男同士の気兼ねないお喋り



自分の部屋の前で立ち尽くす、蓮。

いつもは自分のチップを検知して自動で開く扉が、まるで無視しているかのように静寂を貫く。

手動で開かないのか試してみるが、ロックの部分がきちんと仕事しており部屋の主の入室さえも拒絶する。

ぐっと力を籠めようとして、早々に諦めた。

随分前にも同じことがあって、無理矢理ロックを壊した時は修繕費の負担をさせられのを思い出したからだ。


管理棟に連絡をすれば修理業者を呼ぶとのこと。最低でも扉が直るまでは部屋に入れない。

蓮は続いてメッセージの履歴から上の方に居るハルを選ぶ。

今どこにいるのか聞けば、ちょうど部屋に居るらしい。

彼の部屋は蓮の一階下。非常口の階段で足早に降りて彼の部屋の扉を叩く。



「おま、早ェよ!着く前にもうワンクッション寄越せ!?」

「近かったからな。暫く居させてほしい」

「別にいいけど、何で?また扉壊したとか?」



まるで蓮がしょっちゅう扉を壊しているように言われて眉間にしわが寄る。

というか第一声で当てられるのは解せない。



「……壊してない。部屋に入ろうとしたら壊れてた」

「傍から見たらお前が壊したようにしか見えねェって。まァ入れば。カギは壊すなよ」

「壊れてた。俺じゃない」

「へーいへい」



招き入れてさっさとハルはさっきまで居たのであろうベッドに転がりタブレットを弄る。

蓮も二人がけの革張ソファに座り、久しぶりに入ったハルの部屋を観察した。


蓮の部屋より家具や物が多い。

今日はそこまで散らかってもいなかった。いつもは散らかすと暫くそのままだが。

ブロックチェック柄のベッドカバーが賑やかで存在感がある。

休日はよく外に出ているし、丁度このタイミングで部屋に居たのは結構レアを当てた気がする。



「業者、何時?」

「連絡待ち」

「決まってねェのかよ。しょーがねーなー、お兄さんが遊んでやっか」

「……子供扱いされる歳ではないんだが」



そういうとこだぞお前、なんて言われながらハルが引っ張り出してきたのは四角い電子ボード。

起動させながらソファの逆端に座って間にそれを置く。

様々なテーブルゲームの名称を表示する中からハルが何で遊ぼうか悩む。

トランプやボードゲームなど、様々なゲームが遊べる全年齢層向けの家庭用ゲーム機。



「アナログゲームってやり始めるとハマるよな。やりてェのある?」

「……じゃあオセロ。型式古いな、いつ買ったんだ」

「貰いモン。昔からたまに優とこれで遊ぶ」



表示を触りオセロゲームを選択すれば、ほんの少しのロードを挟んで升目と中央に白と黒の丸い石が4つ表示された。

蓮は自分のドッグタグのトップを爪で弾いて高く飛ばす。落ちてきたそれを掴み、握ったままハルに付き出した。



「んー、オモテ」

「……ビンゴ。先手どうぞ」



ハルが空いてるマスに指を置けば黒の石が置かれ、白い石が黒色に変わる。

蓮もそこまで時間をかけずに白色を増やす。

何手か進めて自然と思考が伸びてきた頃、ハルが口を開いた。



「優とヤれない時ってどうしてんの、シモの世話」

「……読んで字の如く下世話だぞ。必要な時に処理はしてる」



石が返り白が増えていく。

ハルの表情を盗み見れば、彼は盤面を見たまま次の手を考えているようだった。

何か探られているのではなく、ただの世間話らしい。



「昔、蓮に紹介した店あるじゃん。最近全然来てくれないって寂しがってた」

「使ったの随分前の話だぞ、よく覚えてるな」

「忘れられないんじゃねーのー?メチャクチャ相性が良かったか、インパクトあったか」



返した石がまた返される。

蓮は盤面を見ながら数手前の悪手に僅かに眉間を寄せた。

会話は一旦意識の外に追いやってちゃんと頭を使う。いくら何でも考えなしに勝てるほど甘い相手ではなかったか。


この後のパターンを数種類思い浮かべながら白を置いた。



「……なんだ、インパクトって」

「だってお前、身体もデカいしさ。もし今日で部屋のキー直らなかったら風呂行くか一緒に。見てやるよ」

「堂々とセクハラ発言するのやめろ」



確実にもう色が変えられない黒の石が増えていく。

角は一つしか取れなかった。オセロも久々にやったが、案外難しい物だと再認識する。


もうハルはそこまで考える必要がない。

余裕そうな小憎たらしい表情で石を置きながら、ソファの背もたれに沿って身体を寄せてくる。



「昔は仲良く同じ風呂、入ってただろ?」

「言い方が良くない。大浴場だ、俺たち以外も居た」

「照れてんの?カワイイねェ蓮クンは」



おちょくられて調子が狂う。

蓮が最後の石を置いて、カウンターがそれぞれの石の数を数えた。数えられなくとも勝敗は分かるが。


すぐにゲームをリセットして次の一局に入る。

別のをやろうと言われたが、このままでは終われない。

負けず嫌いに火がついた蓮を、ハルは面白そうに笑っていた。


結局、業者が当日中に来られなかった為、その日のシャワーと寝泊まりは仲良くハルの部屋でやり過ごしたとか何とか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る