自己紹介(語り:ケニー)

「…どうすればいいんだ、これ…」僕が内心頭を抱えていると、まだテーブルの上に立ったままの子供の後ろ――廊下の方から、別の女の子の声が聞こえてきた。

女の子「お、ね、え、さ、ま~?」

途端に、子供の動きが固まる。

廊下から現れたのは、ピンク色の長袖の服と丈の長いスカートを穿き、白いエプロンを着けた女の子だ。最初の子供よりも背は高い。

髪の右側を結んでいる。女性の髪形には詳しくないけど、サイドテールというんだっけ?

笑顔を浮かべてはいるが、こめかみに血管が浮いて、片方の眉がピクピクと動き、背後に炎が燃え上がってゴゴゴゴゴ…と音を立てていても不思議は無い感じだ。

同時に、厨房の方からも女性が声をかけてきた。こちらの女性も女の子と似た服装をしているが、服の色は黒だ。

女性「あらあら~。ミシアちゃん~?テーブルの上に乗っては、いけませんよ~?お客様の食事を、載せる所なんですからね~?」

こちらは普通に笑顔のまま、おっとりとした声で何の迫力も無いが、ミシアと呼ばれた子供は、背をぴんと伸ばす。

子供「はぃっ!」

裏返った声で返事をしてテーブルから飛び降り、風のようにカウンターの横から厨房へ入り、一瞬で布巾を持って戻ってくる。

そのまま自分が立っていたテーブルをゴシゴシと乱暴に拭く。


その間に、女の子が僕たちに話しかけてきた。

女の子「すみませんでした、お客様。姉が失礼なことを致しまして、申し訳ありません」

両手をエプロンの前に揃えて、丁寧にお辞儀する。

ケニー「姉…?」

女の子「はい、そうは見えないかもしれませんが、わたしの姉です」

子供よりもこの女の子の方が背が高いし、話し方もしっかりしているのに。

子供「ちょっと待って、そういえばまだ自己紹介してなかった!」

子供がテーブルを拭いていた布巾を放り投げて振り返る。

女の子は平然と布巾をキャッチし、そのまま丁寧にテーブルを拭き直す。


子供「あちらをご覧下さい!」

子供が両腕を厨房の中の女性に向ける。

子供「当店の料理の看板娘、ライラです!」

ライラ「あらあら~。看板娘だなんて~照れちゃいますね~うふふ~」

「確かに、娘というにはちょっと年齢が…」と思ったが、コノハが睨んでくるので、慌てて目を逸らす。アーキルもコノハから目を逸らしている。

子供「そして!給仕の看板娘、ボクの妹、タニアです!」

傍らでテーブルを拭いていた女の子を両腕で示す。

タニアはスカートをちょっとつまんで持ち上げ、可愛くお辞儀する。

タニア「妹のタニアです。よろしくお願い致します」

子供「そして!ボクが!看板店長のミシア!です!」

ミシアは両足を少し開いてどっしりと床に立ち、拳を腰に当て、えっへんと胸を張る。

ミシアの右側ではタニアが片膝をつき、両腕をミシアの方へ伸ばし、指を大きく開いてひらひらと手を振る。

タニア「きゃー、お姉さまー、素敵です~♪」


ちょっとついていけなかった僕ら4人は、再び固まる。

宿の外にいた白い鳥が、バサバサーと羽を振る。まるで呆れたかのように。


ミシア「うーん、あまりウケなかったね」

ルディア「あ、いえ、そんなことないですよ。ミシアちゃんと言うんですね。格好よかったです」

ルディアが遅れて拍手するが、ふたりの耳には入らなかったようだ。

タニア「やはり、お姉さまの傍にいたのがわたしだけだから、バランスが悪かったでしょうか。もう一人いれば、両側からお姉さまの輝きを演出できましたのに」

ミシア「サティかスカリィならやってくれるかな?」

タニア「サティは無理じゃないですか?スカリィちゃんならやってくれるかもしれません」

ケニー「そ、その子たちは…?」

ミシア「村長の娘姉妹だよ」

タニア「今度こそちゃんとしたポーズを決められるよう、頼んでみますね!」

ケニー「えーと、いえ、その…。はい…」


タニアという子は最初はまともだと思ったのに、ミシアという子と似た者姉妹だということなのか…。

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