8月15日
「アーちゃんこっちだよ!」
「待ってよシーちゃん、そんなに急ぐと危ないよ」
僕とシーちゃんは裏山にカブト取りに来ていた。
夏になると学校が休みになって、家が隣同士の僕たちは毎日のように遊んでいたんだ。
「こっちこっち!早くしないとカブト逃げちゃうよ」
無邪気に手を振る様はこの日の太陽のように元気で明るかった。
「そんなに急いでもカブトは逃げないよ。きっと食事に夢中だよ」
そんな子どもらしいことを言いながら必死にシオンの後をついて行く。
シオンはというもの、たまにこっちを気にするぐらいで基本的にズイズイ進んでいった。
「ほら、ここ。この木、樹液がいっぱい出てるからきっと凄いのがいる、はず!」
シオンが足を止めたのは大きな木が沢山並んでいるところで、その中でも樹液が出ている目当ての木は裏手側が小さな崖のような斜面になっていた。
「凄いでしょ、ここ!レンちゃんに教えてもらったの!」
「レンちゃんってパン屋のレンカさんのこと?」
「そう!レンちゃん何でも知ってて凄いんだよ!」
喜々としてそう語るシオンとレンカが話をしているところは見たことがないけれど、きっと女の子の間には秘密の連絡網があるのだろう。
そんなことを考えながら、シオンが待つ木の方に近づいていくとその木の大きさがようやく分かった。
「大きいなぁ」
そんな感想しか出なかったけれど、その言葉を待っていたかのようにシオンは得意げに笑う。
「凄いでしょ!きっとこの木なら虫相撲で負けない強いカブト、いそうじゃない?」
「うん!探してみよう」
木のスケールの大きさにテンションが上がってしまい、周りのことも気にせずカブトを探していた。
「うーん大きいカブトいないなぁ。クワガタならいるんだけど」
「そうだね。最近カブト減ってきてるもんね」
何気ないシオンからの話に自然と目線はシオンの方に向き。
これから起こるかもしれないことに気が付いた。
「シーちゃん危ないよ!」
「え?」
そう僕が声を掛けたのが遅かったのか、シオンの体は裏手側の斜面に対して垂直になっていて足は宙に浮いていた。
「あ、わ!アーちゃ――」
体勢を崩したシオンの手は自然と僕の方に向いていて腕を掴むには苦労しなかった。
僕は自分が斜面の下の方に落ちることを引き替えにして、シオンの腕を引き体を安全な所へ戻すことを選択した。
その結果ゴールの見えない斜面を転げ落ち自然と気を失っていった。
最後に覚えているのはシオンの泣き顔と叫びに近いシオンの声。
それから僕はすぐに病院に行き、何とか一命を取り戻せたらしい。
そんな昔のことを俺は今でも夢に見る。
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