第16話

「君が、河原・・・真美さん?」

いちごちゃん・・・もとい、河原さんは笑顔で頷く。


「ようやく、思い出してくれたね」

「いや、正直まだ、記憶が混乱している」

「どうして?」

「だって・・・仲良しだったわけではないし・・・」


あの名前は、本当に適当に選んだ。

どうせ会う事は、一生ないと思っていたし、仮に会ってもわからないと思っていた。

現に、思い出せなかった。


僕は、適当に過ごして来たのだろうか?


「ねえ、村上くん」

「何?」

「君が、小説に私の名前を使ってくれたのは、運命かもね」

「違うと思う」

「私は、そう思ってるよ」


人妻の妊婦さんが、言うセリフではないと思うが、これは偏見だろうか?


「じゃあ、僕は失礼していいね。」

席を立とうとするが・・・

「待てい」

河原さんに、手首を掴まれる。


「だって、もう名前当てたでしょ?」

「話は、終わってないよ」

「名前を当てれば、帰っていいって」

「本題は、ここから」


仕方ないので、席に戻る。


「うちの旦那だんだけど・・・」

「あの不良の?」

「頭に、元をつけて」

「僕は不良の姿しか知らない」

「今は、違うから・・・」


ふたりの愛は、本物のようだ。

なら、僕に構う必要はなにと思うが・・・


何を望む?

のろけたいのか?


「うちの旦那と・・・」

「会う気はない」

「わかってるよ。私も、会わない方がいいと思ってる」

「なら、どうして旦那の話を・・・」


河原さん、ちなみに旧姓だが・・・

今の苗字は、言いたくない。


「旦那と話あって決めたんだけど、私のお腹の中の子の名前を、君に決めて欲しい」

「どうして?」

「君らなら、素敵な名前をつけてくれると思うから・・・」

「なぜ、そう思うの?」

「旦那もこの本を、読んで感動してたから・・・」


複雑な気持ちだ・・・


「それが、ひとつめだけど、おまけの理由」

「本当の理由は?」

「それは・・・」




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