第1章 出会い

出会い(語り:ミシア)

ミシア「あー、ヒマだ……」

両腕をだらんと下げたまま、テーブルに突っ伏す。


そのまま顔だけを上げ、正面――店の入り口の方を見る。

閉まったままの大きな扉がある。高さ2メートルほど。ボクが背伸びをして腕を伸ばしても届かない高さだ。(もちろん、ジャンプすれば余裕で届くけどね!)

この扉が昼間に開くことは、とても残念ながら、まず無い。


今度は、顔を右に向ける。

店のテーブルと椅子が整然と並んでいる。テーブルの上や床も綺麗に掃除されているし、さすがタニア、良い仕事をしている。

タニアの姿は見当たらないけど、2階の掃除か、地下室の整理か、洗濯でもしてるんだろう。タニアは働き者だからね。とっても良い子だ。


顔を左に向けると、カウンター席越しに厨房が見える。ライラさんが料理の仕込みをしている最中だ。

楽しそうにゆったりとした鼻歌を歌いながら、手馴れた様子で動き回っている。

いつものことながら、背負っているおなべのフタは邪魔じゃないのかな。家の中にいるときくらい外せばいいのに。

しばらく、腰にぶら下げたおたまがゆらゆら揺れるのを眺める。


そして目をつぶって顔を真下に戻す。

ミシア「あー、タイクツ……」

ここは、村で唯一の宿酒場だ。小さな村にある唯一の酒場でもあるので、村の人たちがけっこう利用してくれる。

でも酒場のお客さんが来るのは、みんなの仕事が終わった夕方から。だから昼間は暇だ。

宿屋のお客さんにいたっては、昼夜を問わず、滅多に来ない。ほとんど来ない。ぜんぜん来ないと言ってもいいくらい。たまに、旅の商人が来るくらい。

各地にある宿酒場という形は、もともとは冒険者のために作られたと聞くのに、現役の冒険者が来てくれたことは記憶に無い。

ミシア「あー、冒険者の人、来ないかな……」


そのとき――、店の扉が、ガチャリと大きな音を立てて開いた。

ハッと顔を上げる。


「おう、邪魔するぜ」と言いながら入ってきたのは、金属鎧プレートアーマーを着た大男。

高さ2メートルもある入り口でも顔がつっかえるので、体を屈めながら。

この体格は、きっとサラム人だろう。剣を持っているようには見えないけど、この鎧でサラム人なら、きっと重剣士だ!

冒険者だ!!


続いて、白いローブを着た細身の人が入ってきた。

頭からローブを被っているので、顔は見えない。

そのローブには旅の汚れが垣間見えるものの、丁寧な作りでとても綺麗だ。ボクの目には輝いて見える。


その後ろから入ってきたのは、エルフ人の女性。

美しく長い金髪に、皮鎧レザーアーマー。弓と矢筒も背負っている。

耳が長いし、背も高めなのですぐにエルフ人だと分かるが、格好も噂どおりだ!エルフ人はみんな弓の名手なんだって!

彼女は店の中を見渡して、ボクと目が合う。そして「良いお店ね」と微笑んだ。


最後に入ってきたのは、ボクと同じオラク人の男性。

こちらもローブを着ているけど、顔は出している。とても温和で優しそうな顔。

「ふう、やっと休めますね」と、嬉しそうだ。


そして、2番目に入ってきたローブの人が、頭に被っていたローブを脱いで「これからしばらくお世話になります。よろしくお願いしますね」と挨拶した。

オラク人の美しい女性だった。セミロングで水色の髪に、綺麗な瞳、微笑をたたえた唇。

まるでお姫様みたいだ!感激のあまり、自分の心がぴょんっと跳ねるのが分かる。


思わず、テーブルの上に跳び乗って、直立不動の姿勢をとってしまう。

そして右腕を曲げてお腹の辺りにもっていき、深々とお辞儀する。

ミシア「ようこそ、甘いはちみつ亭へ!」

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