いっぱい食べる君が好き
蓮さんは背が高くてガタイも良い。その体格に見合って食事量も多い。
食べ放題に行くと一定ペースで永遠と時間のギリギリまで食べてるタイプ。
同じくらいの年齢で他の法務部の社員と比べても二倍の量は食べている気がする。
早食いという訳ではないのだが自分に比べて一口が大きいので、彼の前にある皿から見る見るうちに料理が消えていく。
灰田は皿から最後の一口を集めるスプーンを目で追う。
皿についたチャーハンの米粒が集合し、スプーンに乗り、口の中へ。
もぐもぐと動く顎。食べ終わった皿が重ねられた。
こうして口に入った物が蓮さんの身体を作るんだと思うと、なんだか納得出来る。
これだけ食べても運動量が上回り、贅肉にならないで消化されるのだ。
基礎代謝がいいのか、普段の仕事が大変なのか。
「……どうした?」
「ねえ、蓮さんってまだ食べられるの?」
「満足はしてるが、食べようと思えばまだ入る」
じゃあ、と落とさないように箸で掴んだ生成肉の唐揚げを蓮さんの口の高さに持ち上げる。
自動的に開く口に唐揚げを差し入れれば、すっぽり収まった。
唐揚げはこれから噛み砕かれて胃に入り、彼の栄養になって血肉になる。
これが生きるということか、なんて壮大なテーマを思い浮かべてしまった。
蓮さんが食べている姿を見ているのは前向きに生きてる感じがして嬉しい。
食べ物を咀嚼するために動いている口を見て灰田は上機嫌に笑った。
ズズッ、という音と共に吸い込まれる麺。
蓮華で掬われた骨を煮出したとろみのあるスープを流し込み、一息つくハル。
ホールスタッフを呼び止めて麺の替え玉を注文するのを見た蓮が、ついでに自分の飲み物を頼む。
ハルは見ている限りよく食べる。少なくとも、何かが気になって食事に手がつかない状態というのは見たことがない。
下層での生活環境が基盤になっているからか食事は欠かさない。成人してから食べるようになったジャンクフードが好き。
すぐ動く予定が無ければ腹いっぱいまでしっかり食べるタイプ。
実はとんでもなく胃腸が丈夫。
提供された替え玉をスープに落として再び麺を啜り始める。
「ぷは、……何だよ、食いてェなら頼めば?」
「同じものを食べててよく飽きないなと思っていただけだ。あと、よくその手の形で箸が持てるな、と」
「好きなモンなら早々飽きねェだろ。使えてるし箸も」
それにしたってハルの箸の持ち方でどうやって箸が動かせているのかが分からない。
親指以外の全部の指で握った一本と、親指で支えて手の平の肉で動かす下の箸という芸術点の高い持ち方は、矯正する気力さえ失わせる手強い運用方法。
スープも全て飲み切って、ようやく満腹になったハルが満足した顔で器を置いた。
美味かった、と表情で語るハルを見ているのはこちらも気分がいい。
今日もまた箸の矯正は諦めることにした。
本人なりに大きめに開いた唇。放り込まれる餃子。
入れた向きでは収まりきらず、向きを変えて押し込まれた餃子が頬肉を押し出して食べ物の位置が一目で分かる形状に変える。
いかにも食べることが幸せです、といった表情に誰もが毒気を抜かれるような、そんな顔。
優は本人が公言する通り食べることが好きだ。ハルも女の子とのデートの為、情報通でもある彼女から新作スイーツの評判や情報を仕入れる事が多い。
色んな女子を見ているが、優に関してはダイエットだとかで食事を控えているのは見たこともない。
頭使うから太らないもん、とか言ってた気がする。
「箸休めに杏仁豆腐食べようかなあ」
「デザートじゃねェか。よく飯の間に甘いの食えるな」
「美味しいものはいつ食べても正義。注文お願いしま〜す」
しかも注文は杏仁豆腐とゴマ団子。よくもまあ食事中にゴマ団子なんてカロリー爆弾を躊躇なく追加出来るものだ。
まあ、昼におもちゃ箱みたいに小さな弁当箱をつついている女子に比べると、彼女の食べっぷりは見ていて気持ちがいい。
テーブルに届いた杏仁豆腐をホントに箸休めとして食べる。唇についたシロップも美味しく舐めて、デザート一品にかけた時間は十秒未満。
その短時間でリフレッシュした彼女はまた食事を再開する。
本当に、よく食べるヤツ。
いつかこの顔が体重計に乗って悲鳴を上げる日を楽しみにしたい。
そんな風に考えて、食べ物の入った頬を人差し指で突いたハルだった。
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