僕の隣は不良女子
水景市は海に面した街であり、山もある。都市化が進んでいるものの、海や山といった自然も大事にしており、住み心地の良い街である。
住宅街の中歩いていくと、ご近所さんがよく挨拶してくれる。
「おや、麟ちゃん。おはよう」
「おはようございます。羽山のおばあちゃん」
僕に挨拶をしてくれた手押し車を引いた白髪の女性。この人は近所の羽山さん家のおばあちゃんで、昔から可愛がってくれている人で祖母のような存在の人である。
「いい笑顔だねぇ。またカッコよくなったじゃないかい?」
「またまたー。お世辞が上手いんだから」
2人で笑いあった。羽山のおばあちゃんはお年の割には綺麗に生え残っている歯でニコッと笑っていた。
なかなかのご高齢だが、歯は手入れが行き届いていた。本当にすごいなと心の中で思っていた。
「あ、麟くーん!」
背後から僕を呼ぶ声がした。後ろを振り向くと、三つ編みをした眼鏡の女子が手を振ってこちらにやってきた。
「お、
こちらにやってきている制服姿の女の子は
「おはよう麟くん、それにおばあちゃんもおはようございます!」
「おはよう司」
「司ちゃんおはよう。あんたも相変わらずべっぴんねぇ。私の若い時にそっくりよ」
もちろん羽山のおばあちゃんは司とも近所であるため、知り合いである。
というより、小さい時はよく2人でおばあちゃんにはお世話になっていた。
「ありがとうございます!どこかお出かけですか?」
「朝の散歩だよぉ。こうやって散歩してると力がみなぎるのさ」
手押し車を押しており腰も少々曲がっているものの、まだまだ元気なおばあちゃんであった。
その後2人で挨拶をしておばあちゃんとは別れた。
僕と司は並んで歩き学校へと向かった。
「麟くん今日も早いね」
「花壇の花に水をやらないとね」
僕は花が好きである。花は見ているだけで心を穏やかにしてくれる。
歩いていくと木々が生い茂っており、いくつかの遊具のある公園があった。
この公園にはたくさんの花が植えてある。もちろん公園の管理人が水やりを行うのだが、いい加減な人なので水やりを怠っている。
だから代わりにいつも僕が水やりを行っているのだ。
「麟くん本当に花が好きだね…」
「綺麗だし、何より親心ってやつかなー」
フリージアやゼラニウム、チューリップ、ストックといった花と言うひとつの括りの中に様々な種類がある。
某アイドルの歌の中にも「ひとつとして同じものはないから」という歌詞があるくらいだから、同じチューリップでも育つ過程は全て同じでは無い。
「さぁ、お腹いっぱい飲みな」
ジョウロで優しく土に水分を散らしていった。
「親心って。まだ子供なのに…ふふっ」
「笑わなくてもいいじゃないか。土の中からずっと見てきたんだから」
「そうだね。ごめんね?」
司には分からないだろうな。種から芽を出した時の感動を。
小学校の時に朝顔を育てた筈だけどな。
こうして水やりを一通り終えるとまた学校に向けて歩いていった。
自然と人が上手く調和しているこの街が僕は大好きである。
「そういえば、麟くん。昨日この街に来てた暴走族が一夜にして壊滅したって話聞いた?」
「いや、聞いてないな…夜はぐっすり寝てたし…」
「他の地域で結構名の知れた暴走族だったらしいけど目撃者によると1人にやられたって…」
暴走族と言うだけあって、かなりの人数がいる上に、単車に乗っている奴らに1人とは恐ろしいな。
「噂によると同じクラスの蒼葉さんらしいよ?」
「蒼葉さんて、あの蒼葉さん?」
蒼葉さんとは僕や司と同じクラスで尚且つ僕の隣の席の女子のことである。
あまり喋ったことは無いが、そんな強い人だとは思わなかった。
校門前に行くと、なんだか慌ただしくなっていた。校門に近づくごとに声が聞こえてくる。
それがやがて罵声へと変わりはっきりと聞こえるようになってきた。
校門の前にはいかつい顔をして一目で不良だとわかる格好の男たちがいた。
よく見ると顔に痣があったり、腫れ上がり痛々しい奴もいた。
「おいゴラァ!?蒼葉をだしやがれ!!!」
「ふざけんなよオラ!!返り討ちにしてやんよ!!!出て来いや!!!」
校門前でそんなこと言いながら他の生徒を威嚇していた。手当たり次第にガンつけており、不快な奴らだ。
当然他の生徒達は怯えながらそそくさと校内へと入っていった。
僕も絡まれると面倒なので、なるべく関わらないように校内へと入ろうとした。
しかし…。
「おいてめぇ。何笑ってんだよ?」
「お前俺ら見て笑っただろ?おぉ?」
なんてことだ。まさかの絡まれてしまった。しかし横には司がいる。危ない目に合わせたくなかったので、アイコンタクトをして「先に行ってくれ」と合図をした。
司をそれを理解したのか、校内へと素早く入ってくれた。
「おうおぅ?彼女にカッコ悪い姿見せないように逃がしたのか?へぇぇ?イケメンだなぁ??」
こちらの方にガンつけながら近づいてくる1人の不良。鼻や顎上といった箇所にピアスを開け、金髪のオールバックに特攻服という姿。
徐々に僕に近づきそしてゼロ距離になった。
向こうの方が背がたかかったのでこちらを見下すようにこちらを睨む。
他の生徒たちは関わらないようにとみんな学校へと入っていく。ただ一部の生徒には先生を呼んでこようとしてくれる人もいた。
「おい兄ちゃんよ?人の顔みて笑っちゃいけねぇってママに習わなかったのか?」
「笑ってませんよ。そんな失礼なことする訳ないじゃないですか?」
愛想笑いをして言い返した。そもそも笑ってないし、憂さ晴らしか何かで僕を選んだのだろう。
僕の顔はどちらかといえば女子っぽい容姿のためナヨナヨしてるように見えてちょうど良かったのだろう。
とそんなこと考えていると突然男は殴りかかってきた。
咄嗟に反応してくらうことはなかった。
「だから笑ってんじゃねぇよ?あぁ??殺すぞてめぇ!!?」
「だから笑ってないって…」
こっちの言い分なんてちっとも聞きやしない。今度は左足でのミドルキックをやってきた。
その攻撃も何とか紙一重でかわす。
危ない危ない。喧嘩は嫌いだ。どちらかが立てなくなるか、降参するまで終わらない。
「調子乗んなよてめぇ!!!!」
他の奴らもこちらへ攻撃を仕掛けてくる。
5対1。どう考えても不利である。1人の男子高校生相手に大人気ないなんて思った。
今度は別の男がこちらに殴ってくる。あいにく大振りだったため、避けるのは容易い。
しかし避けた先に、別の奴の蹴りが待ち構えていた。
もろにくらい吹っ飛ばされた。
「ぐっ…あいたた…」
しかし痛いなんて言う暇などなかった。倒れた僕を踏みつけようと2人がスタンプをやってきた。
転がることで難を逃れた。
「チョロチョロ逃げてぇんじゃねぇよ?だっせぇな!?ほらかかってこいよ?」
「1人相手に寄ってたかってやってる方がダサいと思いますが?」
ちょっとムカついたので挑発した。
案の定、わかりやすく顔色を変えてこちらほうにやってきた。
パンチをかわしたかと思えば蹴りが襲ってくるそしてそれを避けるが、後ろに回ってきたやつに羽交い締めにされて、右ストレートを1発もろに食らった。
そしてお腹に蹴りを1発別の男が食らわせてくる。
「ぐはぁっ…!!!」
口の中が切れて鉄の味がした。痣なんて作ったら姉たちに何を言われるか分からない。
地面に投げつけられたあと、袋叩きにあった。
顔面だろうがお腹だろうが関係なく蹴られた。
僕は暴力が嫌いだし、そしてこの不良たちのような大して強くないくせに虚勢をはり威張り散らすやつは虫唾が走るほど大っ嫌いである。
「オラァ!どぉした!!!!」
「調子乗ってるからこうなるだよ!!!!呆けがァ!!!!」
他の生徒たちは見て見ぬふり。自分たちは関係ないものだと思いそそくさと逃げる。
しかし、それで良い。所詮は他人なのだから、わざわざ突っ込む方がおかしい。
他の生徒たちを僕は恨んだりしない。みんなは人間らしい行動をしているだけなのだから。
「おい」
僕が袋叩きにあっているところに綺麗だがドスのきいた声がした。
不良たちがその声の方を振り向くと、そこには1人の女子高生が立っていた。
同じ高校の制服ではあるが、改造を施しており、傾奇いていた。
ゴールドのセミロング。そして切れ長の二重の目に筋の通った鼻にブルーアイズ。
一言で言えば「お姫様」。
彼女を僕は知っている。よく見た顔だったからだ。
「てめぇは…蒼葉辰美!!?」
「お前よくも俺たちの仲間を!!!!」
「てめぇへの報復に1人締めてやったよ、はぁっはぁ!!!」
不良たちはどうやら蒼葉さんに仲間のことで、因縁があるらしい。
不良たちは蒼葉さんのことろに意識がいったのか、こちらの方から離れていく。
「お前は…たしか神室木だったか…」
蒼葉さんはこちらの方を見てそう言った。どうやら僕の名前を覚えてくれているらしい。
「てめぇら、うちのクラスの生徒に何手ぇ出してんだよ?」
蒼葉さんは不良たちの方を見ると先程のとは比べ物にはならない睨みをきかせていた。
その睨みに不良たちの中には怯えているものもいた。
「昨日お前らにやられたって仲間の恨みも全部ここでぶつけてやるよ!!!!!」
リーダー各っぽい奴がそう言った蒼葉さんに襲いかかった。
「カス共が…」
蒼葉さんは目線を下げて地面にカバンを落とした。
そして次の瞬間、そこには衝撃の光景が映っていた。
何事もなく歩いている青葉さん。しかしその道には本来不良たちがいたはずである。では不良たちはどこに行ったのだろうか?
先程まで地面にいたはずの5人の不良たち。だが気づけば彼らは宙に浮いていたのだ。
いや正確にいえば、吹っ飛ばされた。そちらの方が正しい。
「うちの生徒に手を出してんじゃねぇよ?」
地面に叩きつけられた不良たちに向かって振り返りそう言葉を発した。
案の定不良たちは5人全員のびていた。
蒼葉さんは前を向きこちらの方へやってきた。
「大丈夫か?神室木?」
先程までの怖い顔の蒼葉さんではなく、いつものクールな表情の蒼葉さんであった。
蒼葉さんは倒れている。僕に肩をかし、そして何とおんぶをしてくれた。
「あ、蒼葉さん??」
「怪我してるだろ?あたしがおぶってやるから保健室行くぞ」
カバンをひろいそして校門を過ぎていった。
◇◇◇◇
「大丈夫!!?麟!!!??」
保健室にて手当を受けている僕のところへ朔夜姉がやってきた。
なぜここにいるのかと言うと、朔夜姉はこの学校の教師だから。
「大丈夫だよ。大したことないよ」
「何が大したことないの!ボロボロじゃない!!?」
朔夜姉は狼狽えた様子僕の方を見ていた。
全く過保護なんだから。
「朔夜ね…。神室木先生。大丈夫ですよ骨とか折れてないから」
「そういう問題じゃないの!?どうしてこんなことに!?」
朔夜姉からの追求は止まらない。仕方なく事情を話すことにした。
「その不良たち殺す」
「ちょっ!やめてよ!!ほんとに死んじゃうから!?」
「離しなさい!!お姉ちゃんは弟を傷物にするやつを生かしてはおかないから!!!!」
朔夜姉は鬼のような形相で先程の不良たちを本気で殺そうとしていた。
さすがに身内で殺人犯を出したくないので、痛い身体を鞭打って止めた。
「蒼葉さんが助けてくれたから大丈夫だって!!」
僕は保健室のデスクに寄っかかって腕を組んでいる蒼葉さんの方を見た。
「蒼葉さん?あなたが弟を助けてくれたの?」
「別に助けたとかでは…」
そっぽ向きながらボソボソと喋っていた。
そしてため息ひとつつき、机によっかかるのをやめてカバンをもって保健室を出ていこうとした。
「じゃ」
ドアを少々煩雑に閉めていってしまった。
保健室には僕と朔夜姉もとい神室木先生だけであった。
少々の静寂に包まれていたが、朔夜姉が口を開いた。
「麟。あなた、どうして反撃しなかったの?」
「…」
「わざわざそんな傷まで負って。あなたは…」
「神室木先生」
それ以上は言わせなかった。少し威圧的に言ってしまったが、これでいい。
別に怪我など見た目の割には痛くない。だから、朔夜姉にはこれ以上言って欲しくはなかった。
「僕そろそろ教室いきます」
「ちょっと麟!?」
「ホームルーム始まってますから早くしてくださいね?」
僕は朔夜姉に神室木先生にそう言って保健室を出ていった。
やがて自分の教室に入ると、みんな先程まで教室の外まで聞こえていた声が止んだ。
「みんなおはよう」
みんな苦笑いしつつ挨拶はしてくれた。クラスの人の中には引いている人も何人かいたが、まぁそうなっても仕方ない。
席に着くと、窓の外の景色を頬杖をつきながら見ているだけで蒼葉さんの姿があった。
「さっきは助けてくれてありがとう」
「だからそんなんじゃねぇって…」
素っ気ない態度であったが、無視されるよりは良かった。
僕はこちらを睨んでいる蒼葉さんに感謝の笑みを浮かべた。すると少し頬が赤くなり「ふん!」とまた外の景色を見ていた。
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