バトルコミュニケーション!①


!必読!前提条件!


・もし、剣聖シグマにハルカという弟子が居て、

 もし、暁日のカリンに蓮という弟子が居たとしたら~という

「もしも」だらけの中の人の妄想のお披露目(逆じゃね?ってツッコミ待ち)


・これはSFではない。ご都合ネメシスの世界線(逆輸入の参考にはならないということだ)


・こいつら異能力バトルしてないか(ファンタズィ〜〜)


・心の根底では蓮もハルカも自分の師匠が好きなんだよ!(リスペクトの意味)


・シグマ師匠の効果!ハルカに賢さポイント+1

 カリン師匠の効果!蓮に根性ポイント+1 (変わってないなあんまり)


・中の人の戦闘描写の練習です

 「わぁ~」と脳死で書いています(つまりキャラ崩壊の可能性が極大)



以上を踏まえてお進みください↓↓








~~~~~~~~~~~~






己が宝剣を一振り、腰に携えた初老の男が日課の精神統一をしている。

住処に拵えた和風庭園のような庭の中央に立ち、目を閉ざした男の名はシグマ。


しん、と風の凪さえ聞こえるほどに緩やかな時間。

そっとシグマは双眸を開く。



「もらったァ!!!」



突如シグマの頭上から勇ましい咆哮と共に降ってきた、直線的で幅のあるファルシオン。それと金髪褐色肌の男、ハルカ。

彼の奇襲に驚くこともなく、それどころかシグマは嘆息して腰の宝剣を鞘が被ったまま振り上げその剣を防ぐ。



「戯け、もう少し静かに来い。気配で丸わかりだ」

「バーカ本命はこっちだよッ」



ハルカにとってもシグマに初撃を防がれることは想定のうちだったようだ。

間髪入れずに腰から抜いた刃渡り50cmくらいのダガーを素早く差し入れた。その刃は雷を纏う。

キン、というハルにとって聞こえる予定のなかった音に歯を剥いた。

いつの間にかハルの一撃目を防いだ剣鞘から剣が抜かれており、ハルのダガーを押しとどめている。



「それも含め甘いと言っている。奇襲をするなら静かに素早く確実に行え」

「こンのジジイが……!」

「今日の風呂掃除はお前の仕事だな、ハル」

「けっ、今日の飯にめちゃくちゃ塩入れてやる」

「そもそもお前の作る味噌汁が常に味噌煮込みだ。心配には及ばん」



こんなやりとりが日常。ハルは大人しく剣を背と腰に納めて不満げに唇を突き出す。

奇襲が失敗したからかこの日それ以上のやりとりはなく、居間に戻るシグマについてハルも住処に入っていった。


諸々必要な家事をこなし、二人で夕餉にありつく。

シグマは卓に置いているポットから味噌煮込みの椀をお湯で希釈しながら言う。



「明日、カリンに話がある。お前も付き合え」

「ん、あいつも来るってことか?」

「ああ。偶には全力を出して遊んでもいいだろう」



シグマがカリンと駄弁りに行くのはよくある。

それに付き合え、ということは向こうに居る宿敵もついてくるということ。

俺が全力出したらアイツなんて挽肉にしてその日のハンバーグだぜ、なんて見栄を張るハル。

シグマは流石に人肉ハンバーグという未知なる料理は先に辞退しておいた。

そんなちぐはぐな師弟コンビ。







ちぐはぐな師弟コンビはこちらにも、もう一組。


もくもくと巻きあがる土煙の中からバックステップで甚平を着た初老の男が出てくる。

なるべく埃を吸わないようにしていたのか、止めていた呼吸を再開するためにぶふーっと肺に溜まった二酸化炭素を吐き出した。


吐ききったタイミングでもう一人、彼を追うようにガタイのいい男が出てくる。



「いい加減引退しろ……!!」

「お前が俺に勝ったら考えるつもりだがその機会が中々来なくてなァ」



肘まで装甲のある手甲を嵌めて追いかけてきたのが蓮。

挑発するように鼻上に皺を寄せて笑う甚平の男がカリン。

あからさまな挑発がたまにであれば聞き流せるものの、気が立っている時に神経を逆撫でされればいくら蓮でもこめかみに青筋を浮かべる。

しかもカリンという男、人を煽るのが厭に巧い。



「今夜、その機会をくれてやるさ」



肩から十分に引き絞った体勢で逃げられないようカリンの袂を捕まえた蓮。

カリンは、目を細めて笑った。


蓮が放った拳から、その方向に拡散するショットガンのような衝撃波。

その波は地面を削りコンクリート片を散らかす。

だが肝心の人を殴った感触がなかったことに蓮は眉を寄せた。

逃げられたか。


ぐっと背中を押されて地面に倒された、その上にドッカリとカリンが腰を下ろす。

自分を椅子にされて腹が立ちむりやり拳を振り抜く。



「おっと、まだやんのか?若いってイイねェ」

「重い。退け。邪魔」



下駄で肘を押さえつけたカリンがマイペースに、そういえばと用件を思い出す。

蓮の文句は聞いてさえいないようだ。



「明日さ、弟子の力自慢やる約束してっから。蓮お前負けたら一週間片腕逆立ち生活な」

「おい、予定があるなら決まったその日に伝えろと前から言っている。相手は誰だ?」

「今思い出したんだよ。シグマんとこのガキ」



思い当たった人物に、蓮は鼻を鳴らす。

あんなのに自分が負けるかもしれないと思われてるのが心外だ。

とうとう上に乗るカリンを力尽くで退かして立ち上がる。



「どうせ俺たちを眺めて茶でもするんだろ。お望み通り楽しませてやる」

「そりゃァ楽しみだ。シラケさせんなよ?」



明日用に茶菓子でも買いにいくかと街に出掛けるカリンについて、腹が減ったと蓮は訴えた。







翌日。

シグマ邸の戸を叩いたカリンと蓮を、ハルが出迎える。



「シグマー、カリンたち来た」

「勝手に上がれ。相変わらずデカいな、また少し背が伸びたか?蓮」

「これ以上伸びてどうすんだよ、天井突き破る気か?」

「測ってないから分からない。でも人権が失われないギリギリまで伸びたい」



既に若干人権が失われつつある蓮が部屋の仕切りを屈んでくぐり、縁側に座る。

同じように座ったカリンが首を傾げる。



「お前座ってる場合か?遊んで来いよせっかくだし」

「そうだ。お前がここに座るのは俺にぶっ倒されてからだぜ。表に出な」

「……茶菓子くらい食べたかった」

「庭でやるつもりかハル。やるなら隣の空き地に行け」



勝手知ったる何とやら、でカリンが棚から出した皿に饅頭を並べ、シグマが急須に茶葉と沸かした湯の入ったポットを縁側にセッティングする。

茶菓子を食べたそうにしていた蓮が渋々、ハルに連れられ身長よりある庭の仕切りを越えて隣の空地へ向かった。

空地と呼んでいるのは何某かの事務所のある敷地なのだが。


当たり前だが庭の仕切りは視界を塞いでいる。

カリンは急須から湯呑に茶を注ぎつつ当然の発言をした。



「あいつら遊んでるとこ見えねーじゃん」

「どうせすぐ見れるようになる」



ズズ、とシグマが茶を含めば早速賑やかな祭囃子が聞こえてきた。



「今日こそケリつけてやっから!ちゃんと首洗ってきたんだろうなァ?」

「序盤から煩いな。お前が俺に勝てると思ってるなら随分面白い冗談だ」

「オーケイさっさと退場させて茶ァ飲ませてやるよ覚悟しろ!!」



キィン、と金属がぶつかる音。ドゴォ、と何か壊れるような鈍い音。

次の瞬間砕け散った庭の仕切りと開放的になった視界。

見えた先の遠く向こうでは早速壮絶なじゃれ合いが始まっていた。


ハルのファルシオンと蓮の手甲がぶつかるたびに大小様々な火花が散った。

腰溜めから撃ち込まれた打撃をターンで躱し振りかざした一刀を腕の装甲で防がれ握った拳の甲で殴られそうになれば顎を引いて腕を蹴り上げる。



「重いな、ンのやろッ」

「痛みは抑えてやる」



蓮の回し蹴り。遠心力を最大限使ったそれに防御として腕を挟むが、コンマ1秒遅れてかかる圧力にハルの身体は吹っ飛んだ。


縁側で見ているシグマたちの居る庭、ひいては置いてある岩石を破壊しつつ廊下にまで突っ込んできたハル。

それを目で追いつつシグマはカリンの持ち寄ったかりんとう饅頭の包みを剥ぐ。

シグマもカリンも家屋なり何かが壊れることには特段何も気にしていないようだ。



「今更だけどあの事務所、人居たっぽくね?もう半壊してっけど」

「ほう。それは知らなんだ。今更出来ることもあるまい、巻き込まれたなら不運だったと諦めるだろう」

「それもそうか」



シグマが空地と呼んだ隣の土地が本当に空地になってしまった。


ダダダダ、と廊下を走る喧しい足音が聞こえてカリンが首を回し音源を追う。

ハルが家中の釘やら錐やらアイスピックやらを回収して携え、庭の地面を抉る勢いで蓮の元へと突撃した。

回収したものはまあ使うから回収したのだろうが、選択の志向に殺意を感じる。



「育て方間違えてねェか?」

「甘ったれよりはいいだろう。獲物は確実に仕留めるべき、使えるものは全て使えと教えている。お前こそ奔放に育てすぎではないか?」

「引っ込み思案よりゃいいだろー。自己表現ってやつ?生意気なのも愛嬌のうちってな」



ならまあいっか。

湯呑に茶を注ぎながらお互いの教育方針に納得を示す。


ハルが吹っ飛んで来て屋内の暗器を回収している最中、蓮は片手だけ手甲を外し手持ちのバナナ風味エネルギーバーを咀嚼していた。

むかついたハルが遠くから錐をぶん投げたのでそれを掴んで投げ返し、ハルはそれを剣で叩き切る。


ようやくアップの終わった蓮が両腕の手甲をしっかり握って構えを取る。

カリンとやり合いながら身につけた武術のような風体で肩を落とし呼吸を整えた。


攻撃可能範囲で着地し踏み込んだハルがファルシオンを振り抜く。

蓮はそれを叩き潰すように拳を落とす。衝撃で足元のコンクリートが瓦礫に変わり、力の加わった場所を中心にヒビが広がった。

寸でのところで転回したハルが舞い散る瓦礫の隙間から素手でネイルガンの如く釘を撃つ。

その釘類を蓮は腕で払った。

しめた、とハルが口端を吊り上げる。


身体に沿うように残された方の腕。

腕を守る手甲の面を目掛け、ハルは握った釘を突き刺した。

そして逃げられる前に雷纏うダガーを抜き、刺した釘にぶつける。


バチィッ!と電撃が通る音が聞こえた。

食らった電気に蓮はその場でたたらを踏む。

動きが鈍った隙を逃さず追撃でファルシオンを振るったが、間に入れられた手甲がその攻撃から守った。


今度は蓮がシグマたちのいる居間に突っ込んだ。

蓮の身体と一緒に飛んできた大きめの瓦礫をシグマは上体を傾けて避ける。



「ふむ、威勢がいいな」

「……すみません」

「よい。不意を装い相手に当てられるようにならねばな」

「なんだ、オメェわざとか?」



頭に降り掛かった埃を落としながら蓮が出てくる。

手甲に刺さったままの釘を抜いて捨てた。



「仮にそうでも対処できるだろう。そっちにも飛ばせばよかった」

「口の減らねェガキが」



ついでにカリンを襲いたかったかのような蓮の口振り。

確認のため言っておくがカリンと蓮は師弟である。


少々性格が悪く育った弟子がハルの元に再び向かうのを眺めながら、カリンはまだ食べてない饅頭を手に……饅頭が取れなくて手元を見た。



「あ?シグマ全部食った?」

「いいや。蓮が持っていった」

「オイコラ蓮、俺の分だぞ。ケッ、食い物取りに来ただけかよ」

「お前の愛弟子だろう。怪我の心配はしてやらんのか?」

「はァ?バカ言うな、あれのどこが怪我してんだよピンピンしてるじゃねェか」



実際、ちょっとやそっとで傷もつかない頑丈な蓮がわざわざ吹っ飛んできたのはついでだ。

やっぱり茶菓子が食べたくて、どさくさ紛れに饅頭を掠め盗ったらしい。

蓮は自身の武器、手甲を扱いその衝撃波を生むたびに相当量のエネルギーを消費する。

高エネルギー食を携帯して食べているのもそのためだ。

盗んだ饅頭が一口でなくなるのを見てハルが呆れる。



「お前、食うのかヤんのかハッキリしろよ。さっきの攻撃効いてないワケ?」

「腹が減るのは仕方ない、食べながらでもやれる。あと、さっきの俺の身体まで届いてなかったぞ」

「チッ、浅かったか。別のとこ刺しゃよかった」



パウチのゼリー飲料を2秒で追加チャージした蓮が、徐ろに足元のコンクリートを殴る。

爆発したのかと思う程舞い広がる土煙、陥没した地面に足を取られないようハルは後ろに跳んだ。

足をつく瞬間、見えない衝撃波に巻き込まれて後方の半壊した事務所に激突する。

蓮がハルの突っ込んだ事務所の上空に飛び上がり、空中で握りあった手を思い切り振り下ろす。


両手分のハンマーパンチ、その風圧の衝撃を受けた建物は木端微塵に完全崩壊。地面に瓦礫がめり込んだ。

しかしハルが投げたのか、自分に飛んできた瓦礫を自由落下しながら殴って落とす。

急に側面に現れた気配、埃まみれのハルが繰り出す強襲の蹴りに反応。蓮も同じく蹴りをぶつけてダメージを相殺した。

空中で互いの攻撃を相殺した反動で二人が点対称に離れる。

ハルは着地から1秒もかけずに距離を詰めて追撃で持ち替えたダガーを突いた。



干将莫邪かんしょうばくや、食らえ!」

「おま、っ」



受ける寸前で剣の持ち替えに気づいた蓮が、電撃を覚悟で地面を踏みなおし迎撃する。

手甲の拳被覆部で接触をなるべく短くしてハルの剣を弾く。

常人ならそもそも受けることも出来ないハルの雷派生を施したダガー。本来なら鍔迫り合いも敵わない鋭利派生した刃こぼれ無縁のファルシオン。

長さも違うこれらを必要に応じて持ち替えるし、時には双剣スタイルで戦うこともある。

ただ、今のは聞き捨てならない。



「ハルの剣は二本あるだけで一対ではないだろう、柄も形も違うそれは干将莫邪とは名乗れない」

「いいじゃねーかロマンだろ、双ナントカとかニコイチみたいな武器!蓮は二丁拳銃とか憧れないワケ?」

「二丁拳銃?そんなもの、誰が使っても格好いいに決まっている……!」

「「クソ、俺も使いたかったなー!」」



性格の不一致はあれど、男の子である以上憧れるものは似通うようだ。

二丁拳銃への憧憬を拗らせながら蓮は手甲を、ハルはファルシオンとダガーを振るう。

幾度となく行われる怒涛の応酬で二人の足元にはクレーターが出来ていった。


ハルがアイスピックをばら撒くが蓮はそれごと殴打し一本残らず不能にする。

蓮の打撃を掻い潜り右手の雷ダガーと左手の鋭利ファルシオンのハサミギロチンを挿し込んだ。

敢えて自身を脅かすそれに直接構うことなく蓮は斜め後方に倒れ込み、片手をついて脚を振り上げる。

蓮の鍛え上げた体幹は滅多なことでは揺らがない。例え地面についているのが足ではなく腕一本だったとしても、よほどの力が掛からなければ彼の体勢が崩れるようなことはない。


ハルの身体を足元から絡めとって側転に巻き込む。更にもう一回転ハルごと脚でぶん回したタッチダウンライズ。

自分で行うトリッキング技であればまだしも、他人に、しかもタッパのある蓮に巻き込まれればひとたまりもなく攻撃は中断される。

地面に叩きつけられて噎せていると更に腹を中心に衝撃波で潰された感覚。

蓮の攻撃はそれで終わらず、半分地面にめり込んだハルの身体をボールのようにリフティングして持ち上げ、振り回した踵でのサイドキックをお見舞いする。


慣性の法則に従い飛んでったハルを見送りながら、この隙に空腹を誤魔化すエネルギー補給用のおやつの入ったレッグポーチを漁ろうとして……ポーチがない。



「な……あいつ、人の……!」



蹴飛ばされたハルは蓮のポーチを片手にバウンドしながら止まるに止まれず転がってまたしてもシグマたちの居間に突っ込んだ。

一緒に飛んできた瓦礫をカリンが払い落す。



「湯呑にゴミ入るだろうが、テメェわざとか?」

「あ゛ー、今のは効いた。あん?いつから相手の師匠潰すゲームになったんだよルール変更か?」

「それもそうか。気ィつけろガキ」

「ガキって言うな!!」



ガキ扱いにキレたハルが蓮のポーチと手元の瓦礫を投げつける。

ポーチだけ受け取って瓦礫は避けるカリン。投げた瓦礫が隣のシグマにも飛んで行ってあっとハルが固まった。



「全く、威勢だけはいいな」

「ヤッベ……」

「瓦礫の一片まで御せぬとは、シゴキが足りんようだ。これで負けでもしたら……目も当てられぬ」

「うぉぉらぁぁぁぁぁあ!!蓮テメェぶっ潰す!!!」



瓦礫を斬り払った自らの師の呆れたため息に触発されて今すぐ倒すと意気込み出て行った。


おやつポーチがひとつなくなったので仕方なく腰のポーチからチョコレート味のエネルギーバーを取り出し咀嚼している蓮。

燃料切れを狙ってポーチを奪ったのに他の場所にも隠し持っているらしい。


ハルがこちらに到達するまでもう少しかかると見て、別のポーチのゼリー飲料を取り出そうとした。

瞬間、離れた場所に居た筈のハルが蓮の懐に入り込んだ。蓮の表情が驚愕で染まる。

タイミングを謀ったハルは奏功したことに口角を上げて、ファルシオンを振りかざす。



「シッ!」

「ッ……!」



体勢を整えきれなかった蓮と本気で攻撃を仕掛けたハル。

鋭利な剣身を弾くこともできず、鋼を切り裂く刃に左の手甲が負ける。

肉を断たれるより先にそれを捨て右の手甲で掌底を打つ。

蓮の攻撃から逃れたハルはなんとファルシオンを手放し宙に残したまま、蓮の軸足に手を掛け素早く背後に回った。彼の動きを見慣れた者でなければ、ハルがまるで瞬間移動したかのような錯覚に陥っただろうか。


野犬のような表情で腰から引き抜いたダガーと蹴り上げて手元に戻したファルシオンを握り頸部を狙う。



「さァ、仕舞いだ」

「……悪くない。が、ツメが甘い」



蓮が目を細めて口端を引いた。

ぐら、とハルの視界が揺れる。否、視界は正常だ。

蓮の身体だけがその場所からブレた。


寸前に感じた悪寒に身を丸めたのと、左肩を今までの比ではない程に圧縮した衝撃が貫通したのは同時だった。

鮮烈な痛みは剣撃による刺突とも見紛う程のもの。

感じた衝撃はハルが斬り捨てた筈の左の手甲、ではなく、手甲を捨てた素のままの徒手空拳。


下手に鈍く呼吸を長く乱すものではなかったのは、ハルにとって逆に良かったのかもしれない。

脳髄が醒めるような痛覚がハルのギアをブチ上げた。



「ッハハ!!」

「チッ、獣が」



打ち抜かれた肩から先が動かず、ファルシオンが左手から滑り落ちたことにも構わない。

痛みに呻く間もなくダガーを振り回して反撃に転じるハルに、蓮は悪態をついた。


左腕をぶら下げたまま右手だけで剣を持ち、跳ね回るゴムボールのように何度も突貫してくる猛獣ハルを、まして蓮も右腕の手甲しかない状態で捌くのは厳しい。

叩き潰してもすぐさま反動で立ち直り蓮に息をつく暇を与えない。



「この……!」

「遅ェ!!」



逆手持ちしたダガーを刺す、その手首を蓮が止める。掴まれそうな瞬間に引き戻し足元から急襲する縦方向の回転斬り。

蓮は身を引ききれず斬撃に裂かれた肩に近い右胸を押さえて顔を顰めた。

電熱で切り口が焦げるのだ。普通の傷に比べて治りが遅くなる。


攻撃を与えた、与えられなかったの判断を後回しにして次々に仕掛けてくるハル。

背や急所に攻撃はなるべく貰わないようにしているが、段々ハルが蓮の防衛スペースを侵食していた。

増えていく切創、積もる痺れに焦りと苛立ちが膨張する。



ほんの一瞬。薄く目を閉じ、今一度自我を洗った。

すぅ……と、蓮は気滞の整調を息吹く。



「……つくろいなく、諛いへつらいなき」

「ガフッ!?」



これまで、言うなれば"衝"の型になぞらえて拳をふるっていた蓮が、例えるなら"流"の型に変わる。

自身の頑丈さ、耐久性に任せカウンターで攻撃を与えていた蓮だったが、ハルの勢いを利用して隙に確実にダメージを入れていく形になった。

迫りくるハルに向けて、敢えて一歩踏み込み彼より低い姿勢で刃を躱しながら、交錯する間際に固く揃えた指先が刺さる。


腹部に差し込まれた指先、内臓に受けるダメージの感覚にハルの呼吸が止まる。

一段階深くトランスしたこの状態の蓮はハルでも未だに数えるほどしか相対したことがない。

そして、今受けた一撃こそが始まり。

次に繋がる初撃だと知りながらも、次の手を辛うじて目で追う事しか出来なかった。



おの気成りきなりの」

「ぐっ、テメッ、クソが……!」



初撃で折れたハルの背、胸椎の裏に肘を打ち、流れるようにすかさず膝で蹴り上げインパクトを与え二撃、四撃、八撃、と武芸の殺陣の如くコンボが決まっていく。

仕舞いに強く握られた手甲の拳と、目いっぱいに上体を捻った蓮がハルの視界に映る。

そんなの身体のどこが掠ったってマズい。



「――金床かなとこおろし」



物静かな口調で語らう様子とは裏腹に、扱う拳打は地を揺さぶるほどに重たい。

それに直撃を避けたとしてもスリップストリームによる空気の強い動きが質量を引き込み、追撃で入れた本命である二撃目が破砕する。

掠ったらマズいのではなく、軌道の傍にいるだけでアウトなのだ。

これが、正真正銘の決定打。


遠くまで伝わり反響してきた地鳴りが収まり、土煙が落ち着いて見えてきた地面は抉れている上に地割れの大きな亀裂が入っていた。


力の解放の反動で大きく動けずいる蓮が、土煙の晴れた先を見る。



「俺の想定は超えてくるし、しつこい程食らいついて来るし。……ハル、腹は立つがお前のそういうところ、嫌いじゃない」

「…………、ア!?今なんか悪口言ったか!!?お前のせいで鼓膜逝かれてあんま聞こえねェ!」



だから褒めたんだバカ、と蓮は呆れながら笑う。

土煙から現れたハルは膝をつき、ダガーをこちらに突き出した状態でそこに居た。


完全に防げた訳ではない。

着衣の裾が焦げていたり強い打ち身の痕や風圧による切り傷がある。

平たく言うと蓮の渾身の空気砲を、ハルは雷ダガー最大出力のスパークで裂いて分散したのだ。証拠に今手にしているダガーは静電気すら纏えていない。

確かにこの距離間なら一番被ダメを抑える方法だっただろう。これを深く考えずにやってのけるから腹が立つ。



「ハル。……ハル?」

「なんだよ!一回呼べば聞こえてるっつの!」

「カリンたちが居ない」

「ハァ!?……うわマジじゃん」



縁側に居たはずの二人がいつの間にか居ない。

弟子を放置して夕飯にでも出かけたか。

蓮とハルはいそいそと後を追うため散らかした装備類を回収したりエネルギー補給をする。



「蓮、俺の剣とって。そこに落ちてるやつ」

「ちょっと待て。……今すぐ動けない」

「ふっざけんなテメェのせいで俺も左腕動かねェんだよ!」








「んでさ、蓮のやつ小生意気に一番高い座席取りやがって」

「好奇心の欲求とはそういうものよ。ハルなど観劇させようものならものの数分で寝こけるか、舞台に乱入してけったいな筋書にすげ替えかねん」

「乱入は止めろよ」



足元が掘り下げられた座敷で、金網を乗せたテーブルを間にシグマとカリンが喋る。

大きな換気扇がテーブルの上に備え付けられている。

つまりここは焼肉店。


トングで肉を返しながら、ドタドタと聞こえてきた音にカリンが時計を見る。



「ほー、今日は随分早かったな」

「おいこらシグマ!俺様の活躍なんで最後まで見てねェんだよ!!」

「二人だけで焼肉はずるい。抜け駆けは許さない」

「クック、それで?結局どちらが勝ったのだ?」



蓮もハルも甲乙つけがたい風貌、どちらも満身創痍といったところ。

まるで子供のような癇癪に笑いを堪えながらシグマが問いかける。

お互い目を合わせた一瞬でまたバチリと火花が生まれる。



「「俺が勝った!!」」

「……だそうだ。カリン、今日は割り勘にしろ」

「あん?しゃーねーな、座れお前ら」



ちょん、といい子に互いの師の隣に分かれて座ったのも笑いを誘った。



……

………



「んまかった、やっぱ動いた後の肉って最高だよな!」

「……まだ食えた」



満足げに唇を舐めるハルと、やや不満げにゼリー飲料を握る蓮が店から出てくる。

追ってシグマとカリンが暖簾をくぐって店先へと出た。



「ふむ。扱う肉の質がいいから気に入っていたのだが、出禁になってしまった」

「だーから蓮がいる日は別にしろって言ったのによ」

「とはいえ、まあ」



食べ放題にしておいてよかった。

懐具合の軽微な損傷に満足するシグマとカリン。


勿論、当分の在庫も綺麗さっぱり食べ尽くされた焼肉店は悲痛な悲鳴を上げたのだった。




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