カケホーダイプラン③
「俺だが」
『む? 誰だきこ』
「先ほどニュースでザフト中層での暴動鎮圧が話題になっていたぞ。まさかお前関わってないだろうな」
『ザフト中層の暴動……ああ、あれか。報道が大きく書いているだけで実際のところ小物が集った小競り合いに過ぎぬと聞いたぞ』
「そうか、相変わらず耳が早いな」
『それが仕事の一部故にな』
「思い出したのだが、あの辺りに以前懇意にしていた茶屋がなかったか?」
『商業層ともあれば茶屋のひとつやふたつあろうて。ところで貴公一度名乗っ』
「あそこの煎茶はよかった。確かあられも使われた香ばしいものだった」
『……ほう、あられ入りの煎茶とな。今時珍しい、近々行ってみるか』
「お前が入り込んで暫く出てこなかった酒屋も近かった気がするな」
『酒屋? 少し離れた場所にあったような、いや待て何故それを知っている』
「以前、品質もそこそこに良く手土産を選ぶにも都合がいいなどとお前が手放しに褒めていた」
『あの酒屋は穴場だと思って、あそこを見つけた話は誰にもしていないのに……』
「俺は酒は飲まんが、翌日用事がないからと酔い
『はぁ、一人呑みで深酔いとは相当だな』
「朝になっても部屋中に酒の匂いが充満してるのは臭くて敵わん。エムが消臭スプレー片手に突撃してくるまではよいにせよ、その匂いで鼻が馬鹿になりそうだ」
『芳香がキツイ消臭スプレーは確かにあるな』
「いずれ内臓が潰れても知らんからな。流石に酒の飲み過ぎで内臓の交換をするとあれば手術代は手伝わんぞ」
『これ以上内臓を取り換えようものならいよいよ諸手続きが
「ただでさえ行政を頼る身でもあるまいよ。今更お前の仕事の仕方に口は出さんが、怪我をして戻って来られても俺は何もしてやれんのだ」
『心配せずともかかりつけの医者がおる。此方の勝手も理解しているさ』
「その医者にすら連れて行けんと言っているのだ阿呆。お前はここに医者を呼び付けることを絶対にしないとなると、いよいよジェイあたりにお前のデカい図体を引きずってもらう他なくなる」
『むう……確かに、誰かの手を煩わせるような怪我は負いたくないものだ』
「解ればいい。そういえばお前近頃武器の手入れはどうしている?」
『問題ないが、と言うと?』
「最近磨いてやってないと思ってな。使ってないならまだしも、先日服の裾に血がついていたのを見たぞ。どこかでやり合って来たのではないか」
『さて、どうだったか』
「お前の武具は単純だから多少錆び付いても気にならないかもしれないがな、ここぞという時に少しの手入れ不足が耐久に影響したりするのだ。いずれ命取りになるぞ」
『武の道に通ずる者であったか。言う通りだ、では近い内に手入れを頼もう』
「なんだ今日はやけに素直だな。いつもそのくらいで居ればいいものを」
『まあ偶にはな』
「フン、さては良からぬ事を企んでいるな。下手に出れば思い通りになるとは思うなよ」
『いやそこまでは思っておらんのだが』
「しかし、お前がもしどうしてもと言うなら物によっては考えてやらんでもないぞ。偶には相談というものをしてみろ」
『ンン、考えておく』
「やはり素直じゃない奴だ。そんな奴には俺が隠している秘蔵の水羊羹はくれてやらん。ふはは」
『ふむ、水羊羹か。確かむす……いや、知人が獅子屋の水羊羹をいたく気に入っていたな』
「獅子屋の水羊羹といえば季節限定の逸品ではないか」
『時期のものか、よく名前を聞くとは思っていた』
「俺も組にいた頃、手土産としてあれを貰った時は立場を構わず
『確かに大変だった……。 通りで購入までに専用のチケットが抽選だの何だので手間がかかった訳だ』
「抽選だとしてもお前なら権利を持っている者から奪い取るだろう?」
『待てそんなに悪い輩なのかそやつは』
「ん? お前今更行儀のいい聖人君子ヅラをしようというのは無理があるぞ」
『あ、いや、そ、そうか。無理か……』
「それとも最近相手にしている客にはそういう顔が有効なのか? まあ
『急に設定の難易度が上がったぞ……』
「何か言ったか?」
『ん、ある程度器用な行動が出来ないと己の首を絞めるのはどこの業界でも同じであるな、と』
「そこまで長い文言ではなかったような気がするが。まあよい。その点に関してだけは認めている。たったひとりでそこまで、器用な奴だと」
『フッ、そうかそうか。重畳なことよ』
「ところで頼みがあるのだが」
『なんだ?』
「帰りがけに獅子屋の甘納豆を買ってきてくれ」
『……貴公、まさかその為の称賛ではあるまいな』
「はて、何のことだか。本来なら水羊羹と言いたいところだが、季節外れだしな」
『はぁ、全く。期待せず待っていろ、火急の用ではなかろうて』
「ああ構わん。だが利子に気をつけろ、お前が一番理解しているはずだ」
『茶菓子に利子がつくのか? 貴公も相当に悪どい
「お前に輩などと言われる筋合いはないわ、道徳という言葉の意味を知っているか?」
『此方としてはそれこそ双方に問いたいのだが……』
「自覚しているかは知らんが、身内以外へのお前の対応の温度差はかなりのものだぞ」
『例えばどういうところがそう思う?』
「前に蓮が言っていた。自分が得をしない事柄には一切手を出さず、利すると判断したときのみ即座に動くその線引きの明確さが印象的だと。身内なら多少の不利益も許容するその差分がより不可解に目に映るようだな」
『君主論やマキャヴェリズムじみたものか。全肯定をするつもりはないが、この國においては必要不可欠な素質と言えよう。極端すぎるのも如何なものかと思うが』
「今更お前の性質や性格が矯正されるとは思っておらんわ。俺はただ享受する立場だ、不都合もない」
『その件に関してこの場では何も言うまいよ。ところで、それは蓮の端末ではないか?』
「そうだが」
『蓮は何をしている?』
「蓮なら見当たらぬ俺の端末を探している。だがさっきからそこに居座っているということは見つかったのか? ……どうもそうらしい」
『そうか、それならいいが』
「とにかく件の報道がお前のせいではないならよい。今日は戻るのか?」
『はて、どこぞの誰かに御使いを頼まれたからなあ』
「なんだお前ザフトかメディオ辺りに居るんではないのか。まあよい、俺と長話出来るような状態であれば余程のこともないんだろう」
『ああ本当に。休日でよかった』
「お前の休日などあってないようなものだろうに」
『それだけは否定できぬ……』
「喋りすぎて舌が乾いた。ではな」
『は? 貴公そんな急に切っ』
「ん? まだ何か言っていたか? まあいい。長く借りたな。礼を言う」
「いいけど。これ、シグマの端末。優が見つけてくれた」
「ベッドの隙間に落ちてたよ〜」
「通りで見つからないと思ったわ。さて、茶を淹れてこよう。暫し待っていろ」
「ああ。……え? カリンと喋ってたんじゃ」
「蓮さんどうしたの?」
「タロスとの通話履歴が残ってる……」
「ええ? 通話中ずっとシグマさん勘違いして喋ってたってこと……?」
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