仲良しミラーリング
こんにちは。
僕はI.P.E.総務部管制課、戦術後方支援班の者です。
今日は僕の話ではないので、僕のことはこの辺で。所詮モブに過ぎませんので。
じゃあ誰の話かと言いますと、とある仲良しさんたちの観察記録です。
記録と言ってもどこかに残すわけではなく、最近気づいた僕の視点の話ですからご安心を。
一色さん、ハルカさん、灰田さん。
三人は長い付き合いのようで、いわゆる幼馴染なんだとか。
仕事中のピッタリ合った呼吸や、オフの日もたまに一緒に居るところが目撃できます。
僕は仕事柄、三人とも話す機会がある珍しいポジションです。
あ、ただのぺーぺーですよ?
立案された作戦に合わせて武器や防具、小道具なんかを用意することもありますし、戦闘支援班や一課、二課の為に現地サポートにも回ります。
まあ話す機会があるとはいえ、滅多に用事がある訳ではありませんが。
ある日のこと。
仕事着で向かい合って話している二人を見つけました。
背の高い方は一色さんでしょう。あの方は体格もしっかりしていて目を引くのでよく分かります。
そして健康的な褐色の肌色はハル……さん。うっかりフルネームで呼ぶと怒られるので気を付けなくては。
長く見ていたつもりはありませんが、僕に気づいたハルさんが手招きしています。
何か用でしょうか。
「なァ、パトリオットを遠近両用にしたいんだけどなんかイイ案ねェ?」
「……彼は純戦闘員ではないだろう。何で呼んだ」
「見知った顔だったし。こいつだって後ろとはいえ戦場に入ることあんだから銃の一丁や二丁持ってる。全くの無知じゃねェさ」
「ええと、もう少し詳しく聞かないとなんとも」
遠近両用なんてそんなメガネみたいな言い方されても……。
一色さんの言うように専門職の人に聞く方がいいとは思いますが、恐らくハルさんは現状そこまで深く問題視していることでもないのでしょう。
だから目に入った僕が呼ばれたのだと思われます。ハルさんの性格だと、真面目な一色さんの話に飽きたところもありそうです。
「蓮の戦い方見たことあったっけお前。あれ便利じゃん?だから俺も少し軽くしたい訳よ」
「なるほど。確かに一色さんの使い方は変則的ですからね」
「重心を後ろにするとか、パーツのニクヌキをするとか……」
簡単に出来そうな案から上げてくれる一色さんの意見を聞いているのか聞いていないのか、セーフティのかかったハルさんのパトリオットを渡されました。
二人のパトリオットはカスタムパーツがついている分重くはなっていますが、そもそもパトリオット自体はそこまで重たいかといわれるとそうでもないのです。
なのでこれより軽く、と言われてしまうと出来ることは限られてしまいます。
それに任務次第で制限武器以外は柔軟に持ち替えて対応するので、パトリオットだけに拘ってもいないでしょう。
ふと、前提としてひとつ思い当たったことがありました。
「ハルさんが前線に居るときって、あまり銃は使わないスタイルじゃありませんでした?」
「……確かに。ハルは敵を動かすより自分が詰めるタイプだったな」
「あー言われてみれば」
それはそう、と納得したらしいハルさんに頷く一色さん。
話にオチがついて満足したのか、サンキューなと軽いお礼を貰ってその場を失礼しました。
実は二人を見かけたときから気になっていたことがあります。
振り返って見た二人は未だに向かい合わせで、二人とも腕を組んで話しています。
ミラーリングと言うのでしょうか。
妙に揃った同じ体勢なのが目についたのを覚えています。
別の日です。
もし手に入ったら動画データも欲しいと灰田さんから言われていた、動物型戦闘ロボットについてのプログラムデータの共有のため彼女を探しています。
席に居なかったので、訓練スペースにいるだろうと教わりました。
スペースを覗くと、ブカブカのジャケットを着てタブレットを弄る小柄な女性の後ろ姿。
総務部の腕章もつけていますし、あれが灰田さんで間違いなさそうです。
「灰田さん。頼まれていた戦闘ロボのデータ、上がりましたよ」
「わぁ、早かったですね!助かりました」
「プログラムコードはファイリングしてメールしてあります。動画データはすぐに見たいかと思いまして、ここに入れてますがご覧になりますか?」
パッと表情を明るくした灰田さんが両手を伸ばすので、動画を選択して再生ボタンを押すだけの状態で自分のタブレットを手渡します。
自分のタブレットに重ねて再生を始めました。
まだ再生を始めて数秒のところで、背後に気配を感じて振り向くと目の前に壁……いやいや、一色さんが居ました。
驚いた僕に気づいた灰田さんも一色さんを認識します。
「蓮さん。丁度良かった。この前の戦闘ロボの動画なんだけど、一緒に見てほしいな」
「ん、分かった」
僕自身そこまで背が高い訳ではないですが、流石に灰田さんよりはあります。今年の健康診断では167cmでした。
そんな僕が一歩引いて見た灰田さんと一色さんの身長差は……失礼ですが、小人と巨人です。
一色さんがタブレットを持ち、灰田さんの背後に立って見せてあげながらご自身も見ています。
あまり社交的ではない一色さんがパーソナルスペースに入れるあれはとても仲良しの距離感です。それと……もう一つ。
一色さんがタブレットを持っていない手を。灰田さんも一色さんとは反対の手を。
それぞれ自分の腰に当てています。
お互い見えている訳ではないのに、こんなところでミラーリングするものなんだなと思わず感心しました。
「今の振り下ろし、やっぱり悪手かな」
「タイミングだろう。突撃の締めで入れれば大概の相手は回避行動を取るだろうからそれを見越して……」
「お、何見てんだお前ら」
「ハルさん。こないだの戦闘ロボのやつだよ、意見欲しいな」
ハルさんが気になったようで寄ってきました。
仲良しトリオ、揃い踏みです。
ハルさんがタブレットを覗き込むように一色さんに身体を寄せます。
いつの間にか一色さんと灰田さんは考えるように顎に手や指を置いていました。
また似たようなポーズをしている事に、僕しか気づいていないみたいです。
これはもしかして、とせっかく揃った三人を見守ります。
「うーん、ハルさんに当てるなら一機だけじゃ駄目だなぁ」
「複数で当たるか、せめて機体の組み直しが必要だろう」
「あん?何で俺を潰す話になってんだよ」
「だって一応対人用のロボットだもん、色んな人を想定しないとね。この四足型のロボでされるとやりにくい動きとかある?」
「あー……」
未だに顎に手を置いている灰田さんと一色さん。
唸るハルさんが質問に対して考えを巡らせている様子。
まさかこの流れは本当に、と少し期待しながら見てしまいます。
ハルさんの持ち上げられた手が触れるのは……
「あっ」
「このデカい図体で横殴りとか広い面積をカバーされたら……何だ?」
「あ、いえ。ええと、仲良しだなと……」
「今このタイミングで?」
顎の髭を上から掻くように、ハルさんも顎に触りました。
今僕の目には、それぞれ自分の顎に手指を置く三人が映っています。
個人的な目標が達成できてちょっと嬉しくなりました。
好意があるほど行動のミラーリングが起こりやすいという情報は本当だったようです。
「うん、じゃあ修正したプログラムと一緒に意見書出してみようか……ふあ、欠伸出ちゃった」
「くあぁ……寝不足か?欠伸移ったじゃねーか」
「…………、……そういえば最近夜楽しそうにネット見てるな」
灰田さんから始まる欠伸伝染。
素直に欠伸したハルさんに、手で口元を隠した一色さん。
漏れなく皆さんが同じ行動をしているので微笑ましいですね。
「ふぁ……」
「タブレットありがとうございました。あは、みんなに欠伸移しちゃった」
「失礼しました。三人の仲良しがよく分かりましたよ」
互いの顔を見合う三人が全く同じタイミングでコテン、と首を傾げたので、思わず吹き出してしまいました。
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