように感じるのだ。最後の仕上げにDVを目撃していた”奥様派の使用人”と新聞記者が出会うように仕向けた。


 数日後、紙面を賑わしたのは、悪事の末に破滅した商人が、最近名を上げてきた若手の悪徳商人を殺したという抗争事件だった。残された未亡人がDVを受けていたというおまけ付きだ。


 願いを叶えるランタンは、3つ目の願いまで行かず、なんとも後味の悪い感じで終りを迎えたのだった。


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今回の一言:ランタンは直して、またダンジョンの宝箱に入れておきました。

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異世界転生して全能になったので願いを叶えるアレをやってます タハノア @tahanoa

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