1 「保健室」
「ううん……。……ぁぁあ?」
目を覚ますと、家じゃなかった。
「ここは……?」
家じゃないのは確かだが、なんだか見覚えがある気がする場所だ。
まだどこか目覚めきっていない思考のまま、俺は寝かされている白いベットから上半身を起こし辺りを見渡す。
白を基調とした部屋で、カーテンのついたベットが6つ、白いソファーとそれに合わせたような白い長テーブル。そして消毒液の匂いとよくわからない文字の書かれたラベルを張られた瓶が沢山並べられた白い棚。
「おや、目が覚めたかい坊主。」
「そして
「目覚めたと思ったらすぐ罵倒とは喧嘩売ってるのかい!?」
おっと間違えた。我が高校の名物不細工
というか、美代子ちゃんがいるということはここは保健室か。どおりで見覚えがあるはずだ。
「まったく……。1週間ぶりに目覚めたというのに第一声がそれかい?」
美代子ちゃんは醜い顔をさらに歪ませため息をこぼす。
……いやまて。今聞き捨てならないこと言わなかった?
「『1週間ぶりに目覚めた』って、美代子ちゃんもしかして頭までゴブリンレベルになったのか?」
ゴッ。
「ッ~! なにも殴ることないだろ!」
「殴ってないよ。ビンタさ。」
「ビンタは拳を握らないんだが!? この顔面凶器クリーチャーが! 教育委員会にチクってやる!」
「教育委員会が今の状況で機能しているわけが……。」
そこまで言って、美代子ちゃんは口ごもる。
「どうした美代子ちゃん? ……というか俺、声がなんかかすれてる? 水とか保健室になかったっけ?」
「……そうさね。私から話すよりも、ふさわしい奴から説明させるのが筋ってもんだ。どっちにしろあんたが目を覚ましたら呼べって言われてたしね。」
「なに一人で言ってるんだ。水ないの水? ……そうだ。そもそも俺はなんで
俺は水がないか辺りを改めて見回し、そこで白い長テーブルになにかが置かれているのに気づく。
それはこの白い部屋に似合わず黒色で、アニメやドラマなんかでよく見る形をしていて、最近それは俺にむけられた……
瞬間、『それ』が記憶の鍵になっていたのか記憶のふたが外れ全てを思い出した。
「おいおいまてまてなんで保健室に『拳銃(それ)』があるんだよ!? いや違う! そうだまずあれからクラスの皆はどうなったんだ!? というか、え? ここ保健室だから学校なんだよな!? あんなことあったのになんで普通に俺は保健室に寝かされてるんだ!? 俺の体ってメイドに撃たれてたよな? 病院で治療じゃなくて保健室で治療されたの俺!? 雑じゃない!?」
「じゃかしぃ!」
美代子ちゃんのヒジが俺の頬に刺さる。
「いでっ!? なぜエルボー!?」
「高希は男だろ! 混乱するのは分かるが
美代子ちゃんはそう言い俺の右隣りのベットのカーテンを勢いよく開けた。
そこには確かにアイマスクをした椛が寝ていた。
「え? い、生きてるのか……?」
「ふんっ。お前ら悪坊主が死ぬ光景が浮かばんわ。とりあえず、私は人を呼んでくるから、大人しくしてることさね。いいね? 大人しくだよ?」
そう言い美代子ちゃんは足早に保健室から出て行った。
………………。
「……いったいなんなんだよこの状況?」
「説明しよう!」
「うぉぉおぉおお!!?」
すぐ横から声がして驚き思わずベットから転がり落ちそうになる。
「いやぁ。そんなに驚いてもらえるとは美代子ちゃんにもばれないようにここで寝ていたかいがあるってもんだよ。」
左側のベッドのカーテンがシャーと開き、そこから笑顔で金髪の幼女を抱きしめている
あんなことがあったというのに紗希は変わらず平常運転のようだ。
その平常運転に少しだけ安心する。
紗希も無事だったんだな。
……そうだ。紗希なら俺がクラスで気を失った後に何があったのかを知っているはずだよな?
クラスの皆はどうなったのか、なんで俺が保健室で寝ているのか、あの赤髪とメイドは何処に行ったのか、聞きたい事が山ほどある。
俺は金髪幼女を抱きしめ続けている紗希に言う。
「紗希、その金髪幼女は誰だ? 知らない幼女を抱きしめるのは犯罪だからやめたほうがいいぞ?」
「あっ。最初に聞くのそれなんだ。」
「当たり前だろう。友人が犯罪に手を染めようとしていて止めに入らない奴がいるかよ。」
「確かにそうか。でも大丈夫だよ。僕とこの幼女、エレナちゃんは知らない仲じゃないから。隠すことでもないから言うけど、僕たちは愛し合ってる仲なのさ。」
そう言いながら紗希はその可愛らしい顔を幼女の頬に近づけさせ、キスをした。
「起きろ椛! 事案だ!!」
俺は椛の顔に枕をなげつける。
「ふぐぁ……?」
だが椛は変な声を出すだけで起きる気配はない。
「おいおい事案とは聞き捨てならないな。言ったろ? 僕達は合意の上さ!」
「合意ってなんだよ!?」
俺は自信に満ちた紗希を無視して、紗希の腕の中にいる幼女を見る。
幼女は光を反射させている綺麗な金髪をツイテールにしている。
年齢は小学校に入りたてくらいか?
白いワンピースを着て紗希に抱きついている。よく見ると幼女の目も金色で、涙ぐんでいた。
可愛らしい顔立ちに目を奪われがちだが、それでも目を引かれるのは首についた『Elena』と書かれた大きな首輪で……
「椛起きろ! 犯罪者だ!!」
俺は椛の寝てるベットを蹴る。
「うんなぁぁぁ……?」
だが椛はさっきと同じで変な声をあげるだけだった。
「まってまって誤解だよ誤解! 僕は正常だ!」
「なぁにが誤解だ! というか涙目の金髪ツインテール白ワンピロリに首輪を付けてそれを笑顔で抱きしめているような奴が正常なんて嫌だ! 捕まってしまえ!!」
「ほら僕にも首輪付いてるから! ね!?」
紗希は自分の首に指をさす。
そこには紗希が抱きしめるロリの首輪と同じタイプの首輪があり、『紗希』と名前が書かれていた。
そして嫌なことに首輪には鎖が付いており、紗希とロリの首輪が鎖でつながっている事に俺は気付いてしまった。
「椛起きろ!!
俺はずっと寝ている椛の腹に拳を入れようとふりかぶる。
「暴力はやめろ!」
だが俺の拳は椛にすんでのところでかわされベットに突き刺さる。
ベットがきしみをあげ、殴った所が陥没した。
「椛め、殴られる寸前で目を覚ますとは
「夢見心地の人間に暴力を振るうんじゃねぇよ高希!!」
「そんなことより椛! あれを見ろ!」
俺の拳をかわした時にベットから落ち、腰を抑えながら立ちあがった椛に俺は叫びながら紗希を指さす。
椛はすぐに紗希に気づき、その腕の中で涙ぐむロリを見た。
「……事案だっ!!」
「君らいい加減にしなよ!?」
椛の正常な判断に紗希がキレる。
「なに!? なんでこんな騒がしいの!?」
「やはり毒島様と佐藤様は同じ部屋にするべきでなかったのではないでしょうか?」
その時、保健室の外から2人分の声と足音が聞こえて来た。
「おいおいこの声ってまさか……!」
椛はいち早くベッドの下に潜り込む。
その行動は洗練されていて、
そして椛がベットの下に消えるのと同時に保健室のドアが勢いよく開く。
そこには紗希の抱えるロリと同じ金髪をもつ中学生くらいの子供と、あのメイドが立っていた。
「えっ!? なんでエレナと紗希がここにいるの!?」
謎の金髪中学生は保健室の扉を開けるなり、そのツリ目と口を大きく開けて驚く。
「メイド!?」
だが俺の方はそれどころじゃない。
俺の記憶が正しければ俺はこのメイドに腹を撃たれている。
緊張に身体が支配され、あの時の腹の痛みがフラッシュバックする。
「
だが、紗希は俺の緊張をよそに入って来た金髪中学生に声をかけた。
……なんで御姉様?
「御姉様と呼ぶな! 紗希とエレナは何故ここに居るの!?」
紗希に御姉様と呼ばれた金髪中学生は頭を抱えながら言う。
「いや、そろそろ親友2人が長い眠りから覚めるかなと思いまして。」
「……なるほど。紗希は1週間寝たきりだった親友を心配して様子を見に」
「『お前らどんだけ寝てんだよお正月気分か』と煽ってやろうと思いかけつけました!」
「心配してとかじゃないんだ!?」
金髪中学生は紗希の言動にいちいち反応する。あれでは身が持たないだろうなぁ。
「って違う!! おい紗希! なんだ、このいきなり現れた金髪中学生は!?」
「中学生じゃない! 御姉様だ!!」
珍しく紗希が大声をあげ怒る。
「え、あ、ごめん。やり直す。 ……おい紗希! なんだこの御姉様は!!」
「御姉様は御姉様だよ。」
「分かった! もう黙ってていいぞ!!」
俺は紗希に事情を聞くのを諦め保健室に入ってきた2人を睨む。
「おいこら御姉様! 御姉様は何者なんだ!?」
「いやあなたも御姉様って言わないでよなんかおかしくなっちゃうでしょ……。……アーニャ。何なのこいつら?」
御姉様は何故か疲れたように後ろに控えるメイドに問いかけた。
「頭のおかしい集団でございますお譲様。見てはいけませんよ。」
あのクソメイド殴ってやろうか。
「……アーニャにここまで言わせるとは相当よあなた達?」
「何が相当だよ。大体、俺達のクラスメイトを殺してその態度とは逆に恐れ入るぜ。また俺を殺しに来たのか?」
御姉様は呆れながらこちらを見ているが、俺はメイドから視線を離さないようにするのが精一杯だ。
銃は……持ってなさそうだな。だが、もしかしたら隠してるのかもしれない。こりゃうかつに動けないな。
「だから殺す訳ないでしょ。何回言わせれば……あっ。そうか、あなた今起きたものね。」
御姉様はそう言い、一歩前に出て俺をまっすぐ見てきた。
「なんだ?」
俺は急に呆れたような態度から真面目な態度に変えた御姉様、いや彼女を見る。
彼女は真剣な目で俺の眼を見ていた。
そして俺と目があったのを確認した彼女は重々しく口を開いた。
「あなた達のお友達を殺せと命令を出したのは、この私よ。」
とんでもない事を言ってきたぞこの中学生。
「……お前が?」
聞き間違いじゃないかと問い返す。
「えぇ。そうよ。」
だが、聞き間違いではないと彼女は応えた。
「別に、ここで全てを話してもいいのだけど……。」
彼女がチラリと俺の背後、紗希に目を向ける。
「どうせなら『あそこ』でお話しをしましょう御姉様。『あそこ』なら資料もあるし雰囲気もある。何より百聞は一見にしかずって言葉もありますしね。」
「そうね。」
「おい紗希。お前、何か知ってんのか?」
メイドは襲ってこないようだと判断し、俺は身体の緊張を解く。
「僕も色々あってね。目覚めたのはつい昨日くらいだから多くは知らないけど、君達よりは事態を把握してるね。」
紗希はいつものように演技の笑顔を顔に張り付けそう言うだけだった。
「そうか……。とりあえず、話しを聞かないと先に進まないみたいだな。」
俺はベットから降り、立ち上がる。
「あぁそうだな。高希の言う通りだ。んじゃ、さっさと行こうじゃねぇか。その『あそこ』とやらによぉ?」
それと同時に、メイドが近付いていることにまっさきに気づいてベッドの下に隠れていた椛が這いずり出ながら言う。
「……あんだよ? 皆して俺様を見て? 見せもんじゃねぇぞコラ。」
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