カケホーダイプラン②


「おう、カリンだ」

『ねえちょっと! 今どこにいるの!?』

「そいつはプライバシーに関わる質問だなァ。なんかあったか?」

『居場所が言えないようなことしてるならもっと慎ましい行動を心がけてほしいなぁ!? カメラ映ってるから!』

「場所分かってんなら聞くなよ嬢ちゃん。この辺にカメラなんてあんのか?」

『上層外縁部の天気映してるライブカメラがあるの! 続けるならもう5歩くらい右側の建物に近づいて』

「いーじゃねェか見せつけてやろうぜ。よかったなお前らライブ配信中だってよ? 言っときたいこととかあるか?」


『いや音声まではさすがに拾える距離じゃないから……。 ちなみに、なんでこんな昼間から盛り上がってるわけ?』

「なんだよつまんねーな。なんでってそりゃぁ、社会貢献ってヤツだろ」

『うわ、ハルさんからは絶対聞かない答え返ってきた。なんでその人たちを恐喝することが社会貢献になるの?』

「あん? 音声拾える距離じゃねェんじゃなかったか」

『お相手さんたちの惨状見れば遠目でもわかるよこんなの……』


呵呵カカ、好奇心は猫をも殺すって諺があるの知ってっか?」

『”but satisfaction brought him back”、しかし知識を得て満足した猫は生き返った。そんな続きがあるのはご存じ?』

「そういうとこだぞチビ。んじゃあ、金回りが滞るとどうなる?」

『経済が死んでくとは言うよね』

「そう。債権の回収っつうのはな、滞ってる金回りをよくする行為だ。つまり経済を生かす、社会貢献だろ」

『言いたいことはわかる、けど……? でもわかるって言いたくないこの ……んんん』


「なァ、お前ら! 手前ェでコスト回せねえニンゲンの行先はそう多くねェぞ、ああ゛!?」

『っわああ!? お師匠投げる方向逆! なんでカメラに映る方に出しちゃうのかなあ!?』

「よーく味わっときな、今日がお前ら日向で過ごせる最後の日かもしれねェ。きっちりカメラに顔映して、もし万が一探されるようなことになりゃ証拠として使ってもらえるかもしれないよなァ」

『ねえそれって……あー端末耳から離してるし聞こえてないやだめだこりゃ』


「それとも俺以外の誰かがお前らのこと探してたら重要な情報だな、この位置情報は。ええ? まさか俺とだけしかイケナイことしてませんなんて言わねえだろ」

『お、情報出てきた。んー、確かにその人たちの犯罪歴も結構手広いな』

「その点、俺様はヤサシイだろ。オメェらの命獲りに来たんじゃねェ。まだ、な」

『よく言うよまったく』

「最後ひとつ手ェ隠してンのあるだろ。さっさと用意しろ、4時間後に回収に行く。オラ散れ」



「チッ、駄々捏ねやがって愚図が。オイ、まだ繋がってんのかこの通話」

『ああごめん、こっちから切った方がよかった?』

「ハッ、好きにしな。別段珍しい光景でもねェだろ」

『ねえ、お師匠だって今でこそ有耶無耶にされてるけど一時期手配書にまで載ったんだよ。普通もう少し慎重にならない?』

「懐かしいな。生け捕り限定ONLY ALIVEだったか」

『懐かしいとか言っちゃう? どうするのさ、今夜スサノヲ辺りが尋ねて来たら』

「わざわざ探し出してまで俺に構うほど暇じゃねーだろあいつら。もうその件は片付いたってことでお蔵入りしてる」


『そうだけど。カメラのアーカイブ、モザイク加工くらいしとこうか?』

「いやいらん。今更掘り返すのもナンだがな、あの時だろうと今この瞬間だろうと、生かそうが殺そうが何も変わりやしねェ」

『……カリンお師匠の身柄? あの時は雲上の人たちの介入でそういう判断になったんでしょ』

「そいつらの資金計画が狂ってボロが出やすくなるってだけだ。とどのつまり、どっかの経済が一瞬混乱するくらいでそれらが回らなくなることはねェよ。俺ひとり消えたくらいじゃな」

『正直、ちょっと悔しいんだよね。お師匠の扱うコスト、出所も出先も片手間で追えるようなものじゃないもの』


「嬢ちゃんが生きてるよりながーく手入れした、この30年でとっくに洗い屋マネロンシステムは完成してる。シグマ連れ回して砂漠に数ヶ月居た時なんかミリも触っちゃいねえ」

『ほんとに居なくてもコスト回るんだ。確かに、じゃなかったら業界干されてるはずだよね普通』

「I.P.E.辞めることになったら俺の仕事教えてやってもいいぜ。いっそ俺と組むでもいい」

『私がイヅナを辞める? うーん……』

「まー安泰の大企業所属サマは今のポストから移りたがるワケねェか」

「お前みてくれが弱ェからな。強請ゆすりかけづらいとこを俺が分担するにして」

「相槌くらい打てよ、俺の口渇かすつもりか?」


『ん、イヅナ辞めたらどうなるんだろうって考えてた』

「どうって何が」

『何って……今やってる仕事とか、辞めるとき必要なこととか?』

「視野が狭ェ。しかも辞めてからの思考になってねーぞ。そんなの辞めちまえばどうにでもなるだろ。成るように成る、が正解か」

『え、だって、もし私が居なくなった後何かあったら』

「何かあったらそれが既成事実だ。そんなのオメェが居ようが居まいが関係ねェ」

『そんなのって、それじゃあ私は……』

「私は今何の為に、って? ハッ、知らねェな」

『ちょ……その投げ方は酷いよ横暴すぎるし』


「もともとテメェで考えることだぜ。倍以上生きてきた俺の経験で言ってやるならな、案外どうとでもなるもんだ」

『お師匠が言うと説得力あるなぁもう。ちょっと頭に来たけど、勝てそうにないから見逃してあげます』

「フハ、なんだ怒ったのか? ただのマセガキかと思ってたが、お前もまだまだケツの青いガキってことか」

『むぐぐぐ……、ガキ、ガキって、マセガキも青ガキも馬鹿にしてるランク変わらないでしょ!』

「おーよく分かったなその通りだ。まあそうプリプリすんなって。だいたいI.P.E.なんかに拘る理由あんのか?」

『ないよ。だって蓮さんとハルさんが居るから。強いて言うなら設備が充実してるから嬉しいくらい』


「じゃあ纏めて三人引っこ抜くか。人手がありゃ、縮小したこの事業も随分手広くやれる」

『内勤部門つくってくれる? あと設備も好きなの入れたい』

「もともと嬢ちゃんにフィールドワークが勤まるたぁ思っちゃいねェよ。今だって事務方が居てくれるだけで随分助かるんだが」

『スーパーフレックスタイム制ね、やることやったら帰りたい。あ、でも夜は仕事しないから』

「別にやることやりゃどこで何してたっていいだろ。なんだ必要な設備揃えてやりゃいいのか?」

『そりゃ、パソコンとかネットワークとかスペックに応じた冷却装置とか、用意されたら用意された分だけやれること増えるよ?』

「必要だってんならその分揃えりゃいい話だろ。揃えた分だけ働くのか、面白ェなお前」

『えっ、……お師匠って結構上司として有能? 必要なものを認めてくれる上司だなんて、真面目に転職考えようかな』

「目ェかけてやった以上に成果上げなきゃしばくけどな」

『忘れてたここマル暴事務所だった』


「洗い屋は客ありき、俺ありきのイーブンでフラットな関係が魅力な事業だろ?」

『嘘ばっかり、共存じゃなくて併存でしょ。でも、ちょっと過激だけどお師匠みたいなダークヒーローもこのご時世には必要だよね』

「やめろよヒーローなんて寒気がする。人助けしてるんじゃねェ」

『そんなドラマとか放映したら意外と伸びそうだけどなあ。コワモテでいかにも九龍って感じの人が主演で、一見反社みたいな行動ひとつひとつに意味があって、次第に解明されてゆく……』

「いかにも映画でありそうなシナリオだな。確かそういう脚本書くの得意なやつがどうこうって話を最近聞いた気がするが」

『ん! 今エムさんがちょうど現場入りしてるのがそういう話じゃなかった?』

「あーそれでか。聞き覚えがあると思った」

『上映されたら見に行こうよ。シグマさんも連れてさ』

「3Dは選ぶなよ。酔うし目と頭が疲れる」

『えー迫力があって面白いのに』

「迫力が要る内容じゃねェだろうが。AR上映の方がまだ見てられるわ」

『AR上映ならキサラギのヒーローショーが白熱した戦闘シーン見られて面白いんだよ~』


「……お前それ普段リアルで見てるんじゃねェか」

『……確かに!』



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