1章-1 目覚め

未来への会話

「よく来てくれたね。私の可愛いジュリア。」


「……お父様。」


「そんなに悲しそうな顔をしないでくれ。私は最後に、お前の笑顔を見たいと思っているんだ。それとも、最後の最後まで結果が出せなかった研究者に笑顔を見せるのが嫌かな?」


「そんなことは!」


「あいや、今の言い方はずるいな。……忘れてくれ。」


「……もう、時間なのですね。」


「あぁ。残念だがもう始まってすらいる。まぁ、なんだ。こんな遠い地まで来て、妻を始め色々な人を犠牲にしても諦めずにやってきたのだが、結局全人類は救えずにタイムリミットがきたのは正直悔しい。やはり私達に全人類の命は重すぎたみたいだ。少しの人類までにしか手が回らなかったよ。 


 ……ジュリアとエレナの未来を救えなくて、すまなかった。」


「謝らないで下さい。お父様は未来を救えずとも、未来への『道』は残して下さいました。それだけで十分な偉業を成し遂げて下さっております。先人達が作ってくださった『道』があるからこそ後の者達は、私達は迷わず進んで行けるのです。」


「……そうか。そう言ってくれるかジュリアよ。お前は私には勿体ないくらいの心強い娘だな。嬉しいことに、私ではなくお母さんに似てきたようだ。これなら、私がいなくなっても大丈夫そうだ。」


「……はい。」


「ジュリア。その、エレナの事だが。私の代わりに背負わせてしまうことになってしまうが、」


「妹の事は気にやまないで下さい。命があり、生きていけるだけで幸せなのですから。しっかり守ります。たった1人の妹なのですから。」


「……ならこれからのことは大丈夫か?」


「これからのことは何度もお父様や皆様に教えて頂きましたし、私も沢山学んできましたから。それに、頼りになる仲間達もいます。」


「良い返事だ。ジュリアに心配は不要だったみたいだな。……心配と言えば、やはりあのメイドを残していくのは少しだけ心配だな。」


「お父様はなぜアーニャをそこまで危険視なさるのですか? アーニャは昔から良くやってくれているではないですか。」


「いや、良くやってくれているのは認めているんだ。だが、あのメイドのお前を見る目が」


「ですからそれは忠誠心の表れだと、そう納得して下さったではないですか。」


「むぅ……。まぁ、結果が出たことを議論しても仕方がないが……。」


「議論と言えば、お父様はティアと最後にどんな議論をするおつもりですか?」


「いや、奴との別れはもうすでにすませている。」


「そうなのですか? 意外ですね。私はてっきりティアとは最後の最後まで、研究の話しなどをするものとばかり思っていましたが。」


「最後の最後に奴が気を利かせてくれたのだ。『あんたみたいなどうしようもない研究バカでも最後の記憶は、私や部下との研究の話しじゃなく自分の愛する者と楽しく話した時間であるべきよ。』だとさ。」


「……ティアにはあとで、感謝をしなくてはなりませんね。」


「苦手な奴ではあったが、悪い奴ではなかったってことだな。」


「私は最初からティアは良い人だと知っていましたよ。まぁ、私も少し苦手ですがね。」


「おや、ジュリアにそんなことを言われるとは奴も可哀想な女だな!」


「面と向かっては言いませんよ。」


「いやー愉快愉快。……いいかジュリア。ティアと私の研究仲間達がいれば、これから起きるであろう脅威にも必ず力になってくれるだろう。」


「はい。」


「親としては、娘に幸せな人生を残してやりたかったのだがなぁ。」


「お父様は素晴らしい親で、それと同時に最高の研究者でありましたよ? 唯一の汚点を上げるとするならば、それは不幸だったことだけです。」


「そうか? ……私自身は本当に人類の未来に貢献できたのか疑問なんだがな。」


「お父様が残した研究はティアに受け継がれます。そして、あなたの名は救世主として未来に私が語り継ぎます。」


「研究が受け継がれ、名前が語り継がれるのか。ハハッ。それは最高だな。」


「お父様。ですからもう自分を卑下しなくても大丈夫なんですよ。」


「ありがとう、ジュリア。強く心優しいお前は私の誇りだ。……そろそろお別れの時間だな。メイドを連れて来てくれないか。」


「分かりました。……。……お父様。」


「なんだ?」


「愛しております。」




「……あぁ。私もだよ。」

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