第3話 アラジオと魔法のランタン 1願い目

 これは、ある豪華なお屋敷での出来事である。暖かな日差しが差し込む部屋は冬だというのにポカポカと暖かく、この屋敷の中でも良い部屋だということがわかる。


「本当に宝箱の中にある物をひとつ貰えるんだよな?」

「ははは、アラジオさんは心配症ですな。契約魔法まで使ったんだから心配することはないでしょう?」


 豪華な金細工が施された宝箱が乗るテーブルを挟んで二人の男が話し合っている。


 一人はこの豪華な屋敷の主人であろう恰幅のいい男性だ。そして宝箱を挟んで向かい側にいる小柄な男は、その装備から見て探検家や冒険者といった風貌だ。


 小柄な男は契約内容を思い浮かべる。


 ”この宝箱に合う鍵を持ってきた者には、この宝箱の中にある一番大きな物を一つだけ譲渡する。”


「たしかに……」


 小柄な男は、懐から大きな青い宝石がついた金の鍵を取り出すと、名残惜しそうに手渡した。


 「よし……開けるぞ……」


 屋敷の主によって金の鍵が宝箱の鍵穴に差し込まれた。生唾を飲み込んだあとその鍵をゆっくりと回した。


 カチリ!


 何度も聞きたいと思っていた音が鳴り宝箱がその口を開いた。


「おおおお!」

「これはすごい!」


 箱の中身は金貨や大粒の宝石など金銀財宝がぎっしりと詰まっていた。日に照らされた黄金はキラキラと眩しいぐらいに光り輝く!


 小柄な男の目に止まったのは拳二つ分ほどある大きな金塊だ! それを貰えるとなると宝石付きの金の鍵など些細な価値に思える。


「やった!じゃあこれをもらっていくぜ!」


 そう言って金塊に手をかけた時だった。山が崩れ金塊よりも大きな物が現れた。


「おや……? これは残念でしたな! しかし契約は契約! あなたの取り分はこれですな! ははは!」

「なっ納得できねぇ!」


 そう言ってもう一度金塊に手をかけた時だった。突然心臓に刺すような痛みを感じた。


「いけませんね。契約魔術を破ると死んでしまいますよ? おとなしくそのゴミを持って出ていってください」


 小柄な男は、抗議し暴れようとしたが、屋敷の警備兵に取り押さえられ屋敷から叩き出された。


「二度とくるんじゃないぞ。次来たら裁きを受けることになるぞ!」


 表通りに投げ出された小柄な男は、悔しさのあまり地面の土を強く握りしめた。


「おっと忘れ物だ! ほら、お前のお宝だぞ! はははは!」


 警備兵はそう言うと小柄な男に向かって”古臭いランタン”を投げ渡した。


 男は情けなくなり涙を流した。



 どうもドモです。お爺ちゃんの願いを叶えてから少々時間が経っています。


 ただ今俺は、木に取り込まれています。


 まるで街路樹に巻き込まれるガードレールのごとくしっかりと木に食い込んでいます。木は俺の股下から生えて股間を通り右脇腹そして肩までをも巻き込み今もなお成長中です。


 これは最近の暇つぶしである”木は人を巻き込んで成長するのか実験”の途中なんだよね。


 途中と言ってもう結果は見えているね。答えは”巻き込む”だ! いや~植物っていうのはすごいね。一見すると動いていないようだけどいつの間にかガッツリ食い込んできてたよ。


 意外と面白かったからぜひみんなも真似してみてね! おっと! 防御力の低い人はやめたほうが良いね! なんでかって? 木が内臓をぎゅうぎゅう締め付けて来るからだよ。


 これが意外にきつい! 累計ダメージにしたら邪神の腹パンぐらいの威力はあるね……。


「おおおおおっと! 久しぶりに呼び出しが来た! こんなクソみたいなことやってないでさっさと行くぜ!」


 おっとあまりの嬉しさにまた声が出ちまった! ええと、今回はランタンの魔人だ!


「変身! よっしゃー! 行くぜ行くぜ~!」


 俺は、体を膨らませ筋肉隆々で緑色の魔人の姿になった。


 あっ! 実験中の木が吹き飛んでしまった……。


「まいっか!」


 俺はすぐに反応があった場所へ転移した。



 転移完了。そしてすぐに目潰しフラッシュ!


 よし、これで光と供に現れたように見えたに違いない。


「さぁ! ご主人さま、あなたの願いを三つだけ叶えて差し上げましょう!」


 さてさて今回のラッキーさんどんな人かな?


 突然現れた俺に驚いたようで、腰を抜かしている若者が今日のラッキーさんだな。服装からして冒険者かな? で、ここは……うん、街の安宿って感じだな。


 ふむふむ駆け出しの冒険青年かな? 俺も昔は冒険に明け暮れたな……今じゃもう飽きたけど。


「なななな、何だお前!」


 あれ? 噂を聞いて探し当てたって感じかと思ったけど、この青年は何も知らないっぽいなぁ~。だったら緑マッチョが急に現れたら腰抜かしても仕方がないか……。


「このランタンに火をともしたのは、貴方様でしょう?」


 若者は、ランタンと俺を交互に見ると、首を縦に振った。


 こりゃ説明しないとだめだな……。


「ご存じないようなのでご説明いたします。この魔法のランタンに火を灯せば私が呼び出されるのです。そして呼び出した方の三つの願いを叶えて差し上げるということでございます」


 ポカンとしていた若者は、俺の話を聞いて口元がゆるくなる。イカツイ緑マッチョでインパクトを与えて丁寧な話し方で安心させる効果が発揮されてるね。


「なにか代償を取ったりしないだろうな」


 ワオ! 作戦失敗! めっちゃ警戒されてる。やっぱり女神タイプの方が良かったか! いや女神も別口であるからこれはこれで良いか……。とにかく願いを一個叶えれば信用されるでしょ。


「あるはずがございません。願いを叶えることこそ私の使命……その他のことは気にもいたしません」


 若者は腕を組み懐疑的な視線を向けながらも願いを口に出した。


「とりあえず大金をくれ。あのクソ野郎の資産を超える金がほしい!」

「了解しました。すぐにご用意いたします」


 そう言って指を鳴らすと、[時間停止]で世界の時間を止める。


 うむ、お金だねシンプルイズベストだね! ストレートでよろしい。でもあのクソ野郎って誰だよ! 聞けば早いけど、なんか聞いたら負けっぽい気がするな。


 ならば、[読心]! このスキルは心を読むスキルだが、俺の場合は、練度が天元突破してるから過去まで読めちゃうスキルになってるんだよね。


 ふむふむ、クソ野郎の正体は商会の会長か。よし次はこの商会の会長の資産を調べなきゃな……。[千里眼]&[看破]!


 この商会黒い事が多すぎるだろ……イキってた若い頃だったら潰しに行ってたレベルのやばい商会だな……。おっと脱線したね総資産は……っと。こんなもんか、五番目の財布で丁度いいかな。


 俺は、亜空間倉庫から金貨が詰まった財布の五番目を取り出す。手で持てるサイズのマジック袋を若者の目の前に空中固定する。


 準備完了だな。あとは時を動かせば金貨の袋が落ちて指パッチンで出てきたように感じるはずだ。


「よし! [時間停止]解除!」


 時が動き出すと思惑通り袋が床に落ちる。


「おわ! 急に袋が……って小さいな!」


 若者は、そう言うと袋の底を持ちつまみ上げた。


「こんな小さな袋であいつの資産に……!?」


 逆さまに持ったせいで袋から金貨がバラバと落ちてくる……。何を散らかしてるんだこいつは……マジック袋すら知らんのか……。


「なっ! これはマジック袋か! こんなアーティファクトまでくれるのか!」


 え………………?


 あれ? 一人一個は持っているお手軽な魔法アイテムがアーティファクトだって!? 嘘だろ!? 魔法技術衰退しすぎじゃね?


「え……あ……そっそれはサービスでございます。ここで全てをお出ししては部屋が大変なことになりますのでね……」


 我ながらナイス言い訳。これでごまかせるだろ。


「それでは、次回二回めの願いでお会いいたしましょう」


 俺はそう言ってその場からさっさと逃げ出した。

 


 家に戻るといつもの鑑賞タイムだ。


「あ、名前聞き忘れた……まぁ良いか」


 [遠見の鏡]スキルを使い液晶テレビとリモコンを召喚してテレビをつける。


テレビには部屋いっぱいの金貨の中で泳いでいる青年が映し出された。

 

「うははっ! まだ出てくるよ、最高かよ!」


 うわ、成金街道まっしぐらじゃん……。


 俺はその後不安になりながらも、様子を見続けた。


 金貨のお風呂を堪能した彼はすぐに豪邸を買った。さらに不動産屋に誘導されるがまま使用人代わりの奴隷を買いに奴隷市場へと向かった……。


 そしてついに嫌な場面に遭遇してしまった。


「いいんだよ、もう君は自由だ」


 冒険青年は金に物を言わせて美幼女の奴隷を買った後に屋敷につれていき即開放した。俺は思わず声が出た。


「うわ! やっちゃった」


 俺の黒歴史が蘇る……。


 俺も奴隷を買って開放したことがある……。後から知ったことなのだが奴隷というのは開放されるとむしろ困るんだ。


 冷静に考えればわかることだが、住む場所もなく、ボロ布一枚で放り出されるからだ。もうこの日から飯が食べれないことが確定したのである。


「ありがとうございます。私はあなたに一生お使えします!」

「ええ? 自由になったのに?」

「だからです。こんな私にお慈悲をくださる貴方にこそお使えしたいのです!」


 うわ、やっぱり必死にこびを売り始めちゃった。


「そういうことなら仕方ないなぁ……」


 やめろやめろ! それ勘違いだから! 気づけ過去の俺と青年!


 関係を迫ってくるのも子供さえいれば……という考えが根本にあるからだぞ! 勘違いするな!


 その後、風呂に入れたり洋服着せたりと俺の黒歴史をなぞって行く……。そして別々の部屋で就寝した。


 ハイきました! 案の定、美幼女が「夜伽をしないと」とか言って夜這いを仕掛けたーー!


「あああ! もう見てられない!」


 俺は[遠見の鏡]を解除して様子をうかがうのをやめた。


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今回の一言:奴隷って待遇がクソだけど衣食住が保証された”職業”だと思うんだ。

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