第11話

 病室の窓から真っ白いベッドに早朝の日差しが降り注ぐ、毛布の端には自分の腕を下敷きに寝るニーナが居た。そして先に目覚めていたレイが上体を起こし、彼女の汚れで黒ずみつつある元来明るい金髪を震える左手で撫でている。

 彼の手が髪から頬へと移るとニーナは懐いた猫のように自分から無意識に擦り合わせる、レイはそんな彼女の様子を見て小さく笑った。病衣に着替えていた彼は、自分の今では少し短い包帯が巻かれた右手を見る。しかし特に何も顔から心情を見せることも無くすぐに窓へと視線を移した。

 その時ニーナは一気に目を見開き覚醒し、腰のMEUピストルに手を掛けた。彼女の目は一瞬だけレイの驚いた顔に向けられたが、素早く上体を持ち上げる。

 同時に病室のドアがスライドして入室してきたウィリアムと対面する。

「大丈夫ですよ、彼も起きているみたいですし」

 反射的に警戒の状態でウィリアムに厳しい目つきを向けていたニーナだったが、彼の言葉を聞いて大きく息を吐くと銃から手を降ろした。そして振り返るとレイと目線を重ねてお互いに柔らかな笑みを向け合う。

「朝食を用意してあります、もちろん彼にも。ですが私たちは外でどうですか?」

「わかった、行こう」

 ウィリアムに向き直ったニーナがそう答え、病室を出ていく彼についていく。

「レイ、またあとでな」

 レイは声を出さずにただ眩い笑みを見せながら手を振って彼女を見送った。

 それからウィリアムとニーナは診療所を出ると食事ができる元々は綺麗だったであろうレストランに入った。そこでは朝食を何人もの年老いた女性たちが作り、町の住人らしき男達が受け取って各々の場所で食べていた。

 二人はこの場所の管理人らしき人物に二階のバルコニーに案内される、すでに丸いテーブルと椅子二つが用意され、テーブルには肉の入ったスープや雑穀パン、それにワインまでが置かれていた。

「どうです? これは私個人の持ち物ですが、中々なものですよ」

 椅子に座るとウィリアムがニーナの目の前に置かれたグラスにワインを注ごうとする。

「いや、遠慮しておく」

「そうですか、じゃあ早速話を進めましょう」

 ウィリアムはテーブルの上に肘をついて両手を組み、その上に顎乗せた姿勢でニーナをじっと見つめた。

「こっちはレイの治療と食事、それに病室まで貸してもらっている。ある程度の謝礼は用意するつもりだが、そっちの意見は?」

「我々は今銃器を欲しています、当然弾薬も。この町を今のような姿に維持するのにとても沢山の銃弾を消耗してしまいましたし、銃自体もまた壊れたり紛失したり数自体が足りていません。それらを譲っていただければ有難いのですが」

「武器か……」

 ニーナの車にはベネリのM4とイサカのM37、レミントンのM24、ロシア製AK104等が積まれている。どれも大体各種の弾丸五十発入りのケースが六つあった。彼女が常に持ち歩くM4A1は当然選択肢から外されている。

「なら12ゲージバックショットを百五十発とベネリM4とイサカM37ではどうだ? 町を少し見た感じだと12ゲージのショットガンなら幾つかすでにあるようだしな」

「ありがとうございます」

「こっちこそ感謝する、あなたたちのおかげでなんとかレイの命を助けられた」

「いえいえ。それで……今後は?」

「すまないが少しレイの体調が安定するまで数日休ませてもらう、それからまたエル・ヴァイオレッタに向かうつもりだ」

「気持ちは変わりませんか」

「あんたらを信じていないと言いたいわけじゃない、だが実際に自分の目で見てみないとな」

 ニーナはウィリアムにそう言って納得してもらおうとした、だが彼女はウィリアムが本当のことを言っているとは信じていなかった。実際にエル・ヴァイオレッタから来たと語っていたデリルがあの状況でウソを言うと思えなかったのだ。それにホープヴィレッジ自体が彼が語る程に安全だとも考えていなかった。

 そして二人は話と食事を済ませるとニーナのトラックの元に向かい、彼女の語っていた荷物を受け取るとホープヴィレッジの武器庫を訪れた。

 一見するとただの工具ショップだったが中に入ると売るためではなく、緊急時に使う物として店に陳列されたバットやバールが目に入った。だが店の棚に掛けられ並べられているのはどれも鈍器や刃物ばかり。

 荷物を抱えた部下を連れたウィリアムとニーナはレジが置かれたカウンターで武器庫の番をする大柄で小さな森のような髭をたくわえた男に話しかける。

「これがこちらの女性から譲っていただいた新しい武器弾薬です、厳重に管理してくださいね」

 ウィリアムはそう言うと武器弾薬を武器庫の番に引き渡し、番は裏に引き込んで荷物を保管すると再び戻ってくる。

「この通り銃器自体が足りていないのです、もし襲撃があればこれらを住人たちに渡して戦ってもらうしかありません」

「実際は銃と弾薬は裏で管理しているんだが、そう数は無いんだよ」

 番の男が呻く様な低い声で言う。

 ニーナはただ店の中を見渡し実際に武器が無いのは確かだなと感想を抱いた。


 退屈に感じ始めて煙草が欲しくなったニーナ、一方レイの病室では卒然とドアが開かれて薄汚れた格好の男達が次々と踏み込んでいた。

 一人残らず武器を携帯している、最後に部屋に入ってきた大柄の男はWeatherby製 SA-08セミオートショットガンを持っていた。他の者たちもナイフを握っていたり、拳銃を腰のベルトに差し込んでいる。

 彼らの気配や音に気が付かないレイは穏やかな寝息を立ててベッドの上で横になっている。そして入ってきた四人の男達は鈍く輝く眼球で彼を見下ろしていた。

 一人が土足でベッドに上ってレイに馬乗りになる、その瞬間彼は目を見開き驚愕の表情を見せる、だがその口を大きな毛むくじゃらの手が抑えた。馬乗りになった男は仲間から傍にあったタオルを受け取り、縄のようにまとめるとレイの口に咥えさせて後頭部で縛って即席の猿轡を作る。

 毛布を引き剥がされてベッドの上に転がされたレイの目が恐怖に染まる、潤んだ眼から静かに落涙する。彼がいくら叫ぼうとそれは小さな呻き声にしかならない、麻酔の影響がが残って力が赤子程にしか出ない彼の体の二、三倍はある巨体の男に抑えられて身じろぎ一つできなかった。

 彼の着る病衣が全身から溢れる汗で濡れてべったりと肌につく、背骨から発せられた感触の震えが始まる。


 男達に囲まれてレイが組み伏せられている頃、ニーナとウィリアムはレイの病室に向かっていた。

「ここからエル・ヴァイオレッタに向かうのであれば内陸部の公園内を通ることをお勧めします、あの車であればそう苦労しないで街まで辿り着けるでしょう」

「どれぐらい掛かる?」

「まあ……三日前後といったところでしょうか」

 ニーナは既に明後日か明々後日には出発するつもりだった、故に頭の中で必要なガソリンや食料の量を考えていた。必要があればここでウィリアムに取り計らってもらってまた弾薬か武器と交換してもらうことになるが、車には非常時を想定して携帯食や缶詰をある程度積んであった。しかもニーナと食の細いレイの二人だけ、そう多くは必要なく十分だと彼女は結論づける。

 診療所に入ると今では手入れもされず、ひびや煤汚れで荒れ果てた受付が正面に現れるが昨日は居た受付の者がいなかった。

 さらに二人は進んでいき階段を上がるとレイの病室に辿り着き、ドアの前に立った。

 ニーナはどこか背筋が震えるような、背骨をカミソリが撫でるような感触に全身の毛を逆立てる。だがその原因がわからず、ただ不安ばかりが彼女の心を冷たい手でなぞる。

 先導するウィリアムが病室のドアに手を掛ける、しかしそこで突然振り返ってニーナを見た。

「そういえば、あなたと彼の関係を聞いていませんでした。姉弟でしょうか? とても仲が良いご様子でしたが」

 レイの元で眠っていた時の安心しきった姿を見られはしなかったものの、彼の仕草やニーナの彼に関することに対する必死さから容易に想像は可能だった、そんなことに今更気が付いたニーナはバツが悪そうに顔を逸らす。

「そんなようなところだ」

 不服そうにぶっきらぼうな口調で答えるニーナだったが、その言葉を聞いていたウィリアムは至極穏やかな表情でぺったりと顔に張り付いた笑みを向けていた。

「そうでしたか、なんとも意外です」

「ん? 何がだ」

「いやですね、あなたは私と同じ匂いがしたもので」

 ニーナがつい反射的に間の抜けた声で「何?」と答えるよりに先にウィリアムが病室のドアを開いた。

 その先にはベッドの上で押さえつけられて涙を流すレイと、四人の男達が彼を囲んで見下ろしているという光景があった。一人がSA-08の銃口をレイの側頭部に向け続けているのを目にし、ニーナは瞳孔を開かせて驚愕と憤怒を入り混じらせた表情で八重歯を剥き出しに歯を食いしばった。

「見ての通りの状況です、余計な行動は慎んでいただかないと彼の頭が吹き飛んでしまいますよ。まず荷物を置いてください」

 ニーナはバックパックとM4A1、MEUピストルを床に落とした、ウィリアムの部下らしき男達がそれを回収する。

 彼は先程と全く変わらない声色でレイの傍に歩み寄っていき、馬乗りになっていた部下の男に目配せすると男はベッドから降りる。そしてウィリアムは穏やかな表情からは想像もできない程に力強く乱暴に、レイの口に回されたタオルの猿轡を後頭部から掴んで傍に引き寄せた。

 レイはベッドから引きずり降ろされかけた姿で、上半身をベッドの上に伏せたまま押さえつけられ、足はベッドの外に投げ出した形で素足が床に触れていた。

 ウィリアムは左腕でレイの背中をベッドに押し込み、右手では猿轡を引き上げて彼の顔を上向きにさせる。ウィリアムはその時から先程とは違う笑み、目を三日月に歪ませた心底楽しく興奮を覚えた様子の笑みを見せていた。

 レイは落涙させながら顎が全く動かせない程にきつく縛られたタオルを、過剰分泌して溢れる唾液で濡らし口端から顎へと垂らしてベッドの上に滴らせていた。

 恍惚とした表情でレイを見つめていたウィリアムがゆっくりとニーナの顔を見る、そして彼女の表情を見るとさらに頬を朱に染めて高揚を隠せなくなっていった。

 ニーナは表情を怒り無きものと取り繕おうとしていたが、こめかみには太い血管が浮かび、狂犬病の犬を彷彿とさせる勢いで歯を食いしばっていた。

「これは一体どういうつもりだ……」

 唸るような腹の底から響くニーナの声、それはレイが今までに聞いたことも無い、彼までもが震え上がりそうな恐ろしくドスの利いた声だった。

 しかしそれを聞いても笑みを絶やさないウィリアムは心の底から楽しそうな様子で答えた。

「こうでもしないとこれからする私の質問にあなたが答えてくれなさそうだったので。どうです、彼」

 ウィリアムはそう言うとさらに強引に右手で猿轡を引き寄せてレイの顔をニーナに見せる、悲痛な表情で涙を流す見開かれた彼の目がニーナの顔を見つめた。ニーナはその表情とウィリアムの行動に何も反応を見せない、彼女の頭はこれまでであれば一瞬で切り替わっていた戦闘時のモノに段々とゆっくり、じわじわとどす黒く変化していた。

「良い表情でしょう? 嗜虐的な感性は万人が持っていると私は信じているのでね、あなたもどこか彼の苦痛に歪めた顔、声無きままにする命乞いする目、これらで下腹部が煮え立つような感触を覚えませんか?」

「それがこんなことをしでかした理由か」

「ふむ、まあ好みは人それぞれですね。本当の理由はあなたにサンフランシスコの隠れ家の位置、そしてそこにため込んだ物資について教えていただきたいんですよ」

「何?」

 脳髄が憤怒で染まりかけていた彼女だったが、その中に僅かな困惑が混じった。

「あなたは数年もの間、あのサンフランシスコの街でたった一人君臨し続けた。街に入り込んだ者を一人残らず殺害し、物資を貯め込んでいたはずです。我々の遠征隊も三度、あなたの街に踏み込んでは消えていきました」

「それがお前らの狙い……」

「あの街は誰も入れない、生きて出られない。そして誰も中では生きていられない、あなたたった一人を除いて。徹底して用心深いあなたが一人で一体どれだけの武器弾薬と食料を貯め込んでいるのか、そしてそれがどこにあるのかを我々は知りたいのです」

「それを教えれば、いいんだな。そうすればレイを開放し、私たちをここから安全に出発させると」

「ええ、そういうことです。でも拒否するのであれば――」

「全て教える。私たちが住んでいた屋敷は感染者に襲われたが、武器弾薬も食料も分散して幾つかの場所で保管していた。その場所の詳細を教える」

「そう……ですか……ちょっと残念です、予想外でした」

「どういう意味だ」

「あなたは頑固そうに見えましたし、そう簡単には教えてくれないと思っていたのですが。もしそうなら色々とお見せしようと」

「なら――」

「ですがっ! もう関係ありません! ここの若い女性たちは私の好きにできますが、個人的には彼のような可愛らしい少年のほうが好みでして! お前たち、彼女を抑えていなさい。大丈夫、殺しはしませんから」

「ウィリアム貴様! これ以上レイの体に触れてみろ、絶対にぶっ殺すっ!」

 走り寄ろうとするニーナはSA-08の銃口が向けられて動きを止めた、同時に二人の男が彼女に駆け寄っていきそれぞれが彼女の両腕を壁に押し付けて動きを抑え込んだ。

 一人は両腕で体重を掛けながら彼女の左腕を壁に押し込み、右腕を抑える男はニーナの鼻先まで顔を寄せつつナイフの刃先を腹に押し当てている。その男の背後にはもう一人また別の男がナイフを持ちながら立って彼女を冷たく見つめていた。

「騒ぐな、あんたの相手は俺がしてやるさ」

 ナイフの刃先が彼女の首筋を撫でる。下半身から舐め回すようにニーナの体を見ていた男が視線を上げ、彼女の顔を見た瞬間その目から発せられる犬をも殺しかねない殺意に顔をこわばらせた。

 だが彼女は男から視線を外し、レイの方向を見ると今度は彼女が顔をこわばらせて青ざめた表情となった。

 ウィリアムは背後からレイのズボンを下着ごと引き下ろし、白い緩やかな曲線を描く彼の臀部を露出させた。恍惚とした表情のウィリアムは左手で彼の臀部を撫で上げ、その手で今度は自分の股座にあるフライを開いて禍々しく硬直した陰茎を取り出した。それは餌を前にした犬の涎のような液体を彼の臀部に垂らしていく。

 直接その光景を見れないレイだったが、熱された鉄棒を押し当てられるような感触で戦慄し、紅涙を流して見開いた目でニーナを見つめた。

「やめろおおおおおおおおおっっっ!」

 ニーナは咆哮を上げて飛び出そうとする。男はそれをナイフを持った右前腕で彼女の首を抑えて締め上げることで押しとどめた。喉を圧迫されて声が出ない彼女だったが、声を出せないがゆえに感情を発露させることができずに涙を流し始めた。

 垂涎しながらレイを見下ろしていたウィリアムは、自分の陰茎を掴むと腰を前に押し出してその先端を彼の肛門に一気に押し込んだ。

「――――ッ」

 強引にこじ開けられた激痛にくぐもった叫び声を上げるレイ、そして信じられないといった表情で細く煌めく涙を流すニーナ。

 容赦なく腰を前後させる無愧なウィリアムは二人の様子を見て、さらに興奮を滾らせて最早焦点すら合わない目を剥き出しにする。

 臀部と臀部、陰嚢と陰嚢、肉と肉がぶつかり合う卑猥な音が病室に響き渡る。ウィリアムと彼に犯されているレイを見る男達も興奮の煽りを受け、目じりを下げて薄気味の悪い笑みを浮かべながら股間を膨らませ始めた。

 相手のことなど一切鑑みない機械的で乱暴な前後運動に揺らされるレイはひたすらに慟哭する、きつく閉じられた目と苦しみが刻まれた顔は現状を受け入れ、直視することすら拒否しているかのよう。

 ウィリアムは一切腰の動きを緩めぬままにニーナの方向に顔を向け、今にも気絶しそうな程に忘我し切った満面の笑みを見せた。

「ふははは! 素晴らしい、最高です! 彼をレイプするのも上質なステーキを貪るように堪りませんが、あなたのその表情と目! それが彼というステーキをさらに絶品なものに仕上げる極上なソースとなるのですッ!」

 ウィリアムは乗馬の手綱の如くレイの猿轡を掴み、引き込みながら激しく腰を動かし続ける。自分自身の陰茎が血で濡れ始めたことには気が付きもしない、それでも直腸の奥に押し入られる刺激で彼の意志に反して大きくなる性器を見て満足げな嬌笑を見せた。

「お願い見ないで……ニーナぁ……」

 くぐもった彼の懇願の言葉が漏れ、暫くしてレイが静かに横になる。彼の元でニーナも眠っていた病室のベッドが、今ではウィリアムがレイを犯す激しい腰の動きにゆらされ、規則的にギシギシと軋む音を漏らしていた。

 レイは痛みと不快感から必死に両腕を動かし暴れようとする、だが残った薬の影響で力の入らぬ左手はベッドシーツすら掴み損ね、右手は血の滲む包帯で包まれた切断面がベッドの上を赤く染めつつ無力に滑るのみ。その掴むことも何もできぬ切り落とされてただの棒に成り下がった右腕が、瀕死の虫の脚が如く蠢く様子を見てウィリアムの陰茎はさらに固さを増して腰の動きも早くなる。

 既になされるがまま、突かれ揺らされるがまま、脱力したレイの目はどんよりと濁り切ってしまっていた、どこか火が消えたように光の失われた眼が眼孔の中でぼんやりと感情が失われて収まっている。

 それに反するようにピストン運動の激しさを増すウィリアム、彼は上向きの顔で白目を剥きかける程に興奮を高め。快感の頂点に達しようと腰の動きに最後の渾身の力を込めた。

「あ、あ、あぁ――」

 ウィリアムは情けないほどに力の抜けた声を数度口から漏らすと勢いよく最後の一突きをレイの臀部に叩きつけ、痙攣の如く腰を震わせて彼の腸内に精液を吐き出した。脱力した彼はレイの背中に覆いかぶさり、気絶したように倒れ込んだまま彼の首筋に舌を伸ばして舐め上げる。それから数秒体を上下させて荒い息を続けてから呼吸を整え、上体を持ち上げてレイの肛門から陰茎を引き抜いた、だがそれは一度精を吐き出しながらも未だに強直したままであり、その先端が抜かれたときにはばね仕掛けのおもちゃのように跳ね上がってその全貌が現れた。

 レイはただ投げ捨てられた人形のようにベッドの上に上半身と両腕を投げ出し、足もまた力なくダラリと床に落ちている。彼の会陰には血とボディソープのような艶っぽい白濁液の混ざったストロベリー色の液体が流れ、一滴一滴重々しく床に零れ落ちていく。

 すると予備動作も仕草も無く、レイの性器から黄色の尿が放流された。ただただ流れ出すと床の上で小さく撥ねてその尿溜まりを広げ始めた。

 ウィリアムはおやおやといった様子で眉を上げながら眼前のレイとその臀部、性器、ほとばしる尿を見下ろす。

 その時SA-08を構えていた男がベッドの方向に顔と銃口を向け、レイの放尿する姿を見て声を上げた。

「おいこいつ漏らしやがったぞ――」

 その時、ニーナが目に留まらぬ速さで右脚を持ち上げた膝蹴りを眼前のナイフを持った男の股間に打ち上げた、直撃した睾丸が破裂して陰嚢が破け散る。男が小さな女児のような声で叫び声を上げる、ニーナは男が抑えていた右腕を引き抜いて男の後頭部を掴むとハンマーの如き頭突きを鼻に叩き込む、鼻骨が折れて鼻血が勢いよく吹き出す。。

 その瞬間、病室内の男達は一人残らず背筋を駆け上がる本能的な恐怖に体を強張らせた。

 叫び声に反応して声の方向を見たウィリアムの目に入ったのは、殺意を全身から放出させているニーナだった。睨む双眼――瞼で隠されて細く覗く眼、針金が通されたかのに首から筋を浮き上がらせ、並ぶ歯を剥き出しにして限界まで開かれた口腔の奥より地獄の地響きのような咆哮を轟かせた。

 彼女はウィリアムの脳が状況を認識し始めるより早く動き出した。ナイフを持った男を頭突きで吹き飛ばした後、左腕を抑え込んでいた男の脇腹に鋼の如きブローを打ち込んで肋骨を破断、横隔膜に亀裂を走らせた。男は殴られた衝撃で体を一瞬浮かせ、激痛に腹を抱えて床に倒れ込む。

 そしてニーナは両腕が自由になると一瞬で前方のSA-08を構えた男に接近、右手でバレルを掴んで射線を自分の体から離すことで発射された散弾を逸らし、左手でストックを掴むと瞬時に引き下ろして男からSA-08を奪い、続けて銃口を鳩尾に勢いよく刺突した。

 それからバトンのように軽やかかつ素早くSA-08を回転させて構え直し、ガスオペレーション式で自動的に次弾が薬室に送り込まれた矢庭にウィリアムの腹に向けて発砲する。

 発砲炎が放出されると同時に0.3インチのOOBuckが9粒銃口から束になって飛び出し、ウィリアムの腹に飛び込んで後方に吹き飛ばして壁に叩きつけた。だが部屋の中で唯一防弾チョッキを着ていた彼は肋骨と胸骨を多重骨折させながらも死なず、激しい嘔吐に似た短い呻きを上げて吹き飛ぶと床に転がって激痛に体を捩っていた。

「このクソ女があああッ!」

 ニーナがウィリアムを吹き飛ばした直後、左側から繰り出された蹴りでSA-08が弾き飛ばされて床を滑っていく。彼女が左側を向くと、先程睾丸を潰された男が怒号を飛ばしながら右手で逆手に構えたナイフを振り下ろした。

 ニーナは肘を突き上げるようにして右前腕で男の右手首を受け止め、体の正面を男に向けつつ右手で男の右手首を掴み、左手で右ひじを押し上げると関節を極めながら掴んでいた相手のナイフを、握った右手を男の腹に押し込んだ。

 ナイフの刃が皮膚と腹筋を切り裂き、その隙間から腹圧で押し出された腸がはみ出す。

 男はただ両目をひん剥かせて体を硬直させ、ニーナはその襟首を掴んで横へと投げ捨てた。するとその背後から右手に順手で構えたナイフを突き出しながら走り寄ってくる別の男が現れた。

 彼女は突き出された右手を下に向けた右手刀で外側へと逸らし、続けて左手でその右手を掴んで回すように今度は左側に回して逸らすと、右手刀を相手の右内肘に振り下ろして肘と肩の関節を極めて左側へと投げ飛ばした。

 それから振り返ると殴られた腹を抑えた男が懐からBeretta製96A1を抜いていた、96A1を握った右腕を大きく広げて銃口をニーナに向ける。

 だが彼女は下ろした右手刀で銃を握った右前腕を押しとどめ、続けて肘を降ろした左前腕で男の右前腕を抑えると、自分の右手で男の右手を上から掴んだ。そして絡ませるように左腕を男の右手に回して自分の右手首を掴み、大きく引き上げると男は強引に右腕を動かされる形になり、自分の握る96A1の銃口をこめかみに向けさせられた。

 流れるような動きで男の右腕を絡めとって銃口を己に向けさせたニーナはそのまま間髪入れず引き金を引かせてこめかみに孔を開けた、眼球が衝撃であらぬ方向を向き、反対側の側頭部からは40S&Wが飛び出して毛が生えた頭部の破片と脳味噌が噴出した。

 脳を垂れ流す死体を投げ捨てたニーナ。すると今度は先程投げ飛ばされた男が立ち上がり、彼女の脇腹を狙った刺突が繰り出される、

 ニーナは下ろした左手刀で男の右手首を受け止めて刺突を防ぎ、大きく踏み込んで男の右腕を回して肩関節を極めると自分の肩に担ぎ、傍に立って肩を貸すような形にして男の背中を下へ押し込んで前屈みにさせてから顔面に膝蹴りを二度突き上げた。一発目で鼻が潰れて砕け、二発目で左眼球が破裂して眼孔が骨折。男の後頭部に左大腿を乗せて前転させるように投げて床に転がす。

 そこにショットガンを奪われ、ニーナのバックパックからマチェットを引き抜いた男が大きく振りかぶって彼女に斬りかかった。

 マチェットを握る振りかぶった右手首を上向きの左手刀で受け止め、体を一回転させて男の右脇に潜り込んで斬り付けられないゼロ距離に詰める。そこから腹に右フックを打ち込んで男がえずき、続けて男の右膝裏に左肘打ちを薙ぐように叩き込んで体勢を崩させる。膝立ちになって頭の位置が下がった顎に右掌底を打ち上げ、頸椎の限界まで上向きにされた頭の髪を鷲掴みにして頭部を固定、そして顎の右側面に重々しい右ストレートを放った。髪を掴まれて頭部ごと揺れることができず、顎が振り子のような動きで激しく押し込まれて、頭部が小さく回転させられると頸椎が折れて頚髄が引き裂かれた。脳からの電気信号が満足に伝わらなくなった体は脱力し、驚愕の表情のままに床へ前のめりに倒れ込んだ。

 ニーナは床からMEUピストルを掴み上げて倒れているウィリアムのほうへゆっくりと歩いていく、食いしばった歯を剥き出しにした口から獣じみた呼吸を漏らす彼女。

 その時片目と鼻を潰され、鼻血まみれの顔で床を這っていた男が声を絞り出した。

「だずげ――」

 四十五口径の重い銃声が轟く。男の方向を見ずに疾く持ち上げられた右手のMEUピストルが撃ち放たれ、その弾丸が右眼球に直撃して破裂させる。弾丸は眼球をスクランブルエッグ状に掻き回してから脳に潜り込み、掘り進みながら辺りに衝撃波を撒き散らしてめちゃくちゃに破壊しきってから首近くの後頭部から飛び出した。

 ニーナはMEUピストルをホルスターに収め、ウィリアムの傍に辿り着く前にバックパックから手榴弾を一個取り出す。

「ま、待ちなさい」

 肺から出血した血を吐くウィリアムが腹を抑えながら手を前に突き出し、彼女に静止するよう求めた。

 ニーナは憤怒の表情を隠そうともせず、鬼と形容しても足りぬほど恐ろしい顔でウィリアムの襟首を掴んで引き摺り始める。彼のダラリと投げ出した両脚の間にはナメコのように揺れる陰茎、その鈴口からは精液が流れ出ている。

「やめるんだ……やめ……ろ……」

 力なく懇願するウィリアムを無視して引っ張りながら病室の外に出たニーナ。

 そして廊下の真ん中に立った彼女はウィリアムを強引に片手で持ち上げ、鼻先同士が触れ合う寸前にまで顔を合わさせる。彼女は怯え切ったウィリアムの眼前に右手で掴んだ手榴弾を持ち上げてピンに噛みつき、引き抜く。円筒状で赤い手榴弾の側面にはAN-M14 INCEN TH3と書かれていた。

 ピンを吐き捨てたニーナはウィリアムの陰茎をぶら下げたままのズボンの中、下着の中に赤い焼夷手榴弾を握った手を突っ込み、再びいきり立ち始めた陰茎の根元に押し込む。そして手を引き抜いて襟首から手を離したと同時に、目にもとまらぬ速さの前蹴りを胸に放ってウィリアムを吹き飛ばした。

 彼は背中から廊下に叩きつけられて数メートル滑った。

 それからまばゆい光が彼の股間から発せられて煙が上がる。手榴弾からナパームを上回る摂氏二千度の鉄をも溶かす熱が瞬く間に放出、ウィリアムの大腿、下腹部と陰茎、陰嚢は皮膚どころか中身まで全てが一瞬で液体にまで溶けて流れ出した。

「ひぎいいいいいいぃぃぃぃぃぃ」

 甲高い叫び声を上げるウィリアム。打ち上げられた魚のような動きで下半身を跳ねてのたうちまわる。彼の男性器を含む下腹部は舌の上の飴より素早く形を失った。やがて倒れ込んだウィリアムの胸から下まで光に包まれて燃焼し続ける、骨まで溶かし尽くされて炭になる痛みで彼は既に熱傷性ショックで死亡していた。

 白目を剥いたままに口を開き切って舌をだらしなく垂らして絶命したウィリアムの死体が、診療所の廊下の真ん中で白い光を発しながら燃え続ける。


 ――


 ニーナは急いで病室に戻ると放心状態のまま死体のようにベッドの上で静止しているレイの身なりを整え、荷物をまとめて彼を抱え上げて診療所の一階に降りる。

 レイの顔は無表情のまま動かないが、小さく震えた体と見開かれた目からはにじみ出る恐怖があった。白い病衣のまま彼は抱きかかえ上げられてニーナの首に両腕を回し、顔を左肩に乗せて預けた体勢。ニーナは今にも大声を上げながら泣き出して彼を全力で抱きしめる衝動を必死に抑え、引き抜いたMEUピストルを構えながら受付の前を通り過ぎて診療所の出口に向かおうとする。

「さっきの音はなん――」

 診療所内にドンッという重く低い銃声が轟く。

 受付のカウンター裏にあるドアから診療所のスタッフが現れ、手にはバールが握られていた。彼は銃声を聞いて武器を持ち出してきたところを彼女と偶然鉢合わせになった、だが質問を言い終えるより先に彼女が悲し気な目で発砲した四十五口径で頬に孔を開けられ、破裂した後頭部を叩きつけながら後方に倒れ込んだ。

 診療所を出ると数名の男女が不思議そうな面持ちで待ち構えていた、男二人は手に角材と拳銃のG23をそれぞれ持っている。

 彼らは診療所からただならぬ事態を感じ取り、ニーナ達が出てくるとすぐに声を掛けた。

「ウィリアムさんはどうしましたか?」

 角材を手に持った初老の男がニーナに問う、その隣では警戒した目を向けるG23を持った若い男がいる。

 ニーナは最初にG23を持った男の胸を二度撃った、そして撃たれて驚愕した表情で男が倒れ込むより先に角材を持った男の顔を撃つ。二人の男が背中と後頭部から血と肉を撒き散らしながら大きな音を立てて倒れた。

「あのクソ野郎なら死んだよ」

 ニーナは再び歩き出して目を向けることも無く、吐き捨てるようにそう言った。

 周りに居た人たちは目の前の死体よりも彼女が言ったことが信じられず、体を硬直させてただ直立していた。だがワンピースを着た若い女が涙を流し始め、ニーナの背後に駆け寄っていく。

「まさかあなたがウィリアムさまを殺したのですかッ!」

 女性は怒りを隠そうともせず、泣き腫らした顔でニーナの背中に向けて怒鳴る。

 ニーナは振り返ると同時に右手を持ち上げて数メートルの距離から女性の顔を撃った、二十歳そこそこの若い女性は体重が軽く被弾の衝撃で弾き飛ばされるように倒れ込んで地面に転がった。

 すると突然数名の男や女達が隣に立っていた別の人間に殴りかかり、銃を撃ち、斬りかかった。

 不意に攻撃された者は反応することができず一方的に殺され、その姿を見た者はパニックを起こして逃げるか自分もまた別の人間を攻撃し始めた。

 ホープヴィレッジでは若い女性が崇拝していたウィリアムの性奴隷になっていたが、それを受け入れられていない父親や母親が多く、彼らはこの機会をチャンスとして今までウィリアムに忠誠を誓って蛮行を繰り返していた部下たちを攻撃し始めていた。またウィリアムの部下だった者たちも自分たちが彼に成り替わろうと動き始めた、武器を集め部下を集め、新たな支配体制を築こうと必死になった。

 その混乱は瞬く間に町中に広まり、至る所で殺人と暴力、略奪に強姦と地上では久しい人間の手による地獄が巻き起こった。

 だがニーナはそんな様子を全く気に掛けることも無く真っ直ぐ車に向かい、レイを後部席で横にさせた。毛布を掛けてやるも彼は虚ろな表情でただ震え続けている。ニーナにはそんな彼を直視するのが辛かった、だがそれは彼の悲惨な姿で心が引き裂かれる思いだけが理由ではなく、また直視できない心理があった。

「死ね!」

 罵声を飛ばしながら車に走り寄ってくる斧を持った男。ニーナは提げていたM4A1を瞬時に持ち上げて男の胸を撃つ、轟く銃声。血と肉の花が背中から咲き開いて男は驚愕の表情で絶命して倒れた。

 周囲がダンテの地獄よろしく惨禍の渦に飲み込まれている中、男を撃ち殺しても一切表情を変えないニーナは車に乗り込み、車に駆け寄ってよじ登り殴りつけてくる者たちを無視して走り出した。

 多くの家屋が燃えて煙に包まれた町の中、至る所で武器を手に追いかける者、武器も無く逃げ惑う者が目につく。老いた女性は手に持つ包丁を男の首に振り下ろし、また別の若い女性は路上で絶望の色に染まったまま、絶望から目を逸らそうとする男に強姦されていた。走り回る者たちを跳ねながら、轢き潰しながらニーナはゲートまで辿り着く、そしてアクセルを踏み込んでそのままゲートを破壊して町を出た。突破した時の衝撃はとても軽く、到底感染者たちが襲ってくれば防ぐことができないモノなのがニーナにはわかった。

 町の喧騒が益々大きくなり、その音は周囲の感染者たちも感じ取り始め、町に向かって叫び声を上げながら疾駆する。

 ホープヴィレッジを出てさらに南の方向に車を走らせるニーナは横目で窓の外を見た、遠くで町に向かって真っ直ぐと全力疾走する感染者の姿がある。それは町から少しずつ離れていくとどんどんと数が増えていた、彼らは既に街を目指して確実に向かっていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る