HOT LIMIT
寒いと恋しくなるのに、いざ来ると嫌になるものなーんだ。
夏。答えは夏。
灰田優はどちらかといえば夏が苦手な部類だ。
溶けるような暑さに思わずアイス食べたい、と零した彼女に、じゃあ行くかと外出に誘ってくれたのがハル。
違うのだ。私は外になんか出たくない。アイスが、アイスが来てほしいのだ。
とはいえ誘われた手前、ここでめげると逆にハルカというこの男は執拗に人を外に出そうとしてくる。勿論このイヤがらせ仕様は私限定。
どうして他のレディはガラス細工のように丁重に紳士的に扱ってくれるのに私にはそうしてくれないのか。
……そんな風に扱われたら笑ってしまいそうだ、望まずにいよう。
トレーニングルームから戻って来たらしいハルの部屋で、なんだかんだ出かける準備は先に済ませた優がくつろぐ。
ハルは汗をかいたのでさっくりシャワーを浴びるらしい。
彼の昼間のシャワールーム滞在時間はそこまで長くない。
下手したら女子がトイレに行って出てくるまでの早さで出てくる。本当に流すだけ。
でもちゃんとシャンプーの香りがするのが不思議。
彼を待っている間、端末のパズルゲームで遊ぶ。ドロップ列消ししたら相手に降り注ぐお邪魔ブロックが爽快で楽しいやつ。
ちまちまとドロップを捌いているとローテーブルに置いてあるハルの端末からデフォルトの着信音みたいな音がした。
「ハルさーん、端末鳴ってるー」
「あん?代わりに出ろ」
「え、今ぷにぷに対戦やってるから無理。ちょっと、しかも整備からだって!」
「ったく、シャワータイムにかけてくんなよ空気読みやがれ。……うい、俺だ」
ドタドタと駆け足で出てきたハルが端末を取った。
毎度その着信のとり方は理不尽すぎると思う。
コールの向こうの人はまさかこのタイミングで相手がシャワー浴びてるなんて普通思ってないし相変わらずその"俺だ"って応答の仕方はイツメンにしか通じないから変えた方がいい。
どこに居ても着信取れるようにボイスワープ装置買えばいいのに。あれすごい便利だし。
優の部屋にはワンルームに3つ装置があるのも多すぎだが。
ゲームの対戦相手にお邪魔ドロップを送って、視界にちらつく褐色がやけに多い気がして傍にいるハルを見る。
「ブッ!!?ゴホ、あ゛、へんなとこはいった、ゲッホ!!んふ、ヒッ、ふはへへ!!」
「……?いや知らねーよそれなら代替パーツ入れときゃいいだろ、動作チェックまでやっとけよ」
速報。赤色のローライズボクサー!
赤の、ローライズ、ボクサー!!
ガッツリしっかり見てしまった。ナマ足魅惑のマーメイド
誤魔化し効かない薄着の曲線は 確信犯のしなやかなスタイル
目に飛び込んできた衝撃的な光景にびっくりして脳に浮かんだ有名な歌詞があまりにぴったりでドツボに嵌まった。
端末を耳に当て、バスタオルを首から下げてパンイチスタイルで応答しているハル。
傍にいる優が噎せながら最終的に笑っている変な状況に怪訝な顔をしていた。
優がハルの端末を取れないと知って急ぎ目で出てきたのだろう。タオル一枚で済まさなかったのは偉い。
パンイチスタイルで割と真面目な会話をしているのも笑いを誘う。通話相手もまさか喋っているのがパンイチだとは思うまい。
手元が疎かになっている間、お邪魔ドロップが画面を埋め尽くし敗北していた。
そんなことはもうどうでもよくて、脱衣所からハルが今日着ようとしていた服をひっつかみ戻ってくる。
「あー分かった、一旦戻してくれりゃこっちでやるから、イテッ」
「下、穿い、て!」
「りょーかい明日取りに行くから準備しとけよな。んじゃ。……なんだよお前が代わりに出ないから俺が取ったんだろ」
「結果的に私が出るような内容でもなかったでしょ?そうじゃなくて、服も着てよ!」
「今更俺の裸なんて見慣れたもんだろーが。フリチンで出なかっただけ感謝しろよ」
呆れながら投げつけたズボンに足を通すハル。
確かに10年もこの距離感で居ればそんな状況も何度か遭遇することもあるが、あ、釈明するとフリチン全裸のハルには流石にまだ出会ったたことはないというか、いやそういう問題でもなく。
「急にナマ足ヘソ出しマーメイド現れてびっくりしたの!」
「なァんだ、出すとこ出したハル様にホンモノの恋しちゃったワケ?」
「ちょっ……あのねえ、逆に聞くけど私が急にパンイチで現れたらハルさんだってびっくりして服着ろって言うでしょ!?」
人を食ったような表情が一旦鳴りを潜め、上裸のままポリポリと顎髭を掻く。
なんだか不名誉というか、不可抗力的な流れになったがパンイチで目の前に現れた優を想像しているらしい。
頼むから想像し終わったらデリートしておいてもらいたい。
「オレサマ的にはオールオッケー」
「ひえ……」
真夏は不祥事も キミ次第で
いや、ハルさんに限り一年中か。
ちなみにこんなやり取りがあったものの、この後普通に仲良くアイスを食べに行った二人だった。
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