出会い(語り:ケニー)

その子供は冒険者に興味津々という感じが溢れていたけれど、回魔士について話したときだけテンションが低かったように感じられたのは、ちょっと気になった。


でもそんな事はお構いなしに、アーキルが割って入ってくる。

アーキル「なあ、ぼうず。冒険者に興味津々なのは分かったが、オレたちは長旅で疲れてるんだ。ちょっと休ませてくれんかね」

その言葉に、子供の頭がぴくっと反応する。

アーキルと視線を合わせて(その子はまだテーブルの上に立ったままだったので、アーキルと目の高さが近かった)、反論する。

子供「お兄さん、ボクはれっきとした女だよ。見たら分かるでしょ?」

アーキル「はあ?」「え?」

アーキルと一緒に、僕も驚きの声を上げてしまった。僕もてっきり男の子だと思っていたから。


改めて、その子の格好を見てみる。背は低い。10歳くらいに見える。

髪は短くてサラサラだが、ちょっとクセ毛が跳ねている。可愛らしい顔立ちで、男の子のようにも女の子のようにも思える。

服装は……胸には白い布を巻いている。(なお、目立った膨らみは見られない)

お腹は丸出し。

腰とお尻にぴったりフィットした黄色い短パンをはいて、素足にサンダル。

アクセサリーの類は一切無し。

改めて見ると、変わった格好だ。この村の風習だろうか…と一瞬思ったけど、道中で会った村人や厨房で料理を作っている女性は、いたって普通の服を着ていた。


首をかしげていると、

子供「ほら、見たら分かるでしょ?」

と言いながら、自分の股間をズボンの上からパンパンと叩いてみせる。

――そのあまりにも常識を外れた行動に意表を突かれ、見ていた4人とも硬直する。


……僕たちからの反応が無いので、子供はしばらく何かを考え……

子供「うーん、やっぱりズボンを穿いてるから分かりにくいのかな。じゃあ脱げば分かるよね」

と言って、ズボンに手をかける。

最初に我に返ったのはアーキルだった。さすがは歴戦の重剣士!

アーキル「おい、待て…!」

しかし止めようとするアーキルの手が届く前に、子供の手が止まる。

子供「やっぱり、ズボンを脱いだら穿くのが面倒くさいから、やーめた」

アーキル「面倒くさいからかよ!!」

思わずアーキルが反応して、容赦ないツッコミの裏拳が子供に叩き込まれる。

僕は「まずい!」と思ったが、硬直していたので防壁魔法も間に合わない!


しかし子供は吹き飛ばされもせず、胸でアーキルの裏拳を受け止めていた。

子供「お、お~。…お兄さん、良いツッコミだね!さすが重剣士だね!冒険者の人にツッコんでもらえるなんて、ボク感激♪」

…こちらは最悪の事態を覚悟したのに、当人はいたってのんきだ。


アーキル「…すまねえ、思わず手が出ちまった。お前、大丈夫なのか?」

子供「うん、平気だよ。衝撃がズンッてすごかった!」

アーキル「…お前、ラ族なのか?」

子供「らぞくって何?」

アーキル「ラ族っていうのはウィンズ人の一部族でな、ウィンズ人は泳ぐのが好きだからいつも水着みたいな格好をしているが、ラ族は全裸なんだ」

子供「そんな部族あるんだ!でもボクはラ族じゃないよ。面倒くさいけどちゃんと服着てるじゃん!」

アーキル「服を脱ごうとしてたじゃねーか!?」

アーキルの言葉に、僕も補足を入れる。

ケニー「人として服は着た方が良いと愚考する次第でアリマス…。あと、そのラ族の話は単なる噂話であって、現実には居ませんよ…」

アーキル「そうなのか。だが、ウィンズ人は人魚に変身する魔法を使えるやつが多いから、男女ともスカートを穿いていて、パンツは穿いてないってのは本当だろ?」

子供「それ楽でいいなぁ。ボクもパンツ穿くの面倒だから、そうしたいなぁ。でもパンツ穿かないと、怒られるんだよねぇ」


ここでようやく硬直が解けたコノハが、アーキルの耳を引っ張って注意する。

コノハ「馬鹿な話をしてるんじゃないの!それよりも!ちょっと、いつまで女の子の胸を触ってるのよ……!」

アーキル「…あん?」

まだ子供が胸でアーキルの裏拳を受け止めた状態のままだった。

アーキル「そう言われると……確かにちょっと柔らかい感触があるような…」

コノハ「あんた、矢で串刺しになりたいようね!」

怒気を帯びてコノハがアーキルの耳を思いっきり引っ張り、アーキルを子供から引き剥がし、足を掛けてアーキルを投げ飛ばす!

アーキル「ぐはっ」

それを見ていた子供は無邪気に感心している。

子供「は~、あんな大きな人を投げ飛ばすなんて、お姉さん、すごい!参考になるなぁ」

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