2章-プロローグ 終わった世界での平穏

始まった未来

 ――――――――僕は、学校に留まることにした。


 これは誰かさんに『ここにいてほしい』と頼まれたからではなく、自分の意思でここに留まることを選択をした。


 確かに死者が生者を襲う世界になったので、色々と自由に観光をしたいなという気持ちはある。


 でもそれ以上に、ここで生きていこうともがく人々の行く末を見届けたいという気持ちが今は強い。


 この学校は言わば古代中国で発祥したといわれている呪術、『蠱毒こどく』の壷だ。


『蠱毒』とは沢山の毒虫を1つの壺に入れ、互いに食わせ合わせ最後に残った一匹を使い毒を作るらしい。


『生徒達を軒並み殺した人類愛を語る研究者達』

『研究者達に生かされた研究者を憎む学生達』

『世界の現状を知り自暴自棄になっているここに連れて来られた一般人達』

『真実を追い求める最弱者』

『なにもよく分かっていないバカ』

『密入国者のケーシィ』。


 その他にも沢山の歪んだ気持ちを抱えた人間達がこの学校に詰め込まれている。

 誰か1人でも暴れ出したり発狂したりしようものなら、まるで爆弾が誘爆するかのようにしてこのつかの間の平穏は崩れ争いが始まるだろう。


『副作用』という名の『毒』をもった『人間むし』達がこの『学校つぼ』で食い合うのだ。


 こんな面白そうな場所から離れるなんて、出来る訳ない。


 いったい最後にはどんな『副作用』を持った『人間』が誕生するのか、考えただけで楽しそうじゃないか。

 もしその誕生に僕が立ち会えたら、僕は演技ではなく心から笑えるかもしれない。


 ……あぁでも今はまだ駄目だ。

 『副作用』を持った『人間』が少ない。

 どうせなら沢山増やしてから食い合いを始めさせるべきだ。

 その方が絶対に面白いはずだよね。


 だから今は大人しく従おう。


 都合のいい事にここの目的は人類の保護だ。

 大人しく大人しく従って従って、人類を保護するのに全力で取り組んであげよう。



「……なんだか、僕はまるで虫取りをする子供のようだなぁ。」


「何か言ったか? 紗希?」


 ありゃ。声に出ちゃってたか。


「いや、何でもないですよ御姉様。」


 僕は長机を挟んで正面に座っている御姉様ジュリアに笑顔を向けて言う。


「そう? 空耳かしら……?」


 御姉様は可愛らしく小首をかしげる。

 その仕草が僕の腕の中で眠るエレナちゃん(天使)がよくする仕草に似ていて、やはり姉妹なんだなぁと思わせられる。


「御譲様。紗希のあの笑顔は信用できません。笑顔なのにまるで心が感じらないのです。きっとあの笑顔は演技で裏では破滅を願っております。これから行われる話し合いに紗希を参加させるのは危険かと。」


 御姉様の後ろに控えるメイド、『アンナ』さんが声を出す。


「アーニャ。あなたの心配も分かる。だけど、紗希にもこの会議には出席してもらうわ。これは、そんな危険を冒してでもしなくてはいけないことなのだから。」


「……かしこまりました。御譲様の仰せのままに。」


 アンナさんはそう言いながらも、御姉様から自分の表情が見えていないのをいいことに僕を凄い形相で睨んでくる。

 なんだったら僕からしか見えない位置で中指立ててる。メイド服に似合わない仕草ベスト3に入るなあれは。


 というかおかしくないかな?

 なにも悪いことしてないのに何故僕はアンナさんにあそこまで敵意をむき出しにされているんだろうか。


 僕は困惑しながらも表情にはいつも通りの笑顔を張り付け、姿勢よくそのままソファに座り他の参加者を待つ。


 この校長室で行われる、学校で強い権力をもつ13人が集められ開かれる3回目の『人類存続会議』のために。

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