出会い(語り:アーキル)
『クラスタリア』は、この世界の名であり、この星の名でもある。
クラスタリア最大の大陸『ハイオズ大陸』の、中央から東部にかけて存在する大平原が『オラクルード地方』。オラクルード平原とか平原地方と呼ばれることもある。平原と言っても、山や谷が全く無いわけじゃないがな。
オラクルード地方に住んでる主な人種はオラク人で、大きな国が7つも在る。
そのうち、オラクルード地方のど真ん中に位置しているのが『魔法学院国ヤードック』。オレたちの
冒険者の主な仕事は、なんと言っても魔物狩りだ。
だがオレ以外のメンバーは『ヤーハ魔法学院』出身の駆け出し共ばかりなんで、ライバル冒険者の少ない、弱い魔物が居そうな所に移ることにした。
そうして辿り着いたのが、オラクルード地方の南西に位置する『普通の国スタンガルド』の、『ハルワルド村』だ。
他の国と比べて特徴が無いから「普通の国」なんて呼ばれているが、実は魔法学院国ヤードックに次いで昔から存在している古い国らしいので、どうせなら「伝統の国」とか名乗れば良いのにな。
普通の国スタンガルドの北西部には山脈(平原地方にも山はある)、南側には海があり、西は『エルフィード地方(別名、森林地方)』につながっている。
ハルワルド村は山脈の麓にあり、森を切り開いて作られた、小さな村だ。
それでも村を囲む柵はしっかりしているし、村の中を流れる小川から畑に用水路が引かれ、点在する家々もきちんと補修されており、比較的豊かな生活をしていることが窺える。
畑仕事をしている村人に声をかけると、気さくに宿酒場の場所を教えてくれた。小川の上流、村の端にあるとのことで、行ってみるとすぐに分かった。
宿酒場は、こんな村にある木造2階建てにしては背の高い、なかなか立派な建物だった。
入り口には「宿酒場・甘いはちみつ亭」という看板が出ている。
アーキル「甘いはちみつ亭って、奇妙な名前だな。ハチミツってのは甘いもんだろうが」
ルディア「素敵なお名前だと思います」
コノハ「よっぽど甘いものが好きなのかしらね」
ケニー「ここら辺の特産物が蜂蜜なのかもしれませんよ。もしかすると甘くない蜂蜜があるのかも?」
オレの疑問に、仲間たちが口々に答える。
アーキル「ま、宿の名前なんざどうでもいいがな」
言いながら、入り口を見る。高さ2メートルほどでオレの身長よりも低いが、オレは体が大きいサラム人の中でもさらにでかい方だ。2メートルもあればたいていは充分だろう。
しかし背中に背負った
「こんな所じゃ、盗めるヤツも居ないだろうからな」
なにせオレの身長ほどの長さがある剣だ。普通の人間なら持ち上げることも叶うまい。
そして扉を開けて、声をかけながら中に入る。
アーキル「おう、邪魔するぜ」
宿の中は、思ったより広々としていた。
右側にはL形のカウンター席があり、その向こう側に厨房があるのが見える。女性が1人、料理をしていたようだが、オレが入ってくるのに気付いて会釈した。
女性「あらあら~まぁまぁ~。いらっしゃいませ~」
赤みを帯びた肌色をしているので、オレと同じサラム人だと分かる。サラム人は『サラマンディード地方(別名、砂漠地方)』が発祥なので、暑さに強い肌をしている。
それに、黒い服に白いエプロンをしているが、胸の膨らみがはっきり分かる。サラム人は男女とも肉付きが良いのだ。(それにしてもかなりの大物だ!)
正面の奥には廊下と2階へ登る階段があり、その幅もけっこう余裕がある。ここはオラクルード地方、主にオラク人が住んでいる地域だ。オラク人だけなら廊下にこんな幅は無駄だろうが、オレのような体格のサラム人にはありがたい。天井も意外と高く、色々考慮して作られているようで、感心する。両手剣を持ち込んでも何とかなったかもしれない。
左側には食事用のテーブルと椅子が並んでいる。
壁際に『遠見の水晶板(通称、テレバン)』が置いてあることに、ちょっと驚く。個人なら金持ちしか持っていないし、村や町でも集会所には設置されているが、こんな小さな村で、宿酒場にあるのは珍しい。
食事用のテーブルの座席のひとつに、子供が座っていた。
椅子に座り、しかし上半身はテーブルの上に倒れこみ、顔だけ上げてこちらを見ている。口はポカーンと開いてバカっぽいが、目は大きく見開いてキラキラと輝き、次々に入ってくる仲間たちの方を見ている。
仲間たちが全員入り終わり、ルディアが「これからしばらくお世話になります。よろしくお願いしますね」と挨拶した。
その途端、子供は急にジャンプしてテーブルの上に立ち、深々とお辞儀をして、元気な声で言った。
子供「ようこそ、甘いはちみつ亭へ!」
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