第2章 試験

甘いはちみつ亭の朝(語り:ミシア)

甘いはちみつ亭の朝は早い――タニアだけだが。

ミシアとタニアは同じ部屋で暮らしているが、先に身支度を整えたタニアは、ミシアに「行ってきますね」と声をかけて部屋を出て行く。

ライラは夜遅くまで酒場を切り盛りするので、朝食を用意するのはタニアの仕事だ。


ミシアは目を覚ました後、30分くらいベッドの中で過ごしてから、起き上がった。

今日も、窓の外の少し離れたところにある木に留まっている白い鳥と目が合ったので、「おはよう」と声をかける。(距離があるので、聞こえてはいないだろうが)

別にこの鳥を飼っているわけでもないが、甘いはちみつ亭の近くに巣でもあるのか、ミシアと目が合うことが多いのだ。

部屋に入り込んで髪の毛や切って落ちた爪を持っていくこともあった。ミシアたちの部屋の窓にも鉄格子は付いているが、鳥が通り抜けるには充分な隙間が空いているのだろう。


それから面倒くさいけど、まず服を着なければならない――ミシアは、寝るときは何も身に着けていない。「人間はどうして服を着なきゃならないんだろう…」と思うけど、何も着ないで歩き回るとタニアやライラさんに怒られるので、仕方ない。

ミシアにとっては、服を着ていなくても裸という感覚では無いのだが。


まずは、胸に布を巻く。布の端には、服にひっつく植物の種のとげとげを移植した面があり(タニアの力作だ)、その面を布に付けて上から押さえるだけで簡単に留められるし、けっこう外れにくい。外したいときは、端の方からゆっくり剥がしていけばいい。

(思いっきり引っ張れば素早く外せるが、とげとげも壊れてしまう。さすがにタニアに悪い)


それから、パンツを床に置き、穴の位置に足を置いて、パンツを引っ張り上げる。ズボンも同様だが、腰周りの部分を金属製の押しボタンで留める手間がある。

パンツとズボンを重ねて一緒に穿けば1回の動作で済むと思って試したことはあるが、パンツの位置がずれてしまって余計に面倒なだけだった。

また、穿くだけならズボンよりスカートの方が(足の位置を気にする必要が無い分)楽だが、動くときに布がヒラヒラして邪魔になるので、ズボンの方が好みだ。


最後にベッドに腰掛け、サンダルを履く。サンダルの口周りの皮ひもの幅が指ほどの太さしかないので、押しボタンで留めるのが一苦労だ。


そうこうしている内にタニアが戻ってきて、ミシアの髪を梳いてくれる。髪はさらさらになるが、一部のくせ毛はどうしても残ってしまう。

タニアはそれが気になるようで、いつもくせ毛が跳ねないよう挑戦し、敗北を続けている。ミシアは気にしないのだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る