第6話 ユニーク装備
魔法陣に入ると、光に包まれた。ものの数秒間だけ感覚が途切れて、すぐに元に戻る。
閉じていた目を開くと、俺は召喚堂と言う名が先程判明した、最初召喚された場所にいた。他のプレイヤーと鉢合わせることはないのだろうか。
そう言えば、ウルフを倒した時は経験値とか入ったけど、それ以降は入らなかったな。あれ、経験値無しのバトルなのか。だとしたら、ちょっと辛いな……
「天使様、お疲れ様でした。あのドラゴンを倒してしまうほどお強いとは……もしかしたら神を倒すのあなたなのかもしれません。モンスターよりドロップした素材を使用し、あなた様の装備をこちらで用意させていただきます。どうぞ、それらをお持ちになってください」
すると、顔に見覚えのある騎士、確かデオンだったか。その人が複数の装備品を持って近寄ってきた。
「これらがあなたに贈呈させていただく装備です。どうぞ、お受け取りください」
「あ、ありがとうございます」
なんか卒業式のような感覚を覚え、若干の緊張が身を固くする。今回は数秒待ってパネルが現れないのを確認し、デオンから装備を全て受け取る。
すると、ファンファーレが鳴り響いた。いきなりの音に肩が跳ねる。
どうやら、レベルが一つ上がったようだ。装備をストレージに仕舞い、レベルアップのパネルを確認する。
「1→2
ステータスポイントを10割り振ることができます。
装備容量が8→10になりました。」
装備容量なんてものもあるのか。
レベルアップのパネルを消すと、今度は「Quest Clear」と見出しのように書かれたパネルがあった。どうやら、レベルアップの前に表示されていたもののようだ。そこには、こう記されていた。
「Exp.2000
報酬:堕天の羽衣・星十、ミッドナイトプレート・星十、エンジェルブーツ・星十、天地創造の剣・星十」
──天使になって大体一時間半、俺、堕天した
まあ、装備容量とやらのせいで装備できるようになるのはかなり先なのだろう。だから、それまでは堕天しないということ……にしておこう。
それよりも、全ての装備が星十装備なのが驚きだ。このゲームの情報をあまり持っていないから何とも言えないが、恐らく星十というのはほぼ最高ランクだろうと予想ができる。つまり、ゲームを始めたばかりのニュービーが強力装備を手に入れたということになる。これが十数年前に流行ったという俺TUEEEEというやつなのだろうか。
……まあ、装備できないからなんとも言えないが。
それに、装備の説明をそれぞれ確認してみると、「天地創造の剣」とやらに「ユニーク」というアイコンが付いていた。どうやら、本当にユニーク装備が手に入るようだ。そして、武器の説明はこうだ。
「HP残量が三割を下回ると、スキルスロットに『二刀流』が追加され、この剣を二本に分解させて使うことができる。」
二刀流といえば、かの有名なVRMMOものラノベの主人公がやっていたやつだろう。あの黒い人だ、多分想像つく。つまり、あのようなことができるかもしれない、ということだ。
それに、堕天の羽衣が黒いコートなので、全体的にも寄せることができるかもしれない。
……いや、まあ色々アンチもいるようなので、あまり寄せにいかない方がいいかもしれないけど。
まあ、楽しみ方は人それぞれだし、俺は俺の楽しみ方をするだけだ。これからしばらくは、レベルを上げてこれらの装備が装備できるようになるまで頑張ろう。せめて剣だけでも。
「それでは、神を倒すため、よろしくお願いします。そこの魔法陣から外に出ることができます」
ジルベクトルが言うので、俺はその魔法陣から外に出ることにした。まあ、出なければ何も始まらないのだが。
これからどんな出会いや戦いが待っているのか……俺の心臓は、ここに来てからずっと高鳴りっぱなしだろう。
魔法陣に入ると、光に包まれて感覚が薄れていった。
♢
感覚が戻る。神殿の中とは違った空気感。一つ深呼吸をすると、木々の香りが鼻腔をくすぐる。辺りからは足音や話し声が、幾つも聞こえてくる。
目を開ければそこは、現実から離れた異世界。こういう世界で定番の中世的なれんが造りの建物が並び、様々な種族の人達が楽しそうに会話をしながら周りを通り過ぎていく。
木々の香りは俺がいる場所が木に囲まれているからだろう。どうやら、ここはこの町の転移の中心地的な場所らしい。メニューを開いてマップと思われる地図のようなアイコンをタップする。
他のアイコンと装備を記す人型の模型が端に押しやられ、正方形のマップが表示される。しかし、そこにはまだ白い点が一つあるだけで、他のものは何もない。この白い点は俺だろう。
「なるほど、マッピングしないといけないってことか。まだここしか分からないもんな」
マップの上部には今いる場所の名称が書かれていて、この町はどうやら「スタルト」という町らしい。名称部を細かく言えば、「スタルト/転移広場」だ。後に調べると、始まりの意味を持つ「start」の読み方を変えたものらしい。確かに、そう言われてみればそうだ。
いつまでもこの転移場所にいると迷惑になりそうなので、とりあえず広場へと出る。円形の広場からは何方向かに道が伸びていて、一箇所大きな門があった。どうやらあそこからフィールドへ出るようだ。
「さてと。まずは近場で軽くモンスターと戦ってみるか」
「ねえ、そこの天使のお嬢ちゃん」
「いや、その前に町をマッピングするべきか……」
「……ええと、聞いてる?」
「武器はどうせ装備できるのないだろうしなあ」
「ねえってば!」
肩をいきなり掴まれて、俺はビクッと肩を震わす。肩を掴んだ張本人は、驚きように「ご、ゴメン」と一言謝ってきた。
「……え、俺?」
さっきから天使だのお嬢ちゃんだのと言っていたのは、どうやら俺のことだったらしい。
「……え、まさか男の人?」
「……男です」
話しかけてきたのは、ふんわりとした白髪ロングで、碧眼の女性だった。俺が男だというのに余程驚いたのか、その人は大きな目を更に大きく開いていた。
まあ確かに、俺もぱっと見ではこのアバターを女と間違える可能性はある。しかも、目の前の女の人より数センチ身長が低いのだ。勘違いされる可能性は高いだろう。
「それで、なんですか?」
「ああ、うん。天使のプレイヤーって少ないから、少し話をしてみたいなあって思ったの。君、始めたばかりでしょ? レベル上がってるけど」
「はい、まあ……チュートリアルのバトルやってたから、もう一時間は経ってますけど」
「ああ、あの狼の後のやつ。私ワイバーンにボロカスにされたんだよねぇ」
作った笑顔、という感じではない。本心からの笑顔と見て取れる。そして、不思議と不快感はないのだ。
──こいつ、すげえリア充だな
そんな感想を抱いた。
「どこかお店入ろ。奢ってあげるよ。ケーキの美味しいお店知ってるんだよー、高いけど」
「じゃあ、ついて行きます」
「……もうちょっと警戒しよ? 多分、結構多いと思うよ、初心者の装備狙ってる人」
「まあ、攻撃されたら抵抗するか逃げるので、大丈夫だと思います。では、行きましょう」
正直、美味しいケーキと聞いた時点で引き下がるつもりはなかった。だって、美味しいものは食べれるときに食べておかないと。それに、奢ってくれるというのだから奢って貰えばいい、こういう好意は無碍にしないほうが得するのだ。多分。
「あ、俺サージェルです」
「私はアクア。よろしくね」
アクアと名乗った女性は、手を伸ばしてくる。握手を求めているのだろう。
「だめg──」
「違う」
俺はその握手に応えた。
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