一話 とある街で その1

 その黒い髪の青年は、人が沢山いる賑やかな街道を一人歩いていた。

 太陽も完全には沈みきっておらず、まだ薄暗いところを街道の脇に建てられた街灯が明るく照らしていた。

 お祭りごとでもあったかのように思わせるその賑やかさに青年は思わず、「すごいな」とここの中で呟いた。

 この街の人に聞いた話によればこれが普通なんだとか。

 しばらく歩いていると青年の耳に男二人のこんな会話が聞こえてきた。

「なあ、お前知ってるか?」

「何が?」

「ここから東に行ったところに空に浮かんだ島があるだろ?」

「ああ、あるな。それがどうかしたのか?」

「そこに巨大な何かが飛んで行くのを見たってやつがいるんだ」

「見間違いじゃないのか?」

「そいつは見間違いじゃないって言ってる。で、そいつがいうには、その巨大な何かはドラゴンじゃないかって言ってるんだ」

 その会話を聞いた青年は、二人に近づくと声を掛けた。

「なあ、あんたら。その話、ちょっと詳しく聞かせてもらっていいかな」




 青年は、今、酒場に来ている。

 別に酒を飲みに来たわけではない。

 ここに来たのはドラゴンについて話を聞くためである。

 先ほど、話を聞きに行った男二人から、話が聞きたいなら本人に直接聞きな、と言われたのでそのドラゴンを見たという人物がいるであろう場所を教えてもらい今、青年は酒場に来ている。

 青年は、キョロキョロと見回しながら、男二人から聞いた情報の男を探した。


 ・いつもカウンター席で一人で飲んでいる。


「お、あれか?」

 青年はカウンター席に一人座って酒を飲んでいる一人の男を見つけた。

 青年は、念のためにと男から聞いた別の情報とも照らし合わせた。


 ・ボロボロの服。


 ・指に切り傷がある


 情報どおりだな、と青年は心の中で思うと、男に近づいた。

「あんた、隣いいかい?」

 青年が男の隣の席に手を置きながら聞くと、男は、ああいいよ、と答えた。

「ねえ、あんた、ちょっとばかし聞きたいことあるんだけど、いいかな」

 青年のその言葉を聞いた男は、ドラゴンについてかい?、と聞くと青年は、そのとおり、という顔をして見せた。

「あんたで間違いないかな、ドラゴンを見た人っていうのは」

 その質問に少し間をおいてから、間違いないさ、と答えた。

「いいかい?聞いても」

「ああ、いいよ」

 男は、そう答えると話を始めた。


これは、よく晴れた日の午後、丘の上でぼおっと空を見ていた時に俺は、そいつを見たんだ。あれを鳥とは、思えない。あのデカい翼に長い尻尾。

 そいつは、空に浮かぶ五つの島の一つに着地した。

 俺はその時、見たんだ、五つの島のうち一番小さい島よりもそいつはデカかった。

 一番小さいとは言っても、その島もかなりの大きさだった。そんなのを鳥だと思う奴がいるだろうか。

 いいや、思わないだろう、どんな奴でもだ。

 そしたら、そいつが着地した場所から太い光の線みたいのが空に向かって伸びていったんだ。その光の線をそいつが放ったのか、はたまたその島に元々いた何かが放ったのか俺には分からない。

 そもそもあの島に別の何かがいるのかすらわかんねえがな。


 男は、話終わると、木製のジョッキに入った酒を飲み干して、

「俺が話せんのはこれぐらいだ」

 空になったジョッキを置き、そう付け加えた。

「なあ、その島って行けんのか?」

 青年は、ふと疑問に思ったこと口にした。

 すると男は、「無理だ」と真剣な顔で言った。なぜ行けないのかを男は話そうとしなかったため、青年もまた聞こうとはしなかった。

「そうか、ありがとな」

青年は、それだけ言うと席を立って酒場から出ていった。

 青年が、酒場を出ていったあと男は、

「行けるわけがないだろう、なんの力も持ってないのに……」

 そう言った時だった。誰も気付かなかったが、男の背中には、翼のような物が生えていた。






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