イレギュラーも仕事の内



非常口を表すライトが足下を頼りなく照らし、外から入ってくる薄い灯りが死神のシルエットを浮かび上がらせる。

追い詰められたターゲットが窓際に腰を抜かしてへたり込んだ。

命乞いするその様を蓮はただ見下し冷たい視線を送る。


突如、窓ガラスの砕ける音と共に一粒の弾丸がターゲットの後頭部を貫き命を刈り取った。

目の前の獲物が絶命したのを見届け、蓮は割れた窓から数個先のビルの屋上を見て無線を繋ぐ。



「……やれば出来るじゃないか」

『スナ役が欲しいなら他当たれっての!』

「1000mもないんだぞ。この程度で呼ぶのは専門職に申し訳ない」



ライフル越しにハルが吠えているのを聞きながらマスクの下で薄く笑う。

彼が外したら自分が仕留めればいいだけだったので特に問題もない。

彼なら、難なく遂行してくれるとも信じていた。



『てか別に今回俺必要なくね?最近一緒に仕事してなかったから寂しかったとか?』

「ハルの射撃の腕が落ちてないか心配だった。安心した。……あと、一緒にやりたかった」

『おいコラ順番が違ェぞ。最後のを最初に言えよ、心を込めて』



表情までは見えないが、鼻の上にシワが寄っているだろういつもの顔が想像できる。

いくら長物は久しぶりでもこのハル様が失敗するワケが〜なんて得意げに語る彼の言葉をBGMにターゲットの服を漁り当初の目的の物を探す。


見つけたメモリーカードが破損しないように保護ケースにしまう蓮が話を聞いてないと思ったのか、聞けよ!とハルに吠えられた。

チラリと一瞬だけ彼の居る方を見る。

蓮も一つ彼に言わなくてはならない事が出来た。


蓮は剣を握り直し変わらない声色で。

ハルは立ち上がりながら吠えた勢いのまま。



『「客が来てるぞ」』



二人してそれぞれの背後に迫っていた敵の攻撃を捌く。

丁度いい。ハルに協力を頼んだおかげで動き足りなかったところだ。

パトリオットにマガジンを差し込みながらどうしてくれようか考えていると、再び耳元でノイズが鳴る。



『終わったら下で合流だろ?遅かった方が報告書の提出ってのはどうよ』

「ほう、ハルがそんなに報告書を作りたかったとは知らなかった」

『ハッ!言ってろっつーの。あんまりトロいと先に帰っちまうぜェ?』

「要らない怪我するぞ、集中しろ」



切れた無線の接続が始まりの合図。

守備から攻撃に転じた蓮のマントの裾がひらりと舞った。


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