第27話
悪魔の女はまず、魔国領の都市エリアを案内してくれた。都市エリアには電車が通っており、ビルが建ち並び、車が行き交っていた。その概観は人間領の都市とほとんど変わらない。違う点はスーツを着たサラリーマンが人間ではなく、魔族である点だ。
「うわあああ。すっげー。すっげー。帝国領と変わらねーじゃん」
「そうじゃ。大抵の魔族は発電業務に就くが、就かない者も多い。彼らは通勤ラッシュでは電車の中で、おしくらまんじゅうをしながら勤務地に向かう。帰宅ラッシュ時には疲れ果てて眠って、終電までそのまま乗り過ごしちゃうという魔族もいるのじゃ」
「すっげー共感」
「たまに、酔っ払っているオッサン魔族が、独り言で騒いでいる場合もあるぞ。『ばかやろー。あいつ、ばかやろー。ばかやろーったらばかやろー』ってな具合にじゃ」
「あははは。人間領にもいるぞ。そういう人っ」
「さあ、わらわたちはここから『魔列車』に乗って、温泉地に行くぞ。ソナタの切符はこれじゃ」
「おお、いつのまに用意してくれてたんだ」
「おほほほほ。わらわは用意のよい女じゃぞ。女房にはもってこいじゃ。デートの後、ソナタは土下座してでも、わらわをめとりたいと言ってくるかもしれんのぉ」
「それは絶対ないけど、これってデートなの?」
「そうじゃよ。では、改札をくぐろうではないか。ネズミタクシーもそうじゃが、魔列車もそれ自体が生き物である珍しい乗り物じゃ。人間界でいう、馬やゾウ、みたいなものじゃのお」
僕たちは魔列車に乗った。ちゃんとした駅のホームから乗車したのだが、なぜか乗客は僕たちしかいないようだ。なお、この魔列車は線路の途中から、そのまま空に向かって走り出した。
「えええ? 飛んでる? 飛んでるの?」
「おほほほほ。新しく魔国領名物になる予定の魔列車は空をも飛べるのじゃ」
「すっげー」
「ただし、たまに乗客を食べちゃうから、まだまだ人気はないのじゃ」
「だめじゃーん。すげーと言ったの取り消しだあああ。どーりで、客が僕たちしかいねーわけだ。そんな裏話があったのかよ。人気がないどころの話じゃねーよ」
「おほほほほ。魔列車に食べられたら、その時はその時。それもまた人生。それもまた魔生」
「おめー、よく笑っていられるなー。うわっ。なんだか座席がヌルヌルしてきた。これって、唾液? 唾液なの?」
「うーん。胃液かのお?」
「げげげげ」
「目的地まで、そんなに時間は要せん。それまで命が残っておることを祈っておろう」
「公共の交通機関を利用して、命の危険を心配するだなんて初めての体験だ。ベタベタして気持ち悪いし、乗ったのをすごく後悔してる。でもな……不思議なんだけど、ワクワクもしてるぞっ。すっごく刺激的ぃーー」
「それはよかった。わらわも変わっていると言われるが、ソナタも変わっておるのお。おほほ」
魔列車は走り続けた。
しばらくすると、窓にガシャンガシャンと鉄格子が降りていく。
「お、おい……これって……」
「残念じゃが。魔列車はわらわたちを食べることにしたらしい」
「えええええ」
車内の座席が変形して、突起に変わった。周囲からは粘液が分泌され始めた。僕たちを消化しようとしているのだ。
まずい……。
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