兄弟<義兄妹



「これどうよ」

「好きかも。ねぇハルさん、これとか面白そうじゃない?」

「へェ? 悪くねェな。分かってんじゃん」



ソファに並んでひとつのタブレットを覗き込むハルと優。

新作のスイーツは試したか、次はこれを一緒に食べに行こうとか、前に話題になった映画は女子受けがどうだったとか。

リニューアルオープンしたデートスポットの評判、ネット上で纏められたプレゼントのランキングは実際どうだなど、話し始めると話題は尽きない。



「このブランド今すごい人気になってるよ。隣の部署の子たち毎日話してるもん、彼氏にプレゼントされたい~って」

「元はランジェリーブランドだったろ。何度か女の子に買ったことあるし」

「へー、確かにかわいいの多いよね」

「セクシーすぎてお前にゃまだ早いんじゃねェの」

「ちょっと、顔! もしかして今私のこと馬鹿にした!?」



時に互いの事を貶したりしてじゃれ合い、やがて楽しそうにまたケラケラ笑い合う二人。

見ているだけでこちらも気分が明るくなる。

年の差は9つか。丁度よく離れているからか、二人の仲の良さはちょっとした歳の差兄妹のようだと蓮は思う。



そういえば優を保護してしばらくの頃、ハルは怖いから嫌だと泣かれたことがあった。

その頃のハルは今に比べて手も出やすく血の気が多かったので、顔色を窺うのが得意な彼女にとっては恐怖の対象でしかなかったのだろう。


仕事で帰りが遅くなった日、代わりに様子を見てほしいと仕方なくハルに頼んだ事がある。

彼女が不機嫌になるのを覚悟していた。それか、泣かれるか。

ハルから彼女についての実況もなく、なるべく急いで戻ろうとはしていた。


その時の優のハルに対する認識もそうだが、ハルから優への認識の温度差を考慮していなかったのは完全に蓮の落ち度である。

彼女を保護したのは蓮の一存でしかない。

だがそれらをひっくるめてハルも同様に、優を大切に扱おうと受け入れてくれたのはとても有り難いことだったのだ。



その証拠。

戻る直前にハルから送られてきたのは、あの時の予想に反して、仲睦まじく寄り添い笑う優とハルのツーショット画像。

ハルを怖がる優に、彼がどうやって距離を詰めたのかはわからない。方法なんて気にならないくらい、二人が心から笑っているのは分かった。


蓮は今でも端末に入れているその時のデータを眺める。

この日からか、二人が仲良くなったのは。



「蓮さん?」

「いいもん見つけた顔じゃん。何見てんだ?」



思い出に浸っていた蓮を優が呼び、ハルが首を傾げる。



「……昔のデータを少し。それより、今日の予定は決まったのか」



顔を見合わせてあれがいい、と笑い合う二人は本当に兄妹のようだ。

一緒にいるだけで楽しそうな二人に、蓮は釣られて表情を和らげた。


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