3 「議題」
「……まぁそりゃ学校だし休む奴もいるだろうが、ウィルス感染レベル0の生徒が3人もあの日休んでいたのか」
会議の議題って聞いて少し構えていたが、話の内容は思っていたよりも単純な話みたいで安心した。
ようはジュリアの言う通り、学校を占拠したにもかかわらず一番重要なレベル0は保護出来なかったって話しだろ?
「そういえば、感染レベル0の生徒って俺と椛、あと紗希を含めて何人いたんだっけか?」
「8人よ」
「ということは半分近くか。占拠までしたのにそれは酷いな。事前に登校してるかとか調べればよかったのに」
「時間が無かったのよ。色々と」
投げやりに対応されて少しムッとするが、それよりも聞きたい事がある。
「今この学校にはその感染レベル0の生徒は5人いるってことでいいのか?」
「いいえ。今ここにいる生徒で感染レベル0なのは高希さんたち3人だけよ」
「俺達だけ? 他の2人は?」
「その2人は凄まじい副作用を得た状態で他の生き残った生徒77人を連れて私達の元から去って行ったわ」
ジュリアからそれを聞き、昨日外へ行く時にクレアから聞いた話を思い出す。
確かに、『人類進化薬』でゾンビにならない身体と副作用を得た生徒79人はこの学校から逃げたってクレアが言っていたな。
「凄まじい副作用ってどんなのなんだ?」
「それなんだけど、副作用の詳しい検査をする前に逃げられたから79人全ての副作用は細かいところまでは未知のままなのよ。まぁでも、高希さんみたいな規格外な副作用持ちは2人だけのはずよ」
「なんでそうだってわかるんだ?」
「……質問が多いわね」
少しだけ苦い表情をしてジュリアは言う。
なにか不味い事でも聞いたのだろうか?
「それが分かった理由は沢山の副作用持ちの法則性を確認出来たってことと、僕達の頑張りで生き残った感染レベル3~5のクラスメイトを調べたことから確証が持てたんだって」
苦い表情の意味は何かと考えていたら、隣から紗希が声をかけて来た。
紗希の言葉で思い出したが、俺達は一回ジュリア達『人類最終永続機関』に全力で反抗したんだったな。
「そういえば、俺たち3人があの時命をかけて感染レベル3以上のクラスメイトを助けようとしたが結局どうなったんだ?」
紗希へそう問いかけると、何故かジュリアの表情はさらに曇った。
なんでジュリアがあんなにも悲しそうにするんだ?
もしかして俺達に全力で反抗されたのが悔しいのか?
「そういえばどうなったんだっけ?」
その全力で反抗した仲間であるはずの紗希は何故か助けたクラスメイトの命に興味は無いのか、メイドのアンナにどうなったのか聞く。
アンナは何も言わず、主であるジュリアを一瞥する。
ジュリアは苦い表情のままだったが、メイドに視線を向けられ一度だけうなづいた。
「あの時生きていた残りの26人中、15人が生存しました。その中で感染レベル3が4人と感染レベル4が1人の計5人が人類進化薬に適応しました」
アンナは事務的にあの時の結末を教えてくれた。
「ということは、俺達の頑張りで生き残ってくれたのは5人だけなのか……」
銃で撃たれてまでしたのにもかかわらず、か……。
「そんな顔しないでよ高希。僕達3人が命をかけたから5人の命を救えたんだ。まぁまぁの結果だと思おうよ」
紗希は相変わらず命を数字でしか見てないやん……。
絶対に笑顔であろう紗希の顔を見たくなくて視線を彷徨わせるとジュリアと目が合う。
その悲しそうな、何とも言えない暗い雰囲気を見せる瞳を見て気付く。
ジュリアは俺達に反抗されたのを思い出したから苦い表情をしているのかと思っていたが、どうやらそれは俺の勘違いのようだ。
あの瞳はそんな、自分の事だけを考えているような奴ができる瞳じゃない。
なんていうか、後悔をしているような、人に言えない悩みを抱えているような、そんな瞳だ。
……もしかしたらジュリアのあの表情は、5人しか助けられなかったということを俺に教えたくなかったからなのかもしれない。
「あー……。話しを逸らして悪かった。さっきの話しを続けてくれ」
俺はジュリアの為にも、話題を戻すようにと口を開いた。
「あの、……いえ。なら遠慮なく話しを戻すわね」
一度だけ何かを言おうと口を開くがそれをすぐに閉じ、ジュリアは先程の続きを話しだす。
「私達の方針は基本的には生き残った人類を保護することよ。でも知っての通り外はゾンビで溢れている。外に生き残った人間を助けに行ってその助けに行った人がゾンビに噛まれてゾンビ化なんてしたら目も当てられないのは分かるわね?」
「しかも、ゾンビに噛まれなくても空気感染でのゾンビ化もするんだろ?」
「そうよ。この学校内なら『空気洗浄機・赤角君』があるから空気感染は心配しなくていいけど、人類進化薬を投与していない人間は外に出るだけでゾンビ化する危険にさらされるわ。だから外に生き残った人間を探しに行くのはゾンビ化の心配がない人類進化薬を投与した人間を中心に編成したいんだけど、その人類進化薬を投与された人間が少ないの」
「そこで放心しているクレアから聞いたが、人類進化薬を投与されてこの学校に残っているのは33人だけなんだってな」
副作用を得て逃げた生徒もいたが、中には何故か逃げなかった生徒もいたらしい。
そいつらが基本的に外にいる生存者をこの学校に連れてくる役割をしているのも聞いた。
「いえ、人類進化薬を投与しているのは紗希をいれて『学校の生徒』は34人よ。それに加えてクレアを隊長としている傭兵団『カール傭兵団』に9人。私達『人類最終永続機関』に16人。合計で59人が人類進化薬に適応しているわ」
「なら結構いるじゃないか。その59人全員で外に探索しに行ったらいいんじゃないのか?」
「それじゃぁこの学校を運営したり、ゾンビと未確認危険生命体からこの学校を守るのが難しくなるのよ。出来れば、『人類最終永続機関』の研究員には全員で人類進化薬の製造とゾンビ・未確認危険生命体の研究に集中してもらいたいし、訓練を積んでいる『カール傭兵団』には人類最後の砦であるこの学校を守ってもらいたいの」
「なるほど、つまり適材適所ってことか。研究員には研究を、傭兵団には防衛をって。それで、研究も防衛も出来ない俺ら『学校の生徒』は外に探索に行く役割をってとこか? 話は分からないって程じゃないが、流石にそれはいくらなんでも無理があるだろ」
それだと何の訓練もされてない学生がただ外に出てゾンビの食料になるだけだ。
「分かってるわ。だから、外に探索に行く班を作成したのよ。『学校の生徒』2人と『人類最終永続機関』の人間が3人の編成が基本で、班の中でも重要そうな班には『カール傭兵団』から1人編成するものよ」
「あぁ、そういやそんな話しもクレアから聞いたな」
そう思うと、ずっとソファでのびているクレアって割と俺と椛に色々と教えてくれていたんだな。
……なんでこの人ずっと放心してるんだろう。
「聞いているなら話は早いわ。あぁそれと、昨日の探索で保護できた人数は全体で16人、そのうち人類進化薬に適応できそうなのは5人いたわ」
「その5人を探索班に加えることはできないのか?」
16人って事は、昨日見た3人の他にも13人生き残りがいたのか。
それが多いのか少ないのかはわからないが、保護で来たのなら喜んでいいんだろうな。
「3人には拒否されたけど残りの2人には人類進化薬を投与したわ。でも、身体を細胞レベルで変態させるから少なくても3日間は動かせないわ」
「そうなんだ。……やっぱ人類進化薬ってとんでもないな。というかそもそも、この学校には全体で今は何人の生存者がいるんだ?」
「あら。説明してなかったかしら」
ジュリアはそう言い、アンナに顔を向ける。
「この学校には現在、112人の生存者が在籍しております。内訳は『人類最終永続機関』42人。『学校の生徒』34人。『食堂関係者』2人。『学校の先生』4人。『カール傭兵団』14人。昨日の探索で保護した『一般人』16人となっております」
……えーとだ。
112人生き残りがいて、そのうちゾンビ化しないのが59人で、そのうち学校の生徒が、えーと33、いや34人で、外に行く班には学校の生徒が2人、人類最終永続機関が2人でカール傭兵団が1人? いや人類最終永続機関が3人が基本だからカール傭兵団は学校の防衛を……
………………………無理!!
こんないっきに教えられても覚えられるかよ!!
そろそろ脳みそがとけるぞ!!
「あとでこの学校の事をまとめた書類を作成致します。その時に紗希へその書類をコピーしたものを渡しますので高希様は紗希を経由してその書類に目を通して下さい」
「あ、はい」
メイドが淡々と言う。
このメイド、もしかして優秀なのか?
「高希さんは人間を保護する人員が不足しているってことだけ把握してくれればいいわ。それで、高希さんに今から1つ任務を与えるわ。」
「任務?」
え、なにそれ怖い。
「えぇ。これからのゾンビや未確認危険生物対策を目的とした強力な副作用を持つ人員の補充のため、この学校を休んだ感染レベル0の3人の内の1人である『
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