カケホーダイプラン


「よー俺だ、俺!」

『……何かあったか?』

「まずは相手が誰だか確認しねェのかよ」

『ハルって表示が出てた』

「俺じゃねェかもしれねーじゃん」

『掛けてきて名乗らない知り合いをハルしか知らない』

「返答選択肢イチ、"お前友達少なすぎ"。選択肢ニ、"声で分かるなんて流石相棒だな"」

『……サン、そもそも掛けてきたハルが名乗るべき』

「俺にそれ言う?」


『用件は?』

「帰るの面倒になったから迎え来てほしいんだけど」

『今どこにいるんだ』

「GPS見てくれよ」

『…………、ダロムか。頑張って明日の仕事までには帰ってこい』

「おーいおいおい、誰がそんな遠くて絶妙に不便なとこに行きたがるんだ?端末壊れてんのか?あん?」

『ザフトの9番ステーションにいるならそのまま帰ってこられるだろ、というかバイクで出て行かなかったか今日。……まさか壊したのか?』

「ンな訳。女の子送ってたんだよ。ラジオでピックアップされてる曲がどれもナンセンスで萎えた」


『いつもみたいに好きな曲流して帰るじゃ駄目なのか』

「気分だよキ・ブ・ン。このハル様が帰りの話し相手に選んでやったんだ光栄に思え」

『……それこそ他に選びようがあるだろう、ハルなら』

「俺の話聞いてっか?気分だっつうの他意はねェ。選ばれたのは蓮でした、っつーこと。何かすることでもあんのか?」

『用事があったらとっくに切ってる。確認が今更だな』

「だろうな。あー」

『何だ』

「今走り始めたんだけどさ、サーキット遊びに行きたくなった。思い切り地面スレッスレの超クールなバンク決めてェ」

『行けばいいだろう』

「今日確か一般走行会じゃないから無理。ライセンス結構コストかかるし。それに女の子もいねーし?」

『……はぁ』

「れーん。れーんー?俺のカッコイイところを誰にも見せないなんて勿体ないことが許されると思ってるワケ?まだ食える食料を廃棄するようなモンよ?」


『ハル、いつでも死にそうなことしてるのに何してても死ななそうだよな』

「ふっは、何だソレ貶してんのか?」

『……褒めてる?』

「疑問形かよ。ハル様の生命力は天帝レベルだぜ」

『不敬罪で処されろ、タロスに』

「密告すんなよあいつホントに来そうじゃんか、真夜中に。善良な一國民として敬ってんだろ?」

『誠意が感じられない』

「オメェもそこまで信心深くねェだろどこの宗教論者だ。つかそれ言うならさ、俺的に蓮の方が死ななそうに思うわ」

『……例えば?』


「腕とか脚切られても次の日には義肢つけて平然と立ってそう」

『翌日は流石に厳しい。処置さえきちんとすれば今どき手足無くしたくらいじゃ死なないだろう。孤立して出血多量で死ぬなら有り得そうだが』

「そういうトコ。お前"ヤベェこれ死んだかも"って思ったことねェの?」

『…………?ないな、確かに』

「その日和らない性格がいいよなァ、蓮。昔っからさ」

『ハルに合わせてるつもりはないが、そうなのか?』

「これで合わせてるつったら相当なペテン師だろ、お前がそこまで器用な性格じゃないのはよーく知ってるぜ、っと」


『ハル、今どこだ?』

「ちょうどメディオ入ったとこ」

『シグマが茶葉切らしたから買って届けろと』

「なんで俺が」

『外に居るから』

「いやそもそも何で蓮にそんな連絡が来るわけ?」

『……さあ。カリンが居ないからじゃないか?』

「ちげーよ、いやそうだろうけど何いっちょ前にパシられてんだよ」

『積極的にパシられてる訳じゃない。外出ついでとかそういう時に済ませてる』

「……あ?それ、俺が蓮にパシられてるってことか?」

『人聞きが悪い。外に居るついでだ』

「外に居るのはオ・レ・だ!チッ、しゃーねーな。丁度コンビニが目に入ったから寄ってやる。何買えばいいんだよ」

『玄米茶。ティーバックタイプだそうだ』


「…………茶葉なんて普段買わねェから見つかんねー、パッケージ何色?」

『茶色か、オレンジっぽい色じゃないか?』

「あー、これか?違うな麦茶だわ。麦茶でいいか?」

『じゃあ多分緑茶でもいい。それならあるだろ』

「ある。……お、なんだこれ。エナドリ新作。何味だと思う?パケは黄緑」

『キウイ』

「ブッブ。マーレビーチドリーム味」

『……何味だそれ』

「わかんね。ブルーハワイみたいなもんじゃね?帰ったら飲むわ。とりあえず配達行く」

『気になるだろう。今飲め』

「なんだよ、そしたら二本買ってやったのに。ちょっと待ってろ味見する。……んー、あー?」


『何だその反応』

「いやわからん。やっすいゼリーに炭酸ぶち込んだみたいな味」

『マーレもビーチもドリームも要素が皆無』

「それオブそれ。半分やるからちょっと外出て来いよ、あと10分で着くし」

『配達が先じゃないのか?』

「これ共有したい。蓮に押し付けてから行く」

『炭酸の抜けた飲み物を渡されてもな……』

「味は分かるだろ。フーバーイーツが飲みかけのエナドリをお届け」

『最低な商売』

「俺とお前の仲だろォ?代金はタダでいいぜ。蓮って俺相手ならこれだけ喋れるのになんで他の奴とは話が続かないかねェ」

『ハルとは中身のある話じゃないから』

「コミュニケーションってのは八割そういうもんだ。一々考えて喋ってたらハゲるぞオメェ」

『毛根が強い家系だから問題ない』

「ハハッ!お前にしちゃその返しユーモラスだぜ。やっと調子出てきたな、グッドボーイ。さァてそんでもって、エントランス前にとーちゃく」



「おかえり。……本当に半分残して持ってきたのか」

「味わってみな、マーレビーチドリーム味」

「……配給ゼリーがしゅわしゅわしてる味」

「めっちゃ分かる。このままシグマのとこ行くけど乗るか?」

「行く。メット」

「ほれ。今度お前の車乗せろよ」

「いいけどハル寝るだろ」

「自宅のような安心感ってやつ。……おい待てその缶まだ中身入ってんのか?」

「シグマにマーレビーチドリームを味わってもらう」

「それお前今日イチ最高だわ!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る