第18話

彼、村上秋夫くんが、帰ってから私は一息ついた。


「言わなくてよかったのか?」

振り返ると、そこには旦那がいた。


「うん、いいの」

「俺は、直接会って、詫びたかったんだがな」

「ううん。彼の正確からして、それは止めておいたほうがいいよ」

「そっか・・・そうだな」


旦那は、さっきまで村上くんが、座っていた席に腰を下ろす。


「あなたも、変わったからね」

「何がだ?」

「高校時代とは、全くの別人だもの」


今の旦那には、高校時代の面影はない。

すっかり、落ち着いている。


私は、自分のお腹を優しく撫でた。


「彼は変わってなかったな・・・悪い意味でも、そして、いい意味でも・・・」

「そこが村上くんの、いいところだもの。弱点でもあるけど」


私は、窓の外から見える、青空を見た。

どこまでも、澄んでいる。


50年後・・・

それまで彼と顔を会わせる事はない。

その理由は、限られているわけで・・・


「俺は、村上とは、ちょくちょく顔を会わしているけどな」

「彼は、気付いていないみたいだね、全くの別人だもの・・・」

「ああ」


村上くんは、旦那が勤める美容院に不定期ではあるが通っている。

旦那は、村上くんの髪をカットしているのだ。


「正確には、床屋だけどな」

「似たようなものでしょ?」


初恋とは敗れ去るものなり。


昔の人は、そう言った。

確かにそうだ。


私の初恋は、旦那ではなく、彼、村上秋夫くんなのだから・・・


「だが、真美、ウソはよくないぞ」

「何が?」

「俺が、村上の本で感動したのは、小説ではなく、絵のほうだ」

「でも、嫌いではないんでしょ?」

「まあな・・・」

旦那は嬉しそうに、村上くんの本を読んでいる。


村上くんが付けてくれた、功暁と瀬梨。


生まれてくる2人には、元気に育ってほしい。








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