第4話

 「うちの旦那もあなたの恋人も、その辺にいる男は全員、人間に見えても人間じゃない。誰一人、例外は無い」

瀬川はキッチンにあった赤ワインをとりだした。

「ワイングラスを通してみた男は、全員、怪物に見える」

「浦見も?」

「私は、いっしょにお風呂に入らないといけないので、その、父と弟以外はしりません」

「私はまだ条件がわかんない」矢沢は頭をかいた。

「どうして見えるの、なんて聞かないでね。分からないから」でも、と瀬川はつけたした「私よりもあなたの方が色々試せるんじゃない? 眼鏡をかけるだけなんだし」


「私が殺されるって言ってたけど、それはどういうことですか?」

「ジャックザリッパーって聞いたことは?」

「興味は無いけど、聞いたことはあります」

「時々ね、大量殺人犯で女性ばかりを狙う者があらわれるけれど、そのうちの何人かは、私たちのように見抜いてしまった女を殺して回っていたという説があるの」

「ジャックザリッパーがそうだったということですか」

「それは、知らないけれど。でも彼のように女性ばかりを狙うって不思議に思わない? 性欲がこじれたとか? そういう人もいるでしょうけれど、そんなのをただの言いわけにして彼らは見抜いてしまった不都合な存在を消すための装置でしかないということ」

「それは、証明できないですよね?」

「証言する人なら、いる。護生の会の長の山科トミ子さん」

ますますうさんくさい、ヒメは三人を順に見まわした。

「おかしいですよ、そんなの。私は誰にも言ってないですよ。男の人が爬虫類に見えるなんて」

「先輩は、私に言いましたか?」

「いえ……」

「そうです、勝手に露見してしまうんです」

「山科さんが生きているうちは、誰が見抜いてしまった女なのかすぐにわかります。きっと男の側にも山科さんのような人がいるでしょう。そう考えると、きっとこの地域だけでなく日本中に、いやそれだけでなく世界中に点々といるでしょうね。そうやって、いつ現れるか分からない殺人者や災厄から協力して身を守ろうというのが護生の会」

台所で一滴、水が落ちた。

そして瀬川が携帯電話を取り出して、敬った言葉使いで話をし始めた。

「一週間後に予定はありますか?」瀬川の問いに、恋人が家で待っていると答えた。「残業になったとでも言っておきなさい」

「先輩は山科トヨ子さんのところに行きます。そこで今後のことをかんがえましょう」

「いや。なんでそんなことを」

「先輩」浦見は袖を掴んだ「私たちの命がかかっているんです」


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