第2話 ドラゴンキューブ
ここは、どこかの屋敷の地下室……。
背中に大きな剣を背負った短髪の少年が、メガネを掛けたローブ姿の少年と話し合っていた。
「なぁ……本当に、こんな物で願いが叶うのか?」
「私の屋敷にあった書物に書いてあったのです。それにこの物体は何をしても壊れないし、ものすごい魔力を感じるのです。絶対に集める価値はありますって!」
少年が座っている机の上には数字が書かれたキューブが置かれている。数は六個ありそのうち数字は、I II III IV V VIIと彫られている。
「後はご先祖様が見つけられなかったVIだけなんだよ!」
それから二人の険しい冒険の旅が始まった……が!
この物語は全編カットである! 仕方がないね主人公には関係ないからね!
◆
ハイ! どうもこんにちはドモです。願いを叶える儀式手順を撒いて、はや、うん十年……。まったく誰も呼び出してくれない……。
気合を入れて、儀式ごとに叶えるときの姿や、真面目にしっかりこたえるキャラとか、金をくれと言われたら意地悪で教会の鐘を出すキャラとか色々設定したのに、全く呼び出されない。
暇すぎて頭おかしくなって、[大根ごっこ]とか言ってワンシーズン胸まで土に埋まって暮らしたりしてたよ!
世界のみんな! 良かったな俺が弱いものいじめが楽しくない性格で! 危うく第二邪神が誕生するところだったぞ!
ん? もしかして俺が倒した邪神も暇すぎて頭おかしくなったのか? だとしたら可哀想な事したかもしれんな……。
そうやって意味のわからん考察を繰り広げていたらついに儀式の反応を感じた!
「おおおおお! 来た来た! えーっと! これは、七つ集めると願いが叶うドラゴンキューブだ! よし!ドラゴンに変身! 行くぞ! オー! ってまた俺また独り言をいってる~!」
俺は変なテンションで黒竜に変身してすぐに儀式の反応があった場所へと転移した。
◆
転移すると目の前は紫色の煙で覆われていた。どうやら煙を出して転移までの時間を稼ぐ仕掛けはバッチリのようだ。
これは緊張するなぁ。十中八九いけると思ってたプロポーズの百倍は緊張するぜ……。
ドラゴンらしく声は低めにして……。オーケー! 準備万全!
「さぁ……願いを言え。どんな願いも一つだけ叶えてやろう……」
紫の煙を消すと同時に決め台詞を放つ。さてキューブを揃えたのは……。
「おお! 本当に出てきよったぞ!」
「ああ すごい魔力の黒竜じゃのう……」
俺の目の前にいたのは、ハゲた小太りの爺さんと、メガネに白髪オールバックの爺さんだった。呼び出された場所はどこかの丘の上だな。ぱっと見たところ周囲に人里は無い。
「まさか四十年の大冒険から帰って来たら屋敷の近くの古道具屋に最後の一個があるとはのう……」
ハゲの爺さんは、最後の一個が意外と近くにあったと聞いてもいない話を始めた。
「灯台下暗しとはこのことじゃなぁフェフェフェ!」
白髪のじいさんは、何がおかしいのか、めっちゃご機嫌のようだ……。
うん……何だろこれ……思ってたのと違う……。
もっと野望にギラ付いてる奴とか、とんでもない不幸を抱えている奴とかが呼び出すのかと思ってたんだが……。
幸せなおじいちゃん友達みたいな二人だなぁ。それにしてもこの二人……願いも言わずに「あの時のお前はああだった」とか「その時のお前の顔のほうがアレじゃったとか」代名詞ばっかりで内容がさっぱりわからん話をしている。
まさか初の呼び出しで放置を食らうとは……さすがの俺も催促するしかないね。
「願いは無いのか……。どんな願いも一つだけ叶えてやろう……」
そう言って催促するとハゲの爺さんが自分の頭をピシャリと叩いてこう言った。
「すまんすまん! お前のこと忘れとったわい」
うん……イラっとしたね! オッスおらゴ○ウ! オメェぶっ殺すぞ!?
「すみませんなぁ黒竜様。歳を取ると思い出話しか楽しいことがなくてねぇ……。話し始めるとつい本題を忘れちまうのじゃ」
一方白髪の爺さんは謝罪をする。だけど、その言い回しは、長生きだけど思い出話が一切ない俺にクリティカルヒットするからやめてくれ……。
「願いかぁ、わしゃ今の生活で満足じゃ……お前に譲るよ」
「フム。ワシもお前と同じで嫁も子供も孫もいるし幸せの絶頂じゃ」
…………。俺は何のために呼び出されたんだろ……。
俺は、ギロリと二人をにらみつける。大人気なくちょっぴり殺気まで出しちゃったりして。
「ヒェェ! 何でも良いから、はよ願いを言うんじゃ」
「ななな! 急に言われても……。そうじゃ! あれじゃ!」
どうやら願いが決まった……かな?
「ワシらの孫が一生病気にならないようにしてくれ!」
「名案じゃ!」
孫の健康か……。ってワシらってどういうことだ? 確かドラゴンキューブの設定は複数だったら拒否しないといけないだったな調べてみるか。
俺は[看破]のスキルを使い二人の爺について調べる。
家族構成を見たところ、ハゲの息子が白髪の娘と結婚して孫ができたようだな。今の所一人だから願い的には問題ないが……めっちゃ地味……。
今すぐ効果が無い系だから絶対喜ぶところを直に見れないじゃん……。まぁ仕方がない……。
「その願い叶えてやろう!」
俺は無駄にピカッと光りながら二人の孫に[病魔退散]の加護を飛ばした。
[千里眼]で確認したところ、子供を抱いていた母親が子供が光ったことにビビってたが、効果は問題ないな。
「願いは叶えた……ではさらばだ……」
俺はそう言って徐々に転移していった。それと同時にドラゴンキューブが空に飛び上がり世界のあちこちへと飛び去っていった。
◆
「よし願いを叶えたぞ。その後のお楽しみタイムがやってきたぜ!」
家に戻ってきた俺は、[遠見の鏡]というスキルを使いあの爺さんたちの様子を覗き見る。
このスキルは魔王の力を弱める聖なる火を持ってた魔女に習ったものだ。魔女が出してたときは杖と鏡だったんだが、何故か俺がやると液晶テレビとリモコンだった……。ファンタジーも何もあったもんじゃねぇけど、魔女いわく慣れてるものが出やすいって事だったんで納得したんだったな。
という分けて俺は、リモコンのスイッチを押してテレビをつける。
「お! 写った写った!」
テレビには、老人が二人写っている。場所も変わらず丘の上のようだ。
「ありゃ、帰ってしもうた……。それにキューブも散り散りに飛んでいってしまったのぉ」
「ううむ。本当に願いはかなったのかのぉ? 即効性がないから、わからんわ……」
そう言って二人はゆっくりと丘を降りていった。
うむ……年寄は動きが遅い……。徒歩5分の道のりを三十分ほど掛けてゆっくりと歩いていった。暇すぎてまた土に埋まろうかと思った時に、ようやく二人は家についたようだ。
「お父さん大変なんです! この子が急に光りだしたと思ったら[病魔退散]って加護が急に!」
その言葉を聞いた爺の二人は、手を合わせて「本当じゃったのか!? ありがたや、ありがたや」と祈りだした。
その光景を見て満足した俺はテレビを消した。
うん! 叶えた直後の反応は微妙だったけど結果は良かったな!
やっぱりこの遊びは面白い! 早く次の呼び出しこないかな~!
こうして俺はまた土に埋まり大根に戻ったのだった。
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今回の一言:願いを叶えるといったらやっぱりドラ○ンボールですね。
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