出会い(語り:コノハ)

その子供は、サラサラの短い髪に、クセっ毛がぴょんと跳ねていた。背も低い。年齢は10才くらいだろうか。

テーブルの上に立ってお辞儀をしながら、嬉しそうな声で「ようこそ、甘いはちみつ亭へ!」と言った。


そして顔を上げると、堰を切ったように早口でアーキルに向かって話し始めた。

子供「お兄さんたち、冒険者だよね?!ボク、感動しちゃった!背がすごく高いね!筋肉もすごいし!きっと重剣士だよね?ね?武器は?武器はどうしたの?!」

ルディアとケニーはほとんど同い年と言っていい年齢で、私は彼女たちよりほんのちょっぴりだけ年上だけど、アーキルは私より5才年上だ。

子供から見ればどう考えても「おじさん」であろうアーキルに対して「お兄さん」と呼びかけるとは、この子供、できる。

(ちなみに私はエルフ人だ。エルフ人は他人種に比べて長命だとされているけれど、寿命はせいぜい20~30年しか違わない)

アーキル「お、おお…。武器は両手剣だ。邪魔になるから宿の外に置いてあるぜ」

子供「わー、そうなんだ!後で見せてもらってもいい?いい?!」

アーキル「見るだけならな」

普段のアーキルなら「ダメだ」とにべもなく断りそうなところだが、子供の勢いに押されてしまったようだ。アーキルにも可愛いところがあるものだ。


次いで、子供はルディアに話しかける。

子供「お姉さん、とっても綺麗だね!ボク、まるでお姫様かと思ったよ!」

そう言われたルディアは、どう答えたものかと一瞬逡巡したようだった。

ルディア「いえ、そんなことはありませんよ。でもありがとうございます」

子供「お姉さんの職業は何なの?武器は何を使ってるの?」

ルディア「私は……軽剣士かしら。武器はレイピアです」

ルディアは、ちょっと迷ったそぶりを見せてから、腰に差したレイピアを指し示す。

子供「わー、お姉さんと同じで綺麗な剣だね!すごいね!」

ルディアは答えに窮しているようだ。照れて顔を赤くしている。仕方が無いので、助け舟を出すことにした。


コノハ「ねえ、私の職業は分かるかしら?」

子供は私の方を振り向いて即答する。

子供「お姉さんは、弓士でしょ!」

コノハ「ふふっ、やっぱり分かっちゃうか」

背中の弓を揺らしながら答える。

それに、私のこともちゃんと「お姉さん」と言った。分かってるわね(笑)


コノハ「それじゃ、あっちは?」

と、ケニーを指差す。

子供は、うーんとうなり声を上げて、考え込む。

子供「こっちのお兄さんも、武器らしい武器を持ってないんだよね…。でも軽装だし。もしかして、攻魔士か回魔士だったり?」

ケニー「すごい、正解だよ。僕は回魔士だね」


クラスタリアの人間は、みな魔法の素質を持っている。

中には魔法を使えない人もいるけれど、冒険者ともなれば、何らかの魔法を使えることが多い。

例えば剣士は自己強化魔法、すなわち自分の腕力や脚力を向上させる魔法を使える者が多い。重剣士のアーキルも筋力増強の魔法を使える。

そんな中で、直接攻撃に使える魔法(例えば炎や風)を使う者を攻魔士、怪我を回復させる等の仲間を守る魔法を使う者を回魔士と呼ぶ。強化魔法の使い手に比べると攻魔士や回魔士は数が少ないので、冒険者のパーティーには引く手あまただ。

(ちなみに強化魔法の使い手を魔法学院では強魔士と呼ぶけれども、一般にはあまり使われていない)


子供「回魔士…。回魔士はすごいよね、どんな傷も治しちゃうもんね」

ケニー「いや、どんな傷もってことは無いよ。すごい回魔士はそうなのかもしれないけど、僕なんかは、まだまだだよ」

コノハ「そうは言うけど、本当にケニーはすごいのよ。魔法を2種類も使えるんだから」

ケニーは、空気を壁に変える防壁魔法と、傷を癒す治癒魔法が使えるのだ。

子供「えっ、そうなの?!すごいね!」

ケニー「いや、2種類くらいなら、ざらに居るから。魔法学院には、もっと沢山使える人も居るよ」


クラスタリアの人間はみな魔法の素質を持っているけど、大抵の人は、1種類の魔法しか使えない。

その人が得意な事、興味を持っている事が魔法にしやすいと考えられている。

したがって、2種類の魔法が使えるということは、それだけ才能があるということね。

もっとも、ケニーの言うとおり、魔法学院には3種類以上の魔法が使える者もいる。ヤーハ魔法学院(引いては魔法学院国ヤードック)のトップである大賢者様に至っては、千を超える魔法を使えるという噂もある。さすがに大賢者様自身は否定しているようだけど。

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