ハロウィンの魔力
トレーニングルームでメニューをこなし、汗をタオルで押さえながら自分の端末に記録を入力する。
相棒は今何をしてるのだろうかと気配を辿ると、彼は何をするでもなくただ筋トレマシンのベンチに座って悩ましい溜め息をついていた。
「イイよなァ……この時期」
「……何が?」
「昨日さ、気に入ってる嬢の店行ったの。そしたらハロウィンイベント始まっててさ」
蓮も言われてそういえば街中でハロウィン仕様の飾りをしている店が増えてきたと気づく。
特筆して祝日になる訳でもないのでスルーされがちなイベントだが、今年は偶々企業の休日と被っていた。
例年よりも賑わっている気がするのはそういう理由もあるのだろう。
「コスプレって普段別料金なんだけど、イベント期間は最初から衣装着て出迎えてくれんの」
「イベントだからな」
「昨日の娘はホラーっぽいナースのコスで、マイクロミニのスカート。惜しげなく見せつけてくるワケよ、イイ……脚……」
普段の8割増しで顔がだらしない。
嬢の身体や脚のラインを思い出すように空中を両手でなぞっているのが生々しい。
まあ女好きのいつものハルだ、と適当な相槌で話を聞き流す。
「はー……ヤバイ。思い出だけで抜ける。イイ文化だよなァ……」
「……そんな幸せそうな顔でしみじみ言われても」
「で、優に何着せるんだ?」
急にシラフに戻ったハルがストレートに殴ってくる。
油断していた蓮は飲んでいたドリンクで噎せる。タオルも持っていて良かった。
「ゴホッ、な、待て。何で着せる前提なんだ」
「例えばの話だよ。もしかしたら機会あるかもしんねーじゃん」
「…………ぐぅ……」
「なァ、ムッツリ蓮クンよォ。この良く出来た頭ン中でどんな着せ替え楽しんでんの?」
完全に標的にされている。
汗でベタつくだろうに、言葉に詰まる蓮の肩を捕まえて悪い顔で囁くハル。
眉間にシワを寄せて歯を食いしばり前髪を握った蓮は、やがて観念してロックを解除した自分の端末を明け渡した。
「っ……クソ、そういうテーマが多いのは時期だからか。通りで……、勝手に履歴でも見てろ」
「そりゃハロウィンにあやかりたい各社業界の策略ってモンで、…………お前、これ……」
蓮の端末から手慣れた操作でハルはアダルトコンテンツのショートカットを開く。
閲覧履歴から蓮の見たであろう動画や商品ページを見て、今度はハルの言葉が詰まる。
詳しくは一色蓮の名誉の為に伏せておくが、そっと画面を戻して端末を返却した。
ハルが大層心配そうな顔で呟く。
「……あんま、拗らせないようにな……?」
「そこまでの反応をされるほどの物は無かっただろうが……!」
後日…………
蓮の部屋に入り浸る優。
ソファを占領するように転がってタブレットをつついている。
蓮は作業机の椅子で本を読みながら、淹れたコーヒーを飲んでいた。
ずりずりと肘掛け部分に頭を乗せて何気なく呟く。
「ハロウィンねぇ……」
「…… 、何かするのか」
「ん?そろそろ限定スイーツ回る順番、作戦立てないとなって……?」
蓮が一瞬驚いた反応をした事に不思議に思う。
素直に悩みを白状すれば安心したような顔をした。
普段そこまで表情の動く人でもないので、中々珍しい現象である。
何かハロウィンに思い入れでもあるのだろうか?
画面を編集モードにして行きたいお店をピックアップする。
今年のスイーツは新作が豊富で嬉しい限り。
「ここは行っておきたいし、こっちのパンプキンタルトもマストだよね。……ん?」
スイーツ紹介ページの端っこに注意書きされた文字は初めて気づく。
今のうちに気づいてよかった。
「へー、コスプレしないと買えない所があるんだ」
「グ、!?ゴホッ、ゲフッ!」
「待って蓮さんさっきからどうしたの落ち着いて??」
突然コーヒーを噴き出して噎せた、しかも椅子から崩れ落ちるという珍しい蓮を見て、何か悪い物でも食べたんじゃないかと本気で心配する優だった。
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