ピアスの似合う夏男


動かなくとも外に居るだけで汗の滲む季節。いわゆる、夏。


大通りの広場に向けて広告を打つディスプレイモニターが、合間のニュースでリージョン階層ごとの気温実績を電子音声で伝えている。

場所によっては酷暑になる可能性あり。体調には気を付けて下さい、なんて気遣いの欠片も感じられない電子音声で言われても苛立つだけだ。

基本的に直射日光に当たらないリージョンの内側でもこの季節は空調のない室外は容赦なく暑い。


ツウ、と玉になった汗が首を伝う。

溜息に熱を乗せて、プラスチックのカップに入ったアイスティーを吸えば、それだけで多少はオーバーヒート寸前の体温も下がった気がした。

待ち合わせだから分かりやすいところで、と思ってカフェのテラス席を選んだ5分前の自分を殴りたい。既にそんな気力も失われているが。

少しだけでも屋内に行こうか悩むがもうすぐ来るだろうし、とほのかな涼を求めてテーブルに頬を付けて端末をつついていれば目の前に特徴的な褐色肌の手が置かれた。


「これから出かけるってのにもうへばってんのかよ」

「夏の似合う素敵なお兄さん、早く私を涼しいところに連れて行って?」

「おう、ホテルか?イイぜ」

「ちがーう、ちがうよ、何でハルさんすぐそうなるの」


涼しいところって言ったらホテルしかねェだろ、なんて偏った知識をドヤ顔で披露してくれるハルにブーイングしながらアイスティーを飲み切る。

席を立てば、ハルがカップを強奪し残った氷を口に含んだ。

ついでに片付けてくれた彼の耳に初めて見るピアスがついていた。


「そのピアスおニュー?ジャラジャラしてるの珍しい」

「貰いモン。仕事の日じゃ飾り多いの邪魔でつけらんねーから」


少し大きめのフープピアスと細めチェーンに細い十字が飾りでついている。

天然でこんがり色の彼の肌の色はアクセサリがゴールドでもシルバーでも目立ってカッコいい。

印象に残りやすいからか、よく遊ぶ風俗嬢や色んな人からプレゼントでピアスを貰っているようだ。かく言う灰田も何度かピアスをプレゼントしたことがある。


似合うなぁ、なんて零せば耳ざとくキャッチしたハルが得意げな顔で、灰田の髪を耳にかけてくる。

ぎゅむりと露出した耳たぶが摘ままれた。


「開けてやろうか?そしたら俺の持ってるピアス貸してやるよ。穴兄弟じゃん」

「……ちょっといいかもって思ったけど最後の意味が違うでしょそれ!」


ゲラゲラ笑うハルの背中を叩いて先を歩く。

髪をかけた耳が赤いのは、多分きっと夏のせい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る